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(25)─終業式─君との日々〈保健室①〉─
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温かい部屋の中で、普段、飲むことのないワインなんて物を飲んだせいで(たかだかグラス一杯程度だというのに)俺の頭はどこか、フワフワとして、現実感がなかった。
美由紀はもう、赤い顔をして、とろんとした瞳で眠そうにしている。
それでも。
「まだ。片付け…やらなくちゃ…。」
なんて、言っているから、俺は。
「おれが…後からやっておくから…。」
とそんな美由紀を止めて、ソファに休ませた。
「ごめんね…。和人くん…。眠いの…。」
美由紀はそう言うと、あっという間に眠りに落ちた。
ソファの上。
美由紀は赤い顔で、すうすうと寝息をたてている。
美由紀。そんな君が可愛くて仕方ない。
可愛くて堪らない─。
好きなんだ─。
堪らない思いを抱え、俺は眠った美由紀にキスをした。
その唇はしっとりと柔らかかった。
触れるだけのキス。
眠っている君に。
卑怯だと思う。
けれど許して。
こんなにも美由紀、君が好きなんだ。
唇の気配を感じたのか、美由紀が
「…ん…。」
と声をたてる。
俺は慌てて離れたが、美由紀の起きる気配はなかった。
俺の鼓動は早鐘を打っている。
俺はまだ酔いの残る頭で、今日の片付けを始めた。
翌朝。ダイニングの椅子に座ったまま眠ってしまった俺は、美由紀の声で目が覚めた。
「おはよう。…昨日はごめんね。…私…片付けもしないで眠っちゃたんだよね…。和人くんしてくれたんだよね。」
そして突然の美由紀のお母さんの声。
「そうよう。私じゃないわよ。朝帰ったら、美由紀はソファに眠ってるし、和人くんは椅子で眠ってるし。起きた美由紀は片付けしてないって。あ、和人くん、おはよう。」
俺の目は完全に覚めた。
「あ、おはようございます。…すみません…。実は…。美由紀さんのせいじゃないんです…。俺が…ワイン飲ませちゃって…。」
美由紀のお母さんはわらう。
「好きで飲んだのはこの子なんだから、和人くんがちっちゃくならなくても、いいのよ。」
「そんなことないです…。」
「そんなことあるわよ。あ、このミニボトルね。結構いいモノじゃない。奮発したわね、和人くん。」
美由紀は困り顔で言った。
「…お母さん…。」
それから、美由紀の家で、美由紀と美由紀のお母さんと俺の三人で軽い朝食を食べた後、俺は美由紀の家を後にした。
美由紀のお母さんは
「またね、和人くん。って言っても、なかなか私、日曜日休みにならないのよねぇ。でも、また会いましょう。美由紀のこと、よろしくね。」
美由紀は
「和人くん…。ありがとう。色々。あと、ごめんね。でも…楽しかった。また日曜日にね。」
そう言って見送ってくれた。
家へ帰ると。リビングで俺の帰りを待っていた母さんに大目玉だった。
連絡もしないで泊まったことが悪かったらしい。
俺が、
「なんだよ。西村んとこ行ったときはそのまま泊まったりするだろ。」
そう言うと母さんは言う。
「美由紀ちゃんは女の子でしょ!!おかしなことしてないでしょうね?!」
─眠っている美由紀にキスはした─。
俺が昨夜のことを思い出していると。
「何だまってるの!節度あるお付き合いをって言ってあるでしょ!?」
ああもう。節度あるお付き合いも何も。
眠っているところにキスするだけで満足してるよ!
俺は思い、思わず、
「まだちゃんと付き合えてないよ!節度あるお付き合いの重要性なら兄貴に言ってくれよ!未成年だろ!!」
そう怒鳴って階段を駆け上がると俺は自分の部屋のドアを閉めた。
あれから─。
ちゃんとお付き合い出来ていない、俺達だったけど、冬休みの日曜日に、必ず美由紀の家で勉強会をして、二人一緒に勉強をした。
別々のことを勉強していても、わからないことを聞きあったり、時々おしゃべりをしたり、と俺も美由紀も、この時間を楽しんでいた。
俺は時々─。美由紀の唇を盗み見てはどきどきしてた。
そして、美由紀が『くせっ毛』と嘆いていた、その緩やかにふわふわとした長い髪に触れたくて堪らなくなった。
冬休みも間もなく終わりにちかづいていた。
俺は、毎日美由紀に会える学校が始まることを今か今かと願いながら、一人、用事のない日は自分の部屋で苦手な科目を勉強していた。
そんな風にして毎日は過ぎて行った。
そしてまた、学校が始まる。
いつものような日々の中、二年の終わりも近づくとクラスの皆に受験の色が濃くなっていく。だんだんと皆の中から余裕のようなものが消えてきている気がした。
それでも。やがて訪れる先を見据えて、時間を惜しむように、デートに勤しんでいる恋人達や、一緒に図書室デートを始める恋人達の姿も目にした。
俺と美由紀は、それでも、自分達のペースで、毎週日曜日には勉強会をして、学校帰りは一緒に帰った。
そんな毎日が過ぎ、季節は冬も終わりを告げ、少しずつ春の兆しが見えてきた頃。
学生達には避けて通れない、期末試験がやってきた。
幸い、常日頃の勉強会での成果が出たのか、俺も美由紀も、望むような成績がとれた。
そして終業式の日。
美由紀は最近は良くなっていたのだけれど…といいながらも、貧血を起こした。
いつものように、俺が保健室に連れていく。
階段をゆっくりと降りる時に感じた。
美由紀の距離が、いつもより近い?
