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(20)─文化祭─君との日々〈告白②〉─

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文化祭が賑わいを見せる中。
高橋に声をかけられた俺は。
とっさには、何と答えたらいいのかがわからなかった。
思わず、
「じゃあ、空き教室に行こうか?」
と俺は答えた。
高橋は頷くと、空き教室に向かう俺の後ろを歩いてきた。
教室につくと、そこには誰もいなかった。
ドアの向かうの賑やかさが遠く感じた。
「…高橋、話って…何?」
俺が尋ねると、高橋は言った。
「…喜多見くん…。私と一緒に文化祭回って欲しいの。」
「…高橋…。俺は…。…ごめん。」
俺の答えに、高橋は
「…美由紀ちゃんが…いるから?」
とぽつりときいた。
俺が黙っていると、
「…美由紀ちゃんが…好きだから?」
高橋は、そうきいてきた。
「…答えてくれないなら…。私…喜多見くんのこと…諦めない。」
高橋はそう続けた。
俺は、何て答えたらいいかわからなくて…。
「高橋…。」
「喜多見くんが…美由紀ちゃんのそばで美由紀ちゃんのことずっと見てたの知ってる。でも…私もずっと喜多見くんを見てた…。好きだった。美由紀ちゃんを好きなままでもいい。…私と付き合って欲しいの。」
高橋、俺は…。
そんなにいい奴なんかじゃない。
お前に好きになってもらえる程…そんなこと言ってもらえる程の奴なんかじゃない。
俺が、そう高橋に言おうとしていた時だった。
教室の入口に人影を感じて、俺と高橋は思わず、そちらに目をやる。
そこには、美由紀が一人立っていた。
…美由紀…!!どうして…!!
もしかして、今の、聞いてたのか?
どこから…どこまで?
そんなことを考え、思わず焦る俺に、高橋は
「…私の気持ちは…そういうことだから…っ。」
そう言い、
入口に立ち尽くしたままの美由紀の横を通る時、高橋は美由紀に、
「…あんまり…聞かれたくなかった…っ。ああいうとき、ごめんって言って出て行くと思う…っ。」
そう言って教室を出て言った。
高橋は、美由紀の言葉は待たなかった。
高橋は、多分、泣いていた。
そしてあの時。
高橋は気づいたんだ。
美由紀がいたことに、気がついた時の俺の表情で…。
どれだけ俺の中に美由紀しかいないか。
俺が気にかけるのが、美由紀だけか。
─それが、どれ程辛いか…。
…高橋…。ごめん…。
…ごめんな…。
それでも、やっぱり…。
俺は、美由紀が好きなんだ…。

高橋に心の中で謝りながらも、俺は美由紀が気になった。
そして美由紀に、何と声をかけようか考えあぐねていたが、その名前を呼ぶことしか、出来なかった。
「…美由紀…。」
すると美由紀は、せきをきったように泣き出して、
「…ごめんなさい…っ。和人くん…。ごめんなさい…っ。」
そう言った。
俺には、訳がわからなかった。
これは何のごめんなさい、なんだ?
俺は、美由紀に問いかける。
「泣かないで、美由紀。ちゃんと聞かせて。なんの、ごめんなさい、なんだ?」

美由紀は、さっきまでのことを説明し始めた。

今日、美由紀は、ずっとどこか気まずく、不自然な距離感になっていた俺達の仲を元に戻したかった。
そのためにも、一緒に二人で文化祭を回ろうと誘おうとしていた。
そして。一人、俺を探していた時。
俺が、高橋に声をかけられるのを見て。
気になって、後を追って。
つい、中の様子を確かめずにはいられなかった。
思わず、声をかけそうになったけど、出来なかった…。

美由紀の説明に、俺は。
もう、美由紀の涙の理由も、少しはわかった気がした。
そして。美由紀の気持ちも、わかった気がした。
多分、きっと。
美由紀は俺のことが好きだ。
もう、いい。
それがわかれば。
俺は、美由紀の気持ちを待てる。
だから、美由紀。
今は誰よりもそばにいさせて…。

そんなことを考えていた俺に、それでも美由紀、君は、こんなことを言う。
「…和人くん…。高橋さんと…どうするの…?」
俺は少し意地悪な気持ちになって、美由紀の気持ちを試す様なことをいってみる。
「高橋…ずっと俺のこと…好きでいてくれたって。…付き合ってみるのもいいかな。」
「…っ。…和人くん…っ。」
俺の言葉に美由紀は、弾かれたように顔をあげたが、その瞳には涙が溢れていた。
「…嘘だよ。」
「…っ!」
美由紀はその場でしゃくりあげた。
泣き出した美由紀に俺は慌てて謝る。
「ごめん。美由紀。ごめん。」
「…和人くん…。…ひどいよ。どうして?」
泣きながら美由紀は俺に尋ねたけれど。
俺は、君の気持ちをちゃんと知りたかったんだ。
「美由紀、ごめんな─。」
俺が美由紀に泣きやんでほしくて、いつものようにハンカチを差し出した─。
その時だった。
教室の入口が賑やかになった。
「ここ、空いてるだろ─。」
「え─。何か聴こえない?あ、静かかな?」
「ここで一緒に二人でご飯たべよう。」
「うん。今日楽しいよ。ありがとう。」
そんな会話と共に入口が開かれる。
思わず、俺は美由紀の肩を抱く。
美由紀も、受け取ったハンカチを頬に当てたまま、困惑していた。
入口の二人は言った。その手には、文化祭で買ったのだろう、たくさんの食べ物。
「あの─。ここ、使わせてもらえるかな?」
「お邪魔しちゃって悪いんですけど。」

あれから。俺は、美由紀と二人、後から来た二人に追い出されるように教室を後にした。
そして。俺は美由紀に言った。
「…美由紀、これから一緒に文化祭回らないか?」
いつの間にか、美由紀は泣き止み、俺のハンカチを大切そうに手にして、躊躇いがちに、けれど嬉しそうに微笑む。
「…うん。和人くん。…うん。」

文化祭も始まって中頃。
皆がそれぞれに楽しそうに過ごしているなか、俺と美由紀で過ごす文化祭の時間が、ようやく始まろうとしていた。
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