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(26)─終業式─君との日々〈保健室②〉─
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春の香りのする風が吹き込む。
風が美由紀の柔らかな長い髪を揺らす。
その髪は俺の頬をくすぐる。
窓の外には、桜。
美由紀、俺が君に恋した時の花。
俺は、美由紀のその長い髪に触れたくて。
柔らかなその唇に触れたくて。
堪らなかった。
胸が─苦しい。
切ない思いを抱えたまま、俺はただ、美由紀を見つめていた。
そんな俺の視線と美由紀の視線が、ふと、合って─。
美由紀はその視線を反らさずに俺を見つめた。
そして、俺の視線がその唇にうつると─。美由紀は、その瞳を閉じた。
初めて、美由紀が起きている時に─。
美由紀にちゃんとするキスは─。
淡い春風の中の─優しい触れるだけのキスだった。
叶うならもう一度
その唇に、触れたいと願ってた。
柔らかなその唇に。
その髪に、触れたいと願ってた─。
柔らかなその髪に。
その想いが叶う日が、くるなんて─。
俺が、美由紀の髪に触れながら、
「美由紀…。」
とそう呼ぶと美由紀は顔を赤く染めながら
「…和人くん…。」
と、答えた。
その瞳には涙が浮かんでいた。
どうして?
嫌だったのか?
俺は美由紀の気持ちがわからず、混乱していた。
「美由紀…。」
ただ、そう呼び掛けることしか出来なかった。
それから。
ぽろり。と涙を溢した美由紀に俺はハンカチを渡すことも忘れて、ただ、おろおろとするばかりだった。
そんな中、保健室の外がにわかに騒がしくなり
「保健医いるかな…。」
「貧血起こしたんだったらベッドに寝てたらいいよ─。」
「あ、ついでに私達も保健室で休んでこうよ。」
「いいかも─。」
という声と共に保健室の扉が開いた。
そこには幾らか青い顔をした女子とその子を連れて来たのだろう三人の女子がいた。
三年のリボンをしている。
そして、まだ涙がひかずにいた美由紀を見て
「あ、美由紀ちゃん?」
「え、智美知ってるの?」
「たまに貧血起こした時に保健室で一緒になって…。あ…。でも…。大丈夫?」
「え─。どうしたの─?大丈夫?」
「調子悪いんだよ─。どうしよう、顔も赤いし─。」
と話し出した。
俺は遅れてハンカチを取り出し、美由紀に渡すと、美由紀は恥ずかしそうに受け取り、俺にぽつりと、
「ありがとう」
と言ってそれで涙を拭うと、
「智美先輩…。ありがとうございます。でも…もう大丈夫です。お友達の先輩達も…。ありがとうございました。もう…教室に戻ります。」
そう言って、先輩達に頭を下げた。
俺はただ、それを見ていた。
そして、遅れて頭を下げた。
美由紀…。
あの涙の理由が俺にはわからないんだ…。
そして、もしかしたらそれが自分にあるかと考えると、俺は辛くて…。
そんな俺の想いなど露ほど知らない先輩達は口々に、
「え…美由紀ちゃん…ほんとに大丈夫?え…もう…教室戻っちゃうの?」
「え─。大丈夫─?無理しない方がいいよ─。」
「ベッドで横になった方が良くない?」
「ほんとに大丈夫─?」
と美由紀のことを心配したが、美由紀はわらって、
「はい。智美先輩も。先輩達も。お邪魔してすみませんでした。心配…ありがとうございます。もう大丈夫です。彼と一緒に教室に戻りますね。」
と言い、再び頭を下げた。
俺は慌てて
「いつも一緒に帰ってます。調子悪くなっても、ちゃんと一緒にいますからっ。先輩達、ありがとうございました。」
そう言った。
そして、俺と美由紀が保健室のドアを閉めると。
後ろでは。
「何、可愛かったね─。美由紀ちゃん。」
「美由紀ちゃん…。ほんとに大丈夫かな…。」
「智美は心配性だなぁ。あ。智美もベッドに横になりな!」
「…うん。でも…可愛い二人だったね。」
「男の子!ずっと美由紀ちゃん心配そうに見てたでしょ!可愛いよね─。」
「イッコしか違わないけどね─、でもいいな─。」
とまだまだ騒がしかった。
あれから。
学校が終わり、学校の帰り道でも、俺と美由紀はあまり話すことはなかった。
俺は…美由紀の涙の理由が気になって仕方なかった。
嫌だっのかもしれない…。
そう思うと、悲しく、切ない思いが俺の胸をしめつけた。
俺は頭を振る。
俺は、美由紀の気持ちを待つって決めた。
…美由紀の気持ちを一番に考えよう。
何が嫌だったのか。
俺は美由紀にどうすればいいのか。
美由紀に何が出来るのか。
だから美由紀おしえて…。
あの涙の理由を。
君を少しでもわかりたいんだ…。
君が嫌なら…。
もう触れないから…。
俺は、そっと美由紀に言った。
「…嫌だったなら…ごめん。」
美由紀はそれまでうつむき歩いていたが、弾かれたように、顔を上げた。その頬は赤く染まっていく。そして…悲しそうな顔になると。
「…違うの…。…ごめんね…。」
と言った。
…!違うって言った!
