ずっと君を想ってる~未来の君へ~

犬飼るか

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(15)─夏休み─君との日々〈花火大会②〉─

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学校は終業式を終えると、あっというまに夏休みに入り、毎日は美由紀に会えなくなった俺は退屈で…そして淋しくて仕方なかった。
─日曜日の勉強会は、三者面談の後も続けられていて─。
美由紀はお母さんから、
「専門学校のことは認めてあげるから、学校の成績は落とさないように。」
と言われているらしい。
そして美由紀は、その言葉に反しないように、勉強を頑張っていた。
そんな美由紀だったけど、勉強会、俺が美由紀の家を訪れる度に、何かお菓子と飲み物を作っておいてくれた。
その度、俺が、
「大変だったろ。大丈夫?でも、やっぱりすごく美味しい。」
と感激して声をかけると美由紀は、すごく嬉しそうに
「喜んでくれて、嬉しい。あのね、最近はお母さんも私の作ったお菓子、食べてくれるようになったんだよ。」
そう言って微笑ってた。
そんな勉強会を、一週間に一回のただひとつの美由紀に会える機会だと、俺は楽しみにその日を待って過ごした。
美由紀との夏休みの勉強会は、相変わらず、楽しくて─。
…俺は俺で、進路を逃したくはなかったから、勉強はちゃんとしたけど。
俺達は、切磋琢磨しあえる、良い