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(17)─夏休み─君との日々〈外泊②〉─

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車内で、美由紀のお母さんと美由紀と俺の話は尽きることがなかった。
俺の想像と違った、元気で明るい美由紀のお母さんはホテル勤務ということもあってか、人当たりが良かった。

ただ、駅前から車はすっかり遠ざかったが、俺が、いつもの美由紀の家への道のりと今いる道の違和感を感じていたそんな時。

車の窓からはスーパーが見えてきた。

そしてスーパーが近づいてきた頃。
「今、家にお客様にお出しできるような物きらしてるから、ちょっと待っててね。」
そう言って、駐車場に車をとめると、美由紀のお母さんは一人、歩いて行ってしまった。
美由紀と二人、クーラーのきいた、車内に残される。
俺がふと
「美由紀…末っ子なんだなぁ。」
と言うと。
美由紀は
「…え?どうして?」
と、やや不服そうな顔。
「最初の美由紀、小さい子どもが、自分の友達見て見て─ってしてるみたいだったよ。それに、遅いよぉ─って…。ふふっ。」
俺が思わず、車に乗る時の美由紀を思い出して、その可愛らしさをわらうと、美由紀は
「和人くん、ひどい…っ。」
と、恥ずかしそうにうつむいてしまった。
まずい…。
俺は必死でその場の空気をもとに戻そうと
美由紀に話しかける。
「でも、元気で素敵なお母さんだね。」
すると美由紀はいっぺんに嬉しそうになると
「少し、元気すぎるくらいだけど。自慢のお母さんなの。」
と言った。
ああ、すっかり進路について和解出来たんだな…。
俺がそんなことを考えながら
「そうなんだ。…美由紀、良かったね。」
そう言うと
「…和人くん…。…ありがとう。」
美由紀は少し照れたように微笑って言った。
俺達がそんな話をしていると、やがて美由紀のお母さんが、両手に荷物を持って戻ってきた。
「お待たせ─。ついでに色々買っちゃって。美由紀、紅茶きらしてたでしょ。あと卵も。お菓子作りにも使うでしょ。」
「ありがとう、お母さん。」
「それから。和人くん、明日の朝、パンで良い?って言っても私が作るんじゃないんだけどね。私、明日早いから。」
美由紀のお母さんの言葉に、俺は慌てて頷く。
「はい。何でも。大丈夫です。」
「何でもって。あはは。味は保証するわよ。美由紀が作るんだから。ね、美由紀。」
「お母さんっ。」
美由紀は恥ずかしそうにそう言うと、
「お母さんが早い時は、私が作ってるの…。」
と俺に言って照れたように言った。

そしてやがて、車は美由紀の家のマンションの駐車場へ。
三人でエレベーターに乗り、美由紀の家のドアが開かれ、美由紀のお母さんが、わらいながら言った。
「ようこそ、我が家へ。って、和人くんはもう何回も来てるわよね。」
美由紀は、
「…お母さん…。和人くん、上がって?」
お母さんに困った様子を見せながらもそう言った。

もう、何回も勉強会で訪れている美由紀の家は、何だか今日は、初めてきたところのように思えた。

それから、いつものようにダイニングへ通されると、美由紀のお母さんは
「気が付くのが遅くなっちゃったんだけど、和人くんはお家の方に連絡とかはしたの?」
と俺にきいた。
「いや、よく西村…。クラスメイトのところに泊まりに行ったりしてるんで…。」
「駄目よ。今日はきちんと連絡して。」
そんな会話の末、俺は家に連絡を入れ、たまたま出た兄貴にからかわれながら、母さんにかわってもらうと
「節度のあるお付き合いをね!」
と念押しをされ、電話は切られた。
節度のあるお付き合いも何も。
お付き合いしたいよ…。
そんなことを考えながらも、美由紀のお母さんには、
「きちんと許可とれました。ありがとうございます。」
と報告をした。

ダイニングでは、美由紀が三人分のアイスティーを用意してくれ、美由紀のお母さんと、美由紀と俺と。車内の会話の続きとなった。
その楽しさに、美由紀のお母さんの明るさに、俺はどうして美由紀が頑なに、誰の気持ちも…。そして俺の気持ちも…。受け入れようとしないのかが、わからなかった。

そして、時間は過ぎ。時計も十二時を過ぎた頃。
美由紀のお母さんは美由紀に
「そろそろ、部屋に戻るわ。私、明日は早いから。美由紀、私の朝食はいいわよ。朝早くに出るから。」
と言うと
美由紀は、多分珍しいことではないのだろう、
「うん。わかった。車とか、気を付けてね。明日も仕事頑張って。」
と言い、
美由紀のお母さんは美由紀に微笑むと、俺に
「和人くん、今日はありがとう。楽しかった。後は二人でね。あんまり遅くならないようにね。朝、起きれないわよ。」
と言い、わらった。
関係を誤解されている気もしたけれど、俺は曖昧に笑って
「遅くならないようにします…。」
としか、言えなかった。
「それじゃ、おやすみ。」
美由紀のお母さんがおやすみの挨拶をする。
「おやすみなさい」
おやすみの返事が美由紀と重なる。それは妙な親しさを俺に感じさせた。

それから。美由紀はダイニングの片付けをして。
「少し、空気の入れ替えをするね。」
と言って窓を開けた。
開けられた窓からは、夏の夜の匂いがした。夏の終わりの頃の夜の匂いだった。
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