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離婚することにしました
離婚成立
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佳江さんのお見舞いを終えてホテルにチェックインして、一晩考えた。
佳江さんはとても大事な人だ。自分のお母さんぐらい大好きだ。
そんな佳江さんと家族じゃなくなってしまって、本当にいいんだろうか。
でも離婚する、しない…こればっかりはあたしと優斗の問題だ。
あと一年。優斗が言ったその期間は佳江さんが生きている間…ということを意味する。
佳江さんがどうなるかわからない。一年以上生きてくれるかもしれない。それはとても嬉しいことだ。
でも優斗がまた浮気したら、と思うと辛い。夫婦でいる限りはその思いがついて回る。不安なまま過ごしていくのは嫌だ…
寝ずに考えた。
佳江さんのこと。優斗に浮気されたことへの辛さ、情けなさ。泣きながら色んなことを思い出して考えた。
朝、ホテルをチェックアウトした後腫れた瞼で近くのカフェに入り、気持ちを整理する為に今後のことをもう一度考えた。お店の中なら人の目もあるから涙は出ないだろうと思っていたけど結局少し泣いてしまって紙ナプキンでさりげなく何度か涙を抑えた。
あたしが泣いていようが周りは気にしないだろう。さすがに嗚咽をあげたり泣き叫んでいたら見られるだろうけど…
誰も見ていないのに、あたしは周りの目を必要以上に気にしてしまう。特に仕事の時はそれが顕著に表れる。変な言動をしていないか、嫌われるようなことをしていないか、一括りで言えばファッション業界である会社に勤めているからオシャレな人が多いし、あたしもオシャレするのは好きだし着飾っているつもりだけどダサいと思われていないかとか…
会社にいじめはない。皆仕事に一生懸命取り組んでいるし、そんなことをしている暇はないし。けど女性が多い職場なこともあり噂好きな人がいたりあの人の言い方嫌だわー、好きになれないっていうか嫌いーとか言う人がいたりはするし、それが耳に入ってくる。考えが合わない人がいるのは当然のことだし、だからこそ皆割り切って表面上は笑顔で仕事をしているし嫌がらせなんて絶対しない。
けどそれはそれで怖い。あの人、○○さんのこと嫌ってたよね?なのにその人にご飯行きましょうよぉ!とか誘っているのを見ると怖くなる。コミュニケーションは大事だと思うけど、嫌いな人にわざわざ取り入るなんて…
そんなことをねちねち考えてしまうあたしも性格が悪いと思う。思ったことを言えないから、心の中で怖いなぁ、って怯えてるだけ。この人苦手だなぁ…と思う人はいるけれど、なるべく他の人には話したくないと思っている。
「一ノ瀬さんは人の悪口絶対言わないよね!すごいですよねっ」
なんて言われたらそれが普通じゃないの?…皆言ってるの?と思ってしまって怖くなる。
そんなことを気にせず生きていける人になれたらいいのにな…
「ただいま」
「未央!」
家に帰ると優斗が玄関まで飛んできて、あたしを抱きしめた。
「やめてよ…」
とっさに離れると優斗は寂しそうな顔でごめん…と呟いた。
夫婦じゃなくなるかもしれないのに、なんで優斗はこんなこと出来るんだろう。
でも…
「一晩考えたけど、あたしの意思は変わりませんでした。離婚して下さい」
「…どうしても、無理?なんだよね…」
優斗が俯いて溜息をついた。溜息をつきたいのはこっちだよ。他の女の人とあんなことしたくせに。
「昨日佳江さんに会ってきた」
「…そうなの?」
「大丈夫、離婚するとか言ってないから。…っていうか、言えなかったし…」
「そっか…」
「一年、っていうのは佳江さんが生きている間はせめて…そういう意味なんでしょ」
「…そうだね…」
「心配かけたくないから佳江さんを騙すんだよね」
「騙すとかそんなんじゃ…」
「騙すことになるじゃん。佳江さんも、友達も、会社の人も皆を欺くんだよ。佳江さんのことも、世間体を保つことも大事だと思ってるんだよね、優斗は」
「…」
「…一緒に皆を欺いてあげる」
あたしも優斗も弱い。
あたしほどじゃないけど、優斗も周りの目を気にするタイプだ。人に極力嫌われないように、うまく生きている。
そんな似たもの同士だから惹かれあったのだと思う。
弱いくせに、弱いからこそ本当のことを言えず、大事な人を傷つけたくなくて大事な人に嘘をつく。
優斗が離婚届を記入している間、あたしは目を逸らしていた。自分から言い出したくせに、見るのが辛かった。
「間違えずに、ちゃんと書いてね。最後は二人で確認しようね。そしたら出しに行くから」
夫婦の最後の共同作業。
