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離婚することにしました
求められるその理由
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結局あたしと優斗はひとつのベッドに寝ることになった。
結婚当初張り切ってキングサイズのベッドなんか買ったのが間違いだった。
現在縦横それぞれ約360センチの八畳の寝室に幅180センチ、長さ200センチのキングサイズのベッドを置いている。
数字だけで考えれば現時点で部屋にかなりゆとりがあるし、“もう一個ぐらいベッド置いても大丈夫だ!”と注文した様だけど寝室には他にも物を置いているし部屋には内側に開くドアが付いている。
この部屋に二つもベッドを置けるのか?しかもそれぞれのベッドを離した状態で。
もうひとつベッドを置いたことを想定して、二人でメジャーで測ってみたけど“入らなくない…?”ということになり優斗は慌てて注文をキャンセルした。
普段ならそういうところまで考えるはずなのに数字だけで考えてミスするなんて、優斗らしくない。よっぽど焦っていたのだろう…
優斗もあたしも毎日家に帰っているけれど前みたいに家でいちゃいちゃしたり、一緒に映画を観たりお酒を飲んだり…ということはしなくなった。
会話は最低限だ。今日よく喋ったなぁ…と思う日は佳江さんのお見舞いに行く前日あたりにその日のスケジュールを話す時とお見舞いの当日に佳江さんを交えて三人で話す時ぐらい。
そんな生活になり今まではくっついて眠っていた優斗に背を向けて寝る様になったけれど、あたし達は体の関係を持ち続けている。
毎日求められるわけじゃないし、あたしからも求めない。
最初の方は嫌、やめてって言ってるのに最後までやられちゃった…と思っていたけど、数回体を重ねるうちにどんな時に優斗があたしを抱こうとするのかがわかってきた。
優斗が求めてくるのは決まって佳江さんのお見舞いに行った日の夜だ。
一日、また一日と時間が経つにつれ佳江さんとお別れする日が近づいていく。
佳江さんの病気の進行はゆるやかで、容態が急変するということはほぼないと医者からは言われている。けれど、進行が止まることはない。真綿で首を絞める様にじわじわと病魔が佳江さんの体を蝕んでいく。
抗がん剤で髪が抜けていき、「ウイッグ作ったのよー、思い切って今までしたことない金髪にしちゃった!」と佳江さんがウィッグを被った姿を得意げに見せてきた時があった。
「似合うよ」「可愛いですね」とあたしと優斗は精一杯笑顔を見せて言ったけどその日の帰り道、あたし達は何も話せなかった。
佳江さんに会えるのは嬉しいけど、亡くなった時のことを思うと胸が張り裂けそうになる。
あたしも辛いけど、それ以上に辛いのは優斗だ。自分と唯一血が繋がっている母親の変わりゆく姿を見なければならない苦しさ、死に対する恐怖は計り知れない。
その苦しさや恐怖を少しでも和らげたいが為に本能的に人の温もりを求めてしまうのだろう。実際にそういう話を聞くことがある。
そう思うと無下に出来なくてだめ…って言いながら受け入れてしまう。
あたしが拒否したら、優斗は他の人とするんだろうな…拒否してもしなくても、するのかな…してるんだろうな…いつもそんなことをぼんやり考えながら抱かれている。
プライベートに必要以上に干渉しない、そう決めているから言えないし聞かないけどまだ同級生の子とは続いてるのかな…
そういうことばっかり思ってしまうからか、あたしは優斗に抱かれてもイケなくなってしまった。…優斗は毎回出してるけど。
そのことを申し訳ないと感じているのか、求めてしまうことを申し訳ないと思っているのかはたまた別のことなのかとりあえずごめん、と言ってしまうだけなのかよくわからないけど時々謝られることがある。
あたしは大丈夫…、とだけ答えている。何が?何で?とか聞いたところで何かいいことがあるわけでもないだろうし。
曖昧な、不思議な関係。それは同居離婚を決めた時から始まっている。
…同居離婚を始めて二ヶ月近く経ち、12月になった。契約書通り食事や洗濯は各々でこなし、掃除もお互い滞りなく行い、佳江さんのお見舞いにも二人で行っている。
職場で旦那さんとどう?仲良くしてる?と聞かれたら仲良いですよ、と適当に流しているしけっこう平和に過ごせている。同じ家に住んでいるのだから離婚したなんて誰一人思いもしないだろうし。
ただあくまで表面上の話で、心の中は決して平和ではない。皆を騙しているのだから、罪悪感を常に持ちながら過ごしている。
会社の人にはお祝いしてもらったし、佳江さんはあたし達が仲良く暮らしていると思っているわけだし…
皆に離婚したことを隠して毎日過ごしているけど、離婚したことをちゃんと言わなければならない相手がいる。会社の人事部。
同居離婚は誰にも口外しない、という契約だけれど人事部に関しては特例だ。特例というか避けては通れない当たり前のことだ。
なかなか言い出せなくてぎりぎりまで黙ってしまっているけれど、12月となると年末調整もあるし、話さないわけにはいかない。
絶対に話さないといけないし、何としても口止めしなければならないのだ。
何で直ぐに言わなかったのか、と責められる可能性もありえるし、あたしはとても憂鬱だった。