あのキスが嫌だったわけじゃなかった!
─良かった─。
俺が少し安心しながらも。
─それならどうして、そんなに悲しそうな顔…。
美由紀、涙の理由は何?
君のことをわかりたいんだ。
俺は美由紀に尋ねた。
優しく。美由紀が、これ以上思い出して悲しくならないように。
「美由紀、それならどうして?泣いたりしたの?」
美由紀は、しばらく思い詰めたように黙って歩いていたが、やがて、
「…だって…。…どんなに今…。…幸せでも…。…一年後には…二人は離れちゃうのに…。」
そう、ぽつりと言った。
─美由紀、君が俺と同じ思いでいたなんて。
先を見ていたのは、君だったなんて。
こんなにも二人、そばにいるのに。
俺の胸は、締め付けられるように痛む。
美由紀に返す言葉が見つからないまま、俺は、しばらく黙りこんでしまった。
季節は春。桜の花が、その花を風に揺らしている。
卒業式は一年後に迫っていた。
風が美由紀の柔らかな長い髪を揺らす。
その髪は俺の頬をくすぐる。
窓の外には、桜。
美由紀、俺が君に恋した時の花。
俺は、美由紀のその長い髪に触れたくて。
柔らかなその唇に触れたくて。
堪らなかった。
胸が─苦しい。
切ない思いを抱えたまま、俺はただ、美由紀を見つめていた。
そんな俺の視線と美由紀の視線が、ふと、合って─。
美由紀はその視線を反らさずに俺を見つめた。
そして、俺の視線がその唇にうつると─。美由紀は、その瞳を閉じた。
初めて、美由紀が起きている時に─。
美由紀にちゃんとするキスは─。
淡い春風の中の─優しい触れるだけのキスだった。
叶うならもう一度
その唇に、触れたいと願ってた。
柔らかなその唇に。
その髪に、触れたいと願ってた─。
柔らかなその髪に。
その想いが叶う日が、くるなんて─。
俺が、美由紀の髪に触れながら、
「美由紀…。」
とそう呼ぶと美由紀は顔を赤く染めながら
「…和人くん…。」
と、答えた。
その瞳には涙が浮かんでいた。
どうして?
嫌だったのか?