区役所に提出すればあたし達は「元夫婦」になる。元夫婦の初めての共同作業。
それは皆を騙すこと。
佳江さんはとても大事な人だ。自分のお母さんぐらい大好きだ。
そんな佳江さんと家族じゃなくなってしまって、本当にいいんだろうか。
でも離婚する、しない…こればっかりはあたしと優斗の問題だ。
あと一年。優斗が言ったその期間は佳江さんが生きている間…ということを意味する。
佳江さんがどうなるかわからない。一年以上生きてくれるかもしれない。それはとても嬉しいことだ。
でも優斗がまた浮気したら、と思うと辛い。夫婦でいる限りはその思いがついて回る。不安なまま過ごしていくのは嫌だ…
寝ずに考えた。
佳江さんのこと。優斗に浮気されたことへの辛さ、情けなさ。泣きながら色んなことを思い出して考えた。
朝、ホテルをチェックアウトした後腫れた瞼で近くのカフェに入り、気持ちを整理する為に今後のことをもう一度考えた。お店の中なら人の目もあるから涙は出ないだろうと思っていたけど結局少し泣いてしまって紙ナプキンでさりげなく何度か涙を抑えた。
あたしが泣いていようが周りは気にしないだろう。さすがに嗚咽をあげたり泣き叫んでいたら見られるだろうけど…
誰も見ていないのに、あたしは周りの目を必要以上に気にしてしまう。特に仕事の時はそれが顕著に表れる。変な言動をしていないか、嫌われるようなことをしていないか、一括りで言えばファッション業界である会社に勤めているからオシャレな人が多いし、あたしもオシャレするのは好きだし着飾っているつもりだけどダサいと思われていないかとか…
会社にいじめはない。皆仕事に一生懸命取り組んでいるし、そんなことをしている暇はないし。けど女性が多い職場なこともあり噂好きな人がいたりあの人の言い方嫌だわー、好きになれないっていうか嫌いーとか言う人がいたりはするし、それが耳に入ってくる。考えが合わない人がいるのは当然のことだし、だからこそ皆割り切って表面上は笑顔で仕事をしているし嫌がらせなんて絶対しない。
けどそれはそれで怖い。あの人、○○さんのこと嫌ってたよね?なのにその人にご飯行きましょうよぉ!とか誘っているのを見ると怖くなる。コミュニケーションは大事だと思うけど、嫌いな人にわざわざ取り入るなんて…
そんなことをねちねち考えてしまうあたしも性格が悪いと思う。思ったことを言えないから、心の中で怖いなぁ、って怯えてるだけ。この人苦手だなぁ…と思う人はいるけれど、なるべく他の人には話したくないと思っている。
「一ノ瀬さんは人の悪口絶対言わないよね!すごいですよねっ」
なんて言われたらそれが普通じゃないの?…皆言ってるの?と思ってしまって怖くなる。
そんなことを気にせず生きていける人になれたらいいのにな…
「ただいま」
「未央!」
家に帰ると優斗が玄関まで飛んできて、あたしを抱きしめた。
「やめてよ…」
とっさに離れると優斗は寂しそうな顔でごめん…と呟いた。
夫婦じゃなくなるかもしれないのに、なんで優斗はこんなこと出来るんだろう。
でも…
「一晩考えたけど、あたしの意思は変わりませんでした。離婚して下さい」
「…どうしても、無理?なんだよね…」
優斗が俯いて溜息をついた。溜息をつきたいのはこっちだよ。他の女の人とあんなことしたくせに。
「昨日佳江さんに会ってきた」
「…そうなの?」
「大丈夫、離婚するとか言ってないから。…っていうか、言えなかったし…」
「そっか…」
「一年、っていうのは佳江さんが生きている間はせめて…そういう意味なんでしょ」
「…そうだね…」
「心配かけたくないから佳江さんを騙すんだよね」
「騙すとかそんなんじゃ…」
「騙すことになるじゃん。佳江さんも、友達も、会社の人も皆を欺くんだよ。佳江さんのことも、世間体を保つことも大事だと思ってるんだよね、優斗は」
「…」
「…一緒に皆を欺いてあげる」
あたしも優斗も弱い。
あたしほどじゃないけど、優斗も周りの目を気にするタイプだ。人に極力嫌われないように、うまく生きている。
そんな似たもの同士だから惹かれあったのだと思う。
弱いくせに、弱いからこそ本当のことを言えず、大事な人を傷つけたくなくて大事な人に嘘をつく。
優斗が離婚届を記入している間、あたしは目を逸らしていた。自分から言い出したくせに、見るのが辛かった。
「間違えずに、ちゃんと書いてね。最後は二人で確認しようね。そしたら出しに行くから」
夫婦の最後の共同作業。
区役所に提出すればあたし達は「元夫婦」になる。元夫婦の初めての共同作業。
それは皆を騙すこと。
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