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(32)─現在─君を想う日々─〈手紙〉─

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六月になり、俺の就職活動もひとまずは落ち着いた時だった。(希望していた会社の内々定をもらった。)

俺が、高校の卒業式のあの日から三年間、美由紀の手紙を受け取った日から三年間─。
待ち続けた─。
美由紀からの知らせが届いた。
それは一通の手紙だった。

俺は、家で母さんからそれを受け取った。
母さんは難しい顔をしていた。
母さんは未だ消えない、俺の美由紀への恋心を知っていたのだろう─。
それから俺は慌てて自分の部屋へ行き、机の前、椅子に座り、開くのをしばらく躊躇い、その手紙を眺めていた。

やっと─。やっと届いた。
美由紀は覚えていてくれた。
俺にした約束を。
俺はずっと、この知らせを待っていた。

そう思いながら、美由紀からの手紙を見つめる。

相変わらず、可愛らしい手紙。
その手紙は朝顔の柄の封筒だった。

俺は、いつかの美由紀の浴衣姿を思い出す。

花火大会に朝顔の柄の浴衣姿で来た君。
二人きりで行った、花火大会。
バスの中、照れた君が可愛いかった。
俺は、真っ赤になって黙りこんだ君の。
うなじをただ見つめてた…。
会場について。君はペットボトルを俺に渡して。
やがて花火に夢中になった。

あんな時間がまた二人で過ごせたら…。
どんなに幸せだろう。

そんなことを考えながら。
俺は手紙の封を開いた。

─美由紀からの手紙には、こう書いてあった。

────《喜多見 和人様 へ》───

和人くん 、お元気ですか。
私は 、元気です。
東京の一人暮らしも 、もうだいぶ慣れてきました。

和人くん。
三年間は長かったですね。
私には、とても長かった。

和人くん。
気持ちは、変わらずにいてくれましたか?

三年後の約束を、覚えていてくれましたか?

覚えていてくれたなら。
気持ちが変わらずにいてくれるなら─。
八月の第一日曜日。
花火を見にいきましょう。
その前に、食事でもしながら今までのお互いの三年間のことを、色々と話しましょう。

お返事待っています。

────《榊 美由紀 より》────

その手紙には、美由紀の伝えきれない思いが詰まっているように思えた。

泣き虫の美由紀。
東京で一人、辛いこともあったのだろう。
そんな時、一人涙したのだろうか。
そう考えたら、俺は美由紀を抱きしめたくて仕方なかった。
いつかみたいに、腕の中で、思い切り涙すればいいのだと。

─美由紀─。君は。
俺に会いたいと、思ってくれたりもしたのかな。
俺の気持ちは変わらないよ。
いまも少しも変わらない。
君を想い続けてる。

俺はその気持ちを美由紀への返事へと書いた。
そうして。もう一通の手紙も書いて、鞄にしまった。

ちなみに。美由紀への返事にはこう書いた。
俺の手紙はシンプルなグレーの封筒にグレーの便箋。そこに、決して上手くはない字で、懸命に書いた。

   ───《 榊 美由紀 様 へ》────

美由紀、手紙をありがとう。
ずっと連絡を待っていたから、嬉しかったよ。
元気でいるとのこと、安心した。
貧血の調子はどうなのかな?
それが結構気がかり。

俺は大学で色々あった三年間だったよ。
あっという間のようで、やっぱり長かった。

そして。
美由紀からの夏の約束を、ずっと覚えてた。
俺の気持ちは、変わらない。
変わらないよ。美由紀。

変わらずに、君が好きだ。

八月に、美由紀に会えるのを楽しみにしています。
会ったら、三年間のことを色々話そう。
花火大会。
また二人でいけるなんて。
今からとても楽しみで仕方ない。

それから。俺の携帯は変わっていないから。詳しい予定が決まったら、連絡して。

連絡、楽しみに待ってる。

────《喜多見 和人より 》────

そして、その手紙を書き終わると、俺は早々にポストに出しに行き、美由紀からの連絡を待った。

美由紀からの連絡があったのは、月も変わり、七月になってからだった。

季節はすっかり、夏になっていた。

そして、八月。三年間の想いを抱え、やっと俺は、美由紀に会いに行く。
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