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(27)─三年生の一年間─君との日々〈受験〉─

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あれから。
美由紀と静かにぽつりぽつりとお互いの夢の話しをして俺達は歩いた。
俺は、美由紀に尋ねたかった。

離れてしまったら、この関係は終わってしまうものなのか?

けれど、美由紀が今のまま変わらないなら、俺の存在など小さなものだろう。
そう思うとやりきれなかった。

美由紀の隣を歩きながらも、俺には、美由紀が何故かとても遠く感じられた。

家に帰り。
リビングでは。母さんがのタブレットでドラマを見ていた。
ああ。最近、アマプラで面白いのがあるって言ってたな…。
俺はそんな母さんの姿に和んで声をかける。
「ただいま─。」
母さんはドラマに夢中で気のない返事。
「おかえり。お夕飯は皆帰ってきてからね。手、洗いなさいよ─。」
俺は一応手を洗って自分の部屋に戻る。
カバンを乱暴に置くと、ベッドに横になった。

美由紀のことが、頭に浮かんで消えない。
消そうとしても消えない。

美由紀─。いつかきみの
その柔らかな唇も、
その柔らかな髪も、
誰かのものになってしまうの?

堪らないやりきれなさと切なさが、俺の胸を苛んだ。

ベッドの上、俺はしばらく身動きもとれないまま、自分の嫉妬を飼い慣らす為に戦っていた。

また、明日からは。
美由紀。君のことを一番に考えられるように。
美由紀、君の気持ちを待てるように。
だからいつか…。俺に…。
美由紀、君が好きだと言わせて。
誰より君が好きなんだ。
美由紀、泣き虫の君の笑顔が。

俺は、美由紀の笑顔を思い出しながら、一つ大きく息を吸って、ベッドから降りた。
そして、部屋着に着替えていると。
一階から、母さんの声。
「お夕飯にするわよ─。」
「わかった、今いく─。」
俺は返事をして、一階へと階段を降りて行った。

そして。学校は春休みへと入り。
三年を目前に控えた春休みは勉強で忙しかった。
特に俺は、苦手科目の勉強に追われていた。
その中でも恒例の美由紀との勉強会はしていたけど。
そんな風にして、春休みはあっという間に過ぎた。

そして、学校が始まり。俺達は三年生になった。

それからは忙しかった。

俺はとにかく受験勉強に追われていたし、
美由紀も今の成績を保っていきながら、最近また悪化してきた貧血での通院に忙しいようだった。

夏休みが始まると、美由紀と俺は、それぞれ予約していたオープンキャンパスに行ってきた。
お互いにお土産を渡しあったが、俺が駅で買った、地元の銘菓だったのにくらべて、美由紀からのお土産が、お洒落なパッケージの東京の有名なパティシエのお菓子だったことが、少し悲しかった。
美由紀が、本当に遠くに行ってしまうことを、強く感じさせる出来事だった。
そして。日曜日に。美由紀の誕生日を前日に控え、俺は美由紀に向日葵を贈った。
美由紀がとても喜んでくれたのが嬉しかった。

夏休みが終わり、二学期が始まると。
俺と美由紀は、よく時間を見つけては、昼休みなどに─学校の端の桜を見に行った。
どちらが誘ったというわけでもなく、一緒に外を歩こう、となり、二人の足は自然とそこへ向かっていた。
告白スポットと言われているのに─。
そう考えると、少し切なかったが、まるで二人の伝えられない想いを互いに伝えるかのように、俺達は、よくその桜を見に行った。

そして。秋も中頃。俺は大学入学共通テストの出願をした。そしてそれからしばらくして、美由紀は専門学校の公募推薦入試の出願をした。
帰り道。俺は美由紀に話す。
「美由紀が推薦取るとは思わなかったよ。いや、ごめん。変な意味じゃなくて。」
美由紀は、
「以前、担任の先生に話したら承諾してくれて。先生良く頑張ったなって言ってくれて。あ…。でも。私の場合は専門学校だから…。」
と照れたように言った。
俺は美由紀のペースに合わせてゆっくりと歩きながら、
「でも美由紀、良く頑張ったよ。合格するといいな。」
そう言った。
美由紀は、
「うん。でも…落ちても一般入試で頑張ろうと思うの。まだ…諦めたくないの…。」
と言って前を見つめ、そして。
そんな美由紀を見つめる俺に気づくと、いつものようにわらい、
「ねぇ、和人くん。また…公園に寄って行っていいかな?」
と言った。
俺は、
「じゃあコンビニで飲み物買ってから行こう。」
そう美由紀にわらいかける。
俺は、心の中で。
どうか美由紀が受かりますように。
そう願いながら、コンビニへと歩いた。

それから、美由紀のもとに合格の知らせが届くまで、毎日俺は祈っていた。

美由紀の合格はつまり、俺達の別々の歩みということなんだけど─。
それでも俺は、美由紀の悲しむ顔は見たくなかった。
それに何より俺は、美由紀の今までの努力を知っていた。

どうか美由紀が受かりますように─。
俺はただ、それだけを祈っていた。

そんな中で、美由紀のもとに、知らせが届く。
美由紀は翌日の学校の帰り道で俺に言った。
「和人くん。私…受かったよ!」
「美由紀!ほんとに!おめでとう!!」
「学校で言いたかったけど…。まだ皆…これから受験だから…。和人くんもだけど…。和人くんには伝えておきたかったの。」
「教えてくれて、ありがとう。美由紀。あ─。良かった─。受かった─。」
と俺が言うと。
「和人くん…。…ありがとう。自分のことみたいに喜んでくれて。」
美由紀は恥ずかしそうに、嬉しそうにわらった。

美由紀が─。君がそうやってわらってくれるなら俺は何だってできるから─。

俺は美由紀の幸せそうな笑顔がみれたことが、何より嬉しかった。

こうして美由紀の専門学校の合格が決まった。そして、美由紀は入学に必要な手続きを取り、美由紀の四月からの入学は確かなものとなった。

美由紀─。君は夢へ向かって歩いていく。
俺達は道を違えて離れていく。
けれど、君がそうやってわらうから─。
俺の何より大好きな笑顔をみせるから─。

今は、俺はただ、何も言えずに─。

この頃には、季節はもう、すっかり秋の暮れとなっていた。
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