俺はそんな自分の考えを否定しながら、美由紀の唇を、また、盗み見ては。
再びあの唇に触れたくて…。
今度は、美由紀がちゃんと起きている時に─。
もう一度…キスしたくて…堪らなかった。
そんな自分の思いを押し殺しながら。
俺は、美由紀にわらいかける。
「今日は保健医、いるといいな。」
美由紀は少し青い顔で、それでもわらう。
「多分…終業式に出ちゃってる…。ごめんね。和人くん…いつも。でも…一緒にいてくれるの…ほんとに嬉しい。」
俺は、そんな美由紀の笑顔に胸を掴まれたような感覚になる。
「俺は…美由紀が元気なら…それでいいんだ…。謝ったりしなくていいよ。美由紀がわらっててくれれば、それで。」
「…和人くん…。」
「ほら、ゆっくり急いで、保健室行こう。」
保健室について。
やっぱり保健医はいなかった。
どころか、誰もまだ来てはいないようで、そこは静かだった。
とりあえず美由紀と二人、椅子に座ると、
入学式でのことが昨日のように思いだされる。
ああ。ここで。美由紀、俺は君に本当の恋をしたんだ─。
そんなことを考えていた俺を、美由紀が見つめていた。ふと目が合って、
「どうしたの?美由紀?」
と俺がきいても、
「ううん。何でもないの。」
美由紀は答えてはくれなかったけど。
ふいに吹き込んだ風が、美由紀の長い髪を揺らす。
─窓の外には、桜の花が咲いていた。
美由紀はもう、赤い顔をして、とろんとした瞳で眠そうにしている。
それでも。
「まだ。片付け…やらなくちゃ…。」
なんて、言っているから、俺は。
「おれが…後からやっておくから…。」
とそんな美由紀を止めて、ソファに休ませた。
「ごめんね…。和人くん…。眠いの…。」
美由紀はそう言うと、あっという間に眠りに落ちた。
ソファの上。
美由紀は赤い顔で、すうすうと寝息をたてている。
美由紀。そんな君が可愛くて仕方ない。
可愛くて堪らない─。
好きなんだ─。
堪らない思いを抱え、俺は眠った美由紀にキスをした。
その唇はしっとりと柔らかかった。
触れるだけのキス。
眠っている君に。
卑怯だと思う。
けれど許して。
こんなにも美由紀、君が好きなんだ。
唇の気配を感じたのか、美由紀が
「…ん…。」
と声をたてる。
俺は慌てて離れたが、美由紀の起きる気配はなかった。
俺の鼓動は早鐘を打っている。
俺はまだ酔いの残る頭で、今日の片付けを始めた。
翌朝。ダイニングの椅子に座ったまま眠ってしまった俺は、美由紀の声で目が覚めた。
「おはよう。…昨日はごめんね。…私…片付けもしないで眠っちゃたんだよね…。和人くんしてくれたんだよね。」
そして突然の美由紀のお母さんの声。
「そうよう。私じゃないわよ。朝帰ったら、美由紀はソファに眠ってるし、和人くんは椅子で眠ってるし。起きた美由紀は片付けしてないって。あ、和人くん、おはよう。」
俺の目は完全に覚めた。
「あ、おはようございます。…すみません…。実は…。美由紀さんのせいじゃないんです…。俺が…ワイン飲ませちゃって…。」
美由紀のお母さんはわらう。
「好きで飲んだのはこの子なんだから、和人くんがちっちゃくならなくても、いいのよ。」
「そんなことないです…。」
「そんなことあるわよ。あ、このミニボトルね。結構いいモノじゃない。奮発したわね、和人くん。」
美由紀は困り顔で言った。
「…お母さん…。」
それから、美由紀の家で、美由紀と美由紀のお母さんと俺の三人で軽い朝食を食べた後、俺は美由紀の家を後にした。
美由紀のお母さんは
「またね、和人くん。って言っても、なかなか私、日曜日休みにならないのよねぇ。でも、また会いましょう。美由紀のこと、よろしくね。」
美由紀は
「和人くん…。ありがとう。色々。あと、ごめんね。でも…楽しかった。また日曜日にね。」
そう言って見送ってくれた。
家へ帰ると。リビングで俺の帰りを待っていた母さんに大目玉だった。
連絡もしないで泊まったことが悪かったらしい。
俺が、
「なんだよ。西村んとこ行ったときはそのまま泊まったりするだろ。」
そう言うと母さんは言う。
「美由紀ちゃんは女の子でしょ!!おかしなことしてないでしょうね?!」
─眠っている美由紀にキスはした─。
俺が昨夜のことを思い出していると。
「何だまってるの!節度あるお付き合いをって言ってあるでしょ!?」
ああもう。節度あるお付き合いも何も。
眠っているところにキスするだけで満足してるよ!
