同居離婚はじめました

仲村來夢

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突然後輩とそうなりました

帰宅

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「やばい、もう出ないと」

あんなことをしているうちになんだかんだでチェックアウトの時間になってしまった。

優斗はどんな風に思っているのだろう。怒ってるかな。嫉妬とかそういうのは無くても契約違反をしてしまったからその部分で怒っていると思う。帰ったらちゃんと謝らなくちゃいけない。けど、謝って済む問題かな…

優斗も帰ってきてなかったらいいのに、なんて思ってしまう。

「なぁ」

先に服を着終わった佐伯くんに後ろから抱き締められた。

「…どうしたの?」

「俺他人に興味ないって言ったじゃん」

「そうだね」

「けど俺未央には興味ある」

ん?どういうこと?振り返ると佐伯くんがあたしの目を真っ直ぐ見た。

「未央のこと好きになった」

「…え?ええ??いつ?」

「今日。びっくりした?」

「…うん」

「わかるよね?俺言いたいこと我慢出来ないし嘘もつけないから。…離婚して俺と付き合って」

「何言ってるの?離婚なんて、そんなの簡単に出来るわけじゃないんだよ…」

「部下に手出して、その上好きにさせるなんて上司失格だよね。責任取って離婚して俺の事好きになってよ」

もう離婚してるけどね…。にしても佐伯くんの強引さには驚いてしまう。すごい自信だし…

まぁこの顔だから色んな女の子を落としてきたのだろうけれど…性格は社内では生意気とか根性悪いとか言われているけどいわゆる“オラオラ系男子”が好きな女の子はけっこう多いからモテると思う。

「無理だよ…」

「旦那さんのこと好きなの?」

「…当たり前じゃない」

「じゃあなんで旦那さんの名前呼びながら泣いてたの?」

「…あたし泣いてたの?」

「さ、出ましょ」

自分から言い出しておいて佐伯くんはあたしの質問をスルーして部屋を出た。気になるに決まってるのに、スルーするなら最初から言わなければいいのに。

***

「ちょっと…こんなところでやめてよ…」

「お別れするの寂しいし。ちゅー」

佐伯くんがエレベーターの中であたしを抱きしめてキスをした。

「もう…」

急にものすごく恥ずかしくなってきた。…佐伯くんのノリが若すぎて困惑してしまう。

「何赤くなってんの?これ以上のことしたのに」

そんな言葉を残して佐伯くんがあたしの頭をぽんぽんと軽く叩き、先にエレベーターから降りた。

「じゃあ俺こっちから出るから。お疲れ様でした」

「あ、ありがとう…」

佐伯くんが振り向いてあたしに微笑んで正面の出口から出ていった。

あたしは人目につかない裏の路地につながる出口から出た。自動ドアが開いて、あたりをきょろきょろ見回し誰もいないことを確認して何食わぬ顔でホテルを出た。いや…自分ではそう思っているけれど実際は挙動不審だったかもしれない。

こんな場面、あたしのことを知ってる人に見られていたら終わりだよな。傍から見れば既婚者のくせに他の男の人と、しかも職場の後輩とあんなことして…

佐伯くんは本気で言っていたのかな。離婚してってあんなに軽々しく、しかも泣いてたとか謎な言葉を残してさっさと帰っちゃったからちゃんと聞けなかった。

あたしは一人電車に揺られながら昨日の夜から今日の朝までのことを思い出していた。

…けど、めちゃくちゃ気持ちよかった…。あんなに何回もいっちゃったのは久しぶりというか、もしかしたら初めてかも。

優斗としても全然いけなくなっちゃったから爆発したのかな…

また誘われたらどうしよう。

断固として断らなくちゃ、そう思うけど自信がない自分が恥ずかしくなった。

何してるのかな、あたし…優斗が他の女の子とキスをしているのを見て勝手にショックを受けて、やけ酒して佐伯くんとあんなことして朝帰りなんて。…自分が自分でわからない。

「ただいまぁ…」

小さく声を発しつつ鍵を回して、極力音を立てないようにドアを開けるとおかえり、とリビングの方からすぐに返事が返ってきた。

中に入ると優斗がソファに寝転がってスマホをいじっていた。

「遅かったね」

手を止めることなく、こっちを見ることもなくあたしに声をかけた。

「優斗、もう起きてたんだね…」

「っていうか寝てない。未央いつ帰ってくるんだろって思ったら寝れなくて」

「契約違反しちゃって、ごめんなさい!何か出来ることはあるかな、出来ることは何でもするから、本当にごめ…」

「何もないよ」

「…」

言葉を遮られてしまいあたしは黙り込んだ。

優斗、めちゃくちゃ怒ってる…結婚してた時に数回喧嘩したからわかる、怒ると優斗は目を合わせてくれなくなる。当たり前だよね、約束していたことを破ってしまったのだから。

「…じゃあ俺も契約違反して未央に干渉するね。正直に話してくれたらそれでとんとんにする」

「…はい…」

「昨日はどこに泊まってたの?」

「えっと…」

ホテルです、とは言いづらかった。

「ラブホ?」

「…うん…」

あたしが頷いた途端、優斗が大きく溜息をついた。

「俺が心配してる頃未央は誰かに抱かれてたんだね」

「…そうです」

「…了解」

優斗が立ち上がって寝室の方に向かっていった。

「恋愛は自由だけどラブホはどうかと思う。誰かに見られたらやばいし。明日のこと話したいけど眠いから起きたら話そ」

振り向いてあたしの方を見て、そう言い残して。…明日は佳江さんのお見舞いの日だ。

優斗だって女の子とタクシー乗ってどこかに行ってしまったくせに。どうせ家に行ったんでしょ?ホテルか家かの違いだけですることは同じじゃん。

そう言いたかったけれど今のあたしには優斗を責める権利なんてない。いくら優斗のあんな姿を見たからって契約違反をしたのは自分なんだから…

あたしはとぼとぼ歩きながら洗面所に行き洗濯機を回し始めた。

しゃがみこんで、洗濯機の窓から中をずっと覗いていた。

ドラム式の洗濯機の中の洗濯物は規則正しくぐるぐると回っている。あたしの頭の中…は規則正しくはないけれど同じ様にぐるぐると回っていた。

自分が悪いとは言え優斗にあんなに怒られたことには驚いた。

契約違反に対して怒っているのだろうけど、もしかしたら嫉妬をしてくれているのか…そんなことを思うなんて我ながら能天気な頭だ。

「あ…」

ポケットに入れていたスマホを取り出し見ると、本城さんから「明後日の月曜日、ご飯行こ 」と連絡が来ていた。

ある意味強引なのかもしれないけれど、あたしが離婚したことを知っているのだから本城さんは悪いことをしているわけじゃない。

明後日、佐伯くんに会うと思うと気まずくて憂鬱だな…
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