同居離婚はじめました

仲村來夢

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突然後輩とそうなりました

現場目撃

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本城さんに離婚の話をしてから数ヶ月が経ち、4月になった。優斗と同居離婚を初めて半年が経つ。

本城さんに離婚を報告したあの日の翌日。すぐに動いてくれて何の問題もなく、誰にバレることもなくさらっと手続きが終わり無事に年を越せた。…そして月に1、2回ほど食事に連れて行か…連れて行って頂いている。

本城さんは相変わらずだ。食事に行く度に未央ちゃんは可愛い、彼女にしたい。こんなに可愛い奥さんが家で待ってたら毎日すぐ帰っちゃうな、なんて言ってあたしをからかってばかり。そんなことばっかり言っても会社の上司と部下だし本城さんが手を出してくるようなことは当然ない。

けど…もしかして本気で言ってるのかな?と疑問に思い始めている。自惚れかもしれないけどそれぐらい本城さんはぐいぐい来る。

「周りは未央ちゃんを既婚者だと思ってるからね」っていつも気を使ってくれて極力人目のつかない隠れ家的なお店や、初めて食事に連れていってもらった時のお店に連れていってくれる。

本城さん、あたしと食事に行って何か得することあるのかな。無いよね…

優斗とは変わらず順調?だ。大きな問題も無く、各々でする家事も分担してやる家事も滞りないし毎日家に帰っているし、佳江さんのお見舞いにも行っている。着替えや必要なものの準備は優斗と交代しながらやっているし、佳江さんもお医者さんが言う通り病態が急変することもなくあたし達は安心している。安心、ていう言い方はおかしいけど。…だんだん痩せていく佳江さんを見るのは毎回辛い。

そしてあたしと優斗の体の関係も、相変わらず続いてしまっている…

求められる日が増えたし、求められる回数が多いほどあたしが断る回数も増えた。

ただやっぱり佳江さんのお見舞いに行った日の夜は断れなくて、受け入れてしまう。

体が壊れちゃうんじゃないかってぐらい激しくされる夜も、あたしが優斗を宥める様に抱きしめる夜もある。

彼女?と続いているのかどうかはわからない、聞かないまま。干渉はしない約束だし言わないけど、気になるかならないかで言えばやっぱり気にはなる。

仕事の帰りに本城さんと食事に行った日はいつもより帰りが遅くなっているけれど、優斗はそのこと気になったりするのかな…

まぁそんな風にもやもやしながら過ごしている最中に優斗が彼女と続いていることが決定的になった。

本社の新人歓迎会が終わった後外に出て、2次会に行こうと流しのタクシーを探し、社長や本城さんや部長クラスの社員にはもちろんの如く先に乗ってもらい、また探し…を新人の子たち三人が手分けしてやってくれていた。

「私も手伝うね」

「一ノ瀬さんにそんなことして頂くなんて申し訳ないです!」

「いいから、いいから」

あたしだって新人時代はお店を決めたりタクシーを手配したり会費を集めたり大変だった。入社して年数が経ったから今ではそういうことも無くなったけれどかなり苦労したのを覚えている。

その頃の本社メンバーは十数人ほどだったけれど、事業拡大した今は新入社員を採用する人数が増えたし時には中途採用の人もいるからそれは倍ほどになっている。

それだけ人数がいればタクシーの手配を前もって済ませておくべきだったのかもしれないけれど、そこまで気が回らなかったのだろうし別にそれが悪いことじゃないと思う。

“何で俺達、私達がそんなことしなくちゃダメなんですか?”なんて言わず気が付かなくてすみません!と一生懸命タクシーを探す姿は可愛いとさえ思えてしまう。

「あ、いたいた」

20メートル程先にタクシーが見えたので皆の輪から離れ、早足でそちらに向かいながら近付いて行ったけれど、あたしは挙げていた手を咄嗟に引っ込めてしまった。

その視線の先に優斗が女の人とキスをしている衝撃のシーンを目撃してしまったのだ。

キスは女の人からしていた様で優斗は焦って体を離していたけど、あたしが止めようとしていたタクシーに一緒に乗り込んで行った。…優斗はあたしに全く気付いていない様子だったし、とにかく驚いてあたしは呆然と立ち尽くした。

「あぁー取られちゃいましたね…って一ノ瀬さん?どうしたんですか?」

こちらに近付いてきた後輩の佐伯くんが顔を覗き込んだ。

「気分でも悪いです?え、ちょっと…」

ぽろぽろと涙を零しているあたしを見て佐伯くんはぎょっとして、目の前を通ったタクシーを止めた。

「一ノ瀬さん急に気分悪くなっちゃったみたいなんで僕送って帰ります。お疲れ様でした!」

まだ残っている数人に佐伯くんが声を掛けて押し込まれる形であたしはタクシーに乗せられ、その後佐伯くんが乗り込んできた。

「一ノ瀬さんの家どこでしたっけ?」

「……」

…ショックが大きくて、言葉を忘れてしまったかのように一言も話せなかった。

あたし、まだこんな風になっちゃうんだ。割り切ってきたはずなのにこんなに辛いんだ。

それが情けなくて、余計に涙が出てきてしまった。

「一ノ瀬さーん」

お酒のせいか、ショックのせいか。頭を殴られた様に痛い。

「…すいません運転手さん、○○まで行ってください」

佐伯くんが言った場所はここから30分近く距離のある、落ち着いた雰囲気のお店が多い飲み屋街だった。

「付き合ってもらえませんか?大人数で飲むの苦手で。帰りたくなったらいつでも帰ってもらって大丈夫ですし」

「…わかった」

声を一生懸命絞り出してたった4文字を発するだけで精一杯だった。

佐伯くんは何も聞かず、黙って窓の外を眺めている。
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