俺は思い、思わず、
「まだちゃんと付き合えてないよ!節度あるお付き合いの重要性なら兄貴に言ってくれよ!未成年だろ!!」
そう怒鳴って階段を駆け上がると俺は自分の部屋のドアを閉めた。
あれから─。
ちゃんとお付き合い出来ていない、俺達だったけど、冬休みの日曜日に、必ず美由紀の家で勉強会をして、二人一緒に勉強をした。
別々のことを勉強していても、わからないことを聞きあったり、時々おしゃべりをしたり、と俺も美由紀も、この時間を楽しんでいた。
俺は時々─。美由紀の唇を盗み見てはどきどきしてた。
そして、美由紀が『くせっ毛』と嘆いていた、その緩やかにふわふわとした長い髪に触れたくて堪らなくなった。
冬休みも間もなく終わりにちかづいていた。
俺は、毎日美由紀に会える学校が始まることを今か今かと願いながら、一人、用事のない日は自分の部屋で苦手な科目を勉強していた。
そんな風にして毎日は過ぎて行った。
そしてまた、学校が始まる。
いつものような日々の中、二年の終わりも近づくとクラスの皆に受験の色が濃くなっていく。だんだんと皆の中から余裕のようなものが消えてきている気がした。
それでも。やがて訪れる先を見据えて、時間を惜しむように、デートに勤しんでいる恋人達や、一緒に図書室デートを始める恋人達の姿も目にした。
俺と美由紀は、それでも、自分達のペースで、毎週日曜日には勉強会をして、学校帰りは一緒に帰った。
そんな毎日が過ぎ、季節は冬も終わりを告げ、少しずつ春の兆しが見えてきた頃。
学生達には避けて通れない、期末試験がやってきた。
幸い、常日頃の勉強会での成果が出たのか、俺も美由紀も、望むような成績がとれた。
そして終業式の日。
美由紀は最近は良くなっていたのだけれど…といいながらも、貧血を起こした。
いつものように、俺が保健室に連れていく。
階段をゆっくりと降りる時に感じた。
美由紀の距離が、いつもより近い?
俺はそんな自分の考えを否定しながら、美由紀の唇を、また、盗み見ては。
再びあの唇に触れたくて…。
今度は、美由紀がちゃんと起きている時に─。
もう一度…キスしたくて…堪らなかった。
そんな自分の思いを押し殺しながら。
俺は、美由紀にわらいかける。
「今日は保健医、いるといいな。」
美由紀は少し青い顔で、それでもわらう。
「多分…終業式に出ちゃってる…。ごめんね。和人くん…いつも。でも…一緒にいてくれるの…ほんとに嬉しい。」
俺は、そんな美由紀の笑顔に胸を掴まれたような感覚になる。
「俺は…美由紀が元気なら…それでいいんだ…。謝ったりしなくていいよ。美由紀がわらっててくれれば、それで。」
「…和人くん…。」
「ほら、ゆっくり急いで、保健室行こう。」
保健室について。
やっぱり保健医はいなかった。
どころか、誰もまだ来てはいないようで、そこは静かだった。
とりあえず美由紀と二人、椅子に座ると、
入学式でのことが昨日のように思いだされる。
ああ。ここで。美由紀、俺は君に本当の恋をしたんだ─。
そんなことを考えていた俺を、美由紀が見つめていた。ふと目が合って、
「どうしたの?美由紀?」
と俺がきいても、
「ううん。何でもないの。」
美由紀は答えてはくれなかったけど。
ふいに吹き込んだ風が、美由紀の長い髪を揺らす。
─窓の外には、桜の花が咲いていた。
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