俺は美由紀の気持ちがわからず、混乱していた。
「美由紀…。」
ただ、そう呼び掛けることしか出来なかった。
それから。
ぽろり。と涙を溢した美由紀に俺はハンカチを渡すことも忘れて、ただ、おろおろとするばかりだった。
そんな中、保健室の外がにわかに騒がしくなり
「保健医いるかな…。」
「貧血起こしたんだったらベッドに寝てたらいいよ─。」
「あ、ついでに私達も保健室で休んでこうよ。」
「いいかも─。」
という声と共に保健室の扉が開いた。
そこには幾らか青い顔をした女子とその子を連れて来たのだろう三人の女子がいた。
三年のリボンをしている。
そして、まだ涙がひかずにいた美由紀を見て
「あ、美由紀ちゃん?」
「え、智美知ってるの?」
「たまに貧血起こした時に保健室で一緒になって…。あ…。でも…。大丈夫?」
「え─。どうしたの─?大丈夫?」
「調子悪いんだよ─。どうしよう、顔も赤いし─。」
と話し出した。
俺は遅れてハンカチを取り出し、美由紀に渡すと、美由紀は恥ずかしそうに受け取り、俺にぽつりと、
「ありがとう」
と言ってそれで涙を拭うと、
「智美先輩…。ありがとうございます。でも…もう大丈夫です。お友達の先輩達も…。ありがとうございました。もう…教室に戻ります。」
そう言って、先輩達に頭を下げた。
俺はただ、それを見ていた。
そして、遅れて頭を下げた。
美由紀…。
あの涙の理由が俺にはわからないんだ…。
そして、もしかしたらそれが自分にあるかと考えると、俺は辛くて…。
そんな俺の想いなど露ほど知らない先輩達は口々に、
「え…美由紀ちゃん…ほんとに大丈夫?え…もう…教室戻っちゃうの?」
「え─。大丈夫─?無理しない方がいいよ─。」
「ベッドで横になった方が良くない?」
「ほんとに大丈夫─?」
と美由紀のことを心配したが、美由紀はわらって、
「はい。智美先輩も。先輩達も。お邪魔してすみませんでした。心配…ありがとうございます。もう大丈夫です。彼と一緒に教室に戻りますね。」
と言い、再び頭を下げた。
俺は慌てて
「いつも一緒に帰ってます。調子悪くなっても、ちゃんと一緒にいますからっ。先輩達、ありがとうございました。」
そう言った。
そして、俺と美由紀が保健室のドアを閉めると。
後ろでは。
「何、可愛かったね─。美由紀ちゃん。」
「美由紀ちゃん…。ほんとに大丈夫かな…。」
「智美は心配性だなぁ。あ。智美もベッドに横になりな!」
「…うん。でも…可愛い二人だったね。」
「男の子!ずっと美由紀ちゃん心配そうに見てたでしょ!可愛いよね─。」
「イッコしか違わないけどね─、でもいいな─。」
とまだまだ騒がしかった。
あれから。
学校が終わり、学校の帰り道でも、俺と美由紀はあまり話すことはなかった。
俺は…美由紀の涙の理由が気になって仕方なかった。
嫌だっのかもしれない…。
そう思うと、悲しく、切ない思いが俺の胸をしめつけた。
俺は頭を振る。
俺は、美由紀の気持ちを待つって決めた。
…美由紀の気持ちを一番に考えよう。
何が嫌だったのか。
俺は美由紀にどうすればいいのか。
美由紀に何が出来るのか。
だから美由紀おしえて…。
あの涙の理由を。
君を少しでもわかりたいんだ…。
君が嫌なら…。
もう触れないから…。
俺は、そっと美由紀に言った。
「…嫌だったなら…ごめん。」
美由紀はそれまでうつむき歩いていたが、弾かれたように、顔を上げた。その頬は赤く染まっていく。そして…悲しそうな顔になると。
「…違うの…。…ごめんね…。」
と言った。
…!違うって言った!
あのキスが嫌だったわけじゃなかった!
─良かった─。
俺が少し安心しながらも。
─それならどうして、そんなに悲しそうな顔…。
美由紀、涙の理由は何?
君のことをわかりたいんだ。
俺は美由紀に尋ねた。
優しく。美由紀が、これ以上思い出して悲しくならないように。
「美由紀、それならどうして?泣いたりしたの?」
美由紀は、しばらく思い詰めたように黙って歩いていたが、やがて、
「…だって…。…どんなに今…。…幸せでも…。…一年後には…二人は離れちゃうのに…。」
そう、ぽつりと言った。
─美由紀、君が俺と同じ思いでいたなんて。
先を見ていたのは、君だったなんて。
こんなにも二人、そばにいるのに。
俺の胸は、締め付けられるように痛む。
美由紀に返す言葉が見つからないまま、俺は、しばらく黙りこんでしまった。
季節は春。桜の花が、その花を風に揺らしている。
卒業式は一年後に迫っていた。
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