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(21)─期末試験─君との日々〈夢〉─
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文化祭は変わらない賑やかさだった。
そして俺は、クラスごとの出し物の中でも人気のところを美由紀と回った。
途中、三年生の彼女と一緒の西村に会ったが、西村は
「二人、一緒に回ってるんだな。和人、良かったな。二人、楽しんでな。俺は楽しんでる。」
そう言うと、隣の彼女に向かい、わらいかけた。
そして、俺達を振り返ると
「あ、あっちのクレープ美味しかったぞ。榊、気に入るんじゃないか?じゃ、またな。」
と言い、彼女と一緒に出し物の賑わいの中に歩いて行った。
俺と美由紀は、西村に教えられたクレープの出し物へ行くと、それぞれに俺がチョコバナナの、美由紀が苺クリームの、クレープを買った。
俺は、美由紀がクレープを嬉しそうに食べているのを見ていて、幸せだった。
とにかく、時間が過ぎるのを惜しむように、二人で色々な物を見て回った。
美由紀はどこを見ても楽しそうにしていた。
そして。林檎飴の出し物の前に来た時。
美由紀が。
「可愛い…。」
と呟いた。
俺が、
「美由紀、林檎飴、好きなの?」
そう尋ねると。
「可愛いくて。だけど、食べ残しちゃうからもったいないの。だから苺飴が一番好き。」
美由紀はわらって、そうこたえた。
「あ…!苺飴、あるよ!」
「ほんとだ。可愛い。」
「美由紀、待ってて。苺飴、二つ。」
「は─い!ありがとうございま─す!」
元気の良い声が苺を渡す用意を始める。
「あ、和人くん…。」
遠慮がちな美由紀の声。
苺飴だよ。このぐらい出すよ。
そう思う、俺の手には可愛いらしい苺飴が渡される。
俺が美由紀にそれを手渡そうとすると、
「はい。美由紀。可愛いね、これ。」
美由紀は、照れたように、
「ありがとう…。和人くん…。一緒に食べよ?」
そう言って、嬉しそうに苺飴を一つ受けとった。
「あ…。うん。俺、初めて食べるよ。どれ。あ、うま。」
俺が苺飴を頬張って、初めて食べたその美味しさに満足していると、美由紀はそれを見て、とても嬉しそうにしていた。
「和人くん…。うん。美味しいね。ありがとう。」
同じように、苺飴を口に運び、わらう。
俺は、幸せで…。
こんな時間が、いつまでも続くことだけをただ願った。
俺達の文化祭の一日は、そんな風にして、あっという間に過ぎた。
それからは、今まで通りに。
学校の帰り道も、美由紀と俺は、一緒に帰った。
一度。帰り道のコンビニに、美由紀と一緒に寄った時、高橋が友達と一緒に来ていたところに鉢合わせた。
俺は、言葉が見つからず、
「高橋…あの…。」
と言うばかりになっていたのだけれど、そんな俺に高橋は。
「美由紀ちゃんと…うまくいったんだね。喜多見くん…良かったね。幸せそうで嬉しい。ちょっと淋しいけど。…じゃあね。また明日、教室で。」
そう言ってわらうと、ペットボトルを選んでいる友達のところへ行ってしまった。
美由紀は、ただ静かにそれを見ていた。
コンビニを出て。
俺はペットボトルを飲みながら、さっきから黙りこんでしまった美由紀にしきりに話しかける。
「で、西村がね…。美由紀、あ、これ半分食べる?美味しかったぞ。けっこう。」
と言って、俺はさっきのコンビニで買った中華まんを半分美由紀に差し出す。
美由紀は、首を振り、やんわりとそれを断ると
「ごめんね。和人くん…。私…。」
と言った。
謝るなよ。
謝る必要なんてないんだから。
俺は美由紀にそれを伝える。
「美由紀は誰にも謝る必要なんてない。全然。絶対。…ほら。美味しかったよ。食べてみて。俺、中華まん、今年初めて。」
そう俺が言って、半分にした中華まんを美由紀に渡すと。
「…うん。…あ…美味し…。和人くん。私も今年初めて食べたよ。」
そうわらった。
そして、美由紀は。
「和人くん…。ありがとう。」
と言ったっきり、うつむいてしまった。
美由紀の手の中で、ミルクティーのペットボトルは冷めていっている。
美由紀…。
何に…悩んでいるの?
俺じゃ…力になれないかな?