それは人事部の人間があたしにとってものすごく苦手なタイプだから、ということも大きい。
極力関わらないようにしてるのにな。人事部の、本城さん…
結婚当初張り切ってキングサイズのベッドなんか買ったのが間違いだった。
現在縦横それぞれ約360センチの八畳の寝室に幅180センチ、長さ200センチのキングサイズのベッドを置いている。
数字だけで考えれば現時点で部屋にかなりゆとりがあるし、“もう一個ぐらいベッド置いても大丈夫だ!”と注文した様だけど寝室には他にも物を置いているし部屋には内側に開くドアが付いている。
この部屋に二つもベッドを置けるのか?しかもそれぞれのベッドを離した状態で。
もうひとつベッドを置いたことを想定して、二人でメジャーで測ってみたけど“入らなくない…?”ということになり優斗は慌てて注文をキャンセルした。
普段ならそういうところまで考えるはずなのに数字だけで考えてミスするなんて、優斗らしくない。よっぽど焦っていたのだろう…
優斗もあたしも毎日家に帰っているけれど前みたいに家でいちゃいちゃしたり、一緒に映画を観たりお酒を飲んだり…ということはしなくなった。
会話は最低限だ。今日よく喋ったなぁ…と思う日は佳江さんのお見舞いに行く前日あたりにその日のスケジュールを話す時とお見舞いの当日に佳江さんを交えて三人で話す時ぐらい。
そんな生活になり今まではくっついて眠っていた優斗に背を向けて寝る様になったけれど、あたし達は体の関係を持ち続けている。
毎日求められるわけじゃないし、あたしからも求めない。
最初の方は嫌、やめてって言ってるのに最後までやられちゃった…と思っていたけど、数回体を重ねるうちにどんな時に優斗があたしを抱こうとするのかがわかってきた。
優斗が求めてくるのは決まって佳江さんのお見舞いに行った日の夜だ。
一日、また一日と時間が経つにつれ佳江さんとお別れする日が近づいていく。
佳江さんの病気の進行はゆるやかで、容態が急変するということはほぼないと医者からは言われている。けれど、進行が止まることはない。真綿で首を絞める様にじわじわと病魔が佳江さんの体を蝕んでいく。
抗がん剤で髪が抜けていき、「ウイッグ作ったのよー、思い切って今までしたことない金髪にしちゃった!」と佳江さんがウィッグを被った姿を得意げに見せてきた時があった。
「似合うよ」「可愛いですね」とあたしと優斗は精一杯笑顔を見せて言ったけどその日の帰り道、あたし達は何も話せなかった。
佳江さんに会えるのは嬉しいけど、亡くなった時のことを思うと胸が張り裂けそうになる。
あたしも辛いけど、それ以上に辛いのは優斗だ。自分と唯一血が繋がっている母親の変わりゆく姿を見なければならない苦しさ、死に対する恐怖は計り知れない。
その苦しさや恐怖を少しでも和らげたいが為に本能的に人の温もりを求めてしまうのだろう。実際にそういう話を聞くことがある。
そう思うと無下に出来なくてだめ…って言いながら受け入れてしまう。
あたしが拒否したら、優斗は他の人とするんだろうな…拒否してもしなくても、するのかな…してるんだろうな…いつもそんなことをぼんやり考えながら抱かれている。
プライベートに必要以上に干渉しない、そう決めているから言えないし聞かないけどまだ同級生の子とは続いてるのかな…
そういうことばっかり思ってしまうからか、あたしは優斗に抱かれてもイケなくなってしまった。…優斗は毎回出してるけど。
そのことを申し訳ないと感じているのか、求めてしまうことを申し訳ないと思っているのかはたまた別のことなのかとりあえずごめん、と言ってしまうだけなのかよくわからないけど時々謝られることがある。
あたしは大丈夫…、とだけ答えている。何が?何で?とか聞いたところで何かいいことがあるわけでもないだろうし。
曖昧な、不思議な関係。それは同居離婚を決めた時から始まっている。
…同居離婚を始めて二ヶ月近く経ち、12月になった。契約書通り食事や洗濯は各々でこなし、掃除もお互い滞りなく行い、佳江さんのお見舞いにも二人で行っている。
職場で旦那さんとどう?仲良くしてる?と聞かれたら仲良いですよ、と適当に流しているしけっこう平和に過ごせている。同じ家に住んでいるのだから離婚したなんて誰一人思いもしないだろうし。
ただあくまで表面上の話で、心の中は決して平和ではない。皆を騙しているのだから、罪悪感を常に持ちながら過ごしている。
会社の人にはお祝いしてもらったし、佳江さんはあたし達が仲良く暮らしていると思っているわけだし…
皆に離婚したことを隠して毎日過ごしているけど、離婚したことをちゃんと言わなければならない相手がいる。会社の人事部。
同居離婚は誰にも口外しない、という契約だけれど人事部に関しては特例だ。特例というか避けては通れない当たり前のことだ。
なかなか言い出せなくてぎりぎりまで黙ってしまっているけれど、12月となると年末調整もあるし、話さないわけにはいかない。
絶対に話さないといけないし、何としても口止めしなければならないのだ。
何で直ぐに言わなかったのか、と責められる可能性もありえるし、あたしはとても憂鬱だった。
それは人事部の人間があたしにとってものすごく苦手なタイプだから、ということも大きい。
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