そう君にききたかったけど、それじゃ逆に君を余計に追い詰めてしまう気がして。
その時の俺は、そんな君をただ見ていることしか出来なかったんだ。
季節は冬の始まりとなっていた。
そんな毎日の中で、美由紀は、どこか俺に対してぎこちなかった。
全てが今まで通りの中で、美由紀の態度だけが違った。
どこがどう、というものではないのだけれど…。
期末試験も近づき、クラスメイトが幾らか殺気だったムードの教室の中、俺は西村にその話をした。
西村は、大笑いして言った。
「馬鹿だな。お前。そんなこともわかんねぇの?!」
俺がムッとして
「だから困ってんだよ。」
そう言うと。
「榊はようやく、お前を…自分の気持ちを…意識し始めたんだよ!」
と言って西村は笑い続ける。
「笑うなよ。こっちは真剣なのに…。」
俺が言うと。西村は、涙まで出たのか目をこすりながら、
「いや、な。周りは期末試験で一生懸命な中、お前らの一生懸命な方向っていったら…。随分、余裕かましてんな、と思ってな。」
西村の目はいつの間にか、真剣だった。
「お前、甘くみてんと、成績も…大学も落ちんぞ。」
「西村…。」
「なんてな。恋愛もほどほどにな。喜多見くん。」
そう言ってにやりと笑うと、西村は他の仲間のところに戻って行った。
─随分、余裕かましてんな。─
─甘くみてんと、成績も大学も落ちんぞ─
西村の声がこだまする。
確かに、ここ最近、俺は勉強に身が入っていなかった。
勉強会でも、美由紀にばかり気を取られていた。
こんなんじゃ駄目だ。
美由紀には、美由紀の夢があるように、俺には俺の夢がある。
それはまだ、はっきりとしたビジョンで思い描ける様なものではなかったけど、俺の夢は、まだ小さな、芽のようなもの。
好きなだけ、コンピューターの勉強をしたい。
まだ知らない、出来ない、たくさんのことを覚えたい。
そして俺は思う。
それは美由紀、君と離れるということなんだ─。
─けれど今は。
─美由紀はもう、美由紀の夢に向かって歩きだしている。
俺も俺の夢を叶える為の努力をしないといけない─。
季節は冬も厳しくなってきた頃。
期末試験は、間近に迫ってきていた─。
そして俺は、クラスごとの出し物の中でも人気のところを美由紀と回った。
途中、三年生の彼女と一緒の西村に会ったが、西村は
「二人、一緒に回ってるんだな。和人、良かったな。二人、楽しんでな。俺は楽しんでる。」
そう言うと、隣の彼女に向かい、わらいかけた。
そして、俺達を振り返ると
「あ、あっちのクレープ美味しかったぞ。榊、気に入るんじゃないか?じゃ、またな。」
と言い、彼女と一緒に出し物の賑わいの中に歩いて行った。
俺と美由紀は、西村に教えられたクレープの出し物へ行くと、それぞれに俺がチョコバナナの、美由紀が苺クリームの、クレープを買った。
俺は、美由紀がクレープを嬉しそうに食べているのを見ていて、幸せだった。
とにかく、時間が過ぎるのを惜しむように、二人で色々な物を見て回った。
美由紀はどこを見ても楽しそうにしていた。
そして。林檎飴の出し物の前に来た時。
美由紀が。
「可愛い…。」
と呟いた。
俺が、
「美由紀、林檎飴、好きなの?」
そう尋ねると。
「可愛いくて。だけど、食べ残しちゃうからもったいないの。だから苺飴が一番好き。」
美由紀はわらって、そうこたえた。
「あ…!苺飴、あるよ!」
「ほんとだ。可愛い。」
「美由紀、待ってて。苺飴、二つ。」
「は─い!ありがとうございま─す!」
元気の良い声が苺を渡す用意を始める。
「あ、和人くん…。」
遠慮がちな美由紀の声。
苺飴だよ。このぐらい出すよ。
そう思う、俺の手には可愛いらしい苺飴が渡される。
俺が美由紀にそれを手渡そうとすると、
「はい。美由紀。可愛いね、これ。」
美由紀は、照れたように、
「ありがとう…。和人くん…。一緒に食べよ?」
そう言って、嬉しそうに苺飴を一つ受けとった。
「あ…。うん。俺、初めて食べるよ。どれ。あ、うま。」
俺が苺飴を頬張って、初めて食べたその美味しさに満足していると、美由紀はそれを見て、とても嬉しそうにしていた。
「和人くん…。うん。美味しいね。ありがとう。」
同じように、苺飴を口に運び、わらう。
俺は、幸せで…。
こんな時間が、いつまでも続くことだけをただ願った。
俺達の文化祭の一日は、そんな風にして、あっという間に過ぎた。
それからは、今まで通りに。
学校の帰り道も、美由紀と俺は、一緒に帰った。
一度。帰り道のコンビニに、美由紀と一緒に寄った時、高橋が友達と一緒に来ていたところに鉢合わせた。
俺は、言葉が見つからず、
「高橋…あの…。」
と言うばかりになっていたのだけれど、そんな俺に高橋は。
「美由紀ちゃんと…うまくいったんだね。喜多見くん…良かったね。幸せそうで嬉しい。ちょっと淋しいけど。…じゃあね。また明日、教室で。」
そう言ってわらうと、ペットボトルを選んでいる友達のところへ行ってしまった。
美由紀は、ただ静かにそれを見ていた。
コンビニを出て。
俺はペットボトルを飲みながら、さっきから黙りこんでしまった美由紀にしきりに話しかける。
「で、西村がね…。美由紀、あ、これ半分食べる?美味しかったぞ。けっこう。」
と言って、俺はさっきのコンビニで買った中華まんを半分美由紀に差し出す。
美由紀は、首を振り、やんわりとそれを断ると
「ごめんね。和人くん…。私…。」
と言った。
謝るなよ。
謝る必要なんてないんだから。
俺は美由紀にそれを伝える。
「美由紀は誰にも謝る必要なんてない。全然。絶対。…ほら。美味しかったよ。食べてみて。俺、中華まん、今年初めて。」
そう俺が言って、半分にした中華まんを美由紀に渡すと。
「…うん。…あ…美味し…。和人くん。私も今年初めて食べたよ。」
そうわらった。
そして、美由紀は。
「和人くん…。ありがとう。」
と言ったっきり、うつむいてしまった。
美由紀の手の中で、ミルクティーのペットボトルは冷めていっている。
美由紀…。
何に…悩んでいるの?
俺じゃ…力になれないかな?
そう君にききたかったけど、それじゃ逆に君を余計に追い詰めてしまう気がして。
その時の俺は、そんな君をただ見ていることしか出来なかったんだ。
季節は冬の始まりとなっていた。
そんな毎日の中で、美由紀は、どこか俺に対してぎこちなかった。
全てが今まで通りの中で、美由紀の態度だけが違った。
どこがどう、というものではないのだけれど…。
期末試験も近づき、クラスメイトが幾らか殺気だったムードの教室の中、俺は西村にその話をした。
西村は、大笑いして言った。
「馬鹿だな。お前。そんなこともわかんねぇの?!」
俺がムッとして
「だから困ってんだよ。」
そう言うと。
「榊はようやく、お前を…自分の気持ちを…意識し始めたんだよ!」
と言って西村は笑い続ける。
「笑うなよ。こっちは真剣なのに…。」
俺が言うと。西村は、涙まで出たのか目をこすりながら、
「いや、な。周りは期末試験で一生懸命な中、お前らの一生懸命な方向っていったら…。随分、余裕かましてんな、と思ってな。」
西村の目はいつの間にか、真剣だった。
「お前、甘くみてんと、成績も…大学も落ちんぞ。」
「西村…。」
「なんてな。恋愛もほどほどにな。喜多見くん。」
そう言ってにやりと笑うと、西村は他の仲間のところに戻って行った。
─随分、余裕かましてんな。─
─甘くみてんと、成績も大学も落ちんぞ─
西村の声がこだまする。
確かに、ここ最近、俺は勉強に身が入っていなかった。
勉強会でも、美由紀にばかり気を取られていた。
こんなんじゃ駄目だ。
美由紀には、美由紀の夢があるように、俺には俺の夢がある。
それはまだ、はっきりとしたビジョンで思い描ける様なものではなかったけど、俺の夢は、まだ小さな、芽のようなもの。
好きなだけ、コンピューターの勉強をしたい。
まだ知らない、出来ない、たくさんのことを覚えたい。
そして俺は思う。
それは美由紀、君と離れるということなんだ─。
─けれど今は。
─美由紀はもう、美由紀の夢に向かって歩きだしている。
俺も俺の夢を叶える為の努力をしないといけない─。
季節は冬も厳しくなってきた頃。
期末試験は、間近に迫ってきていた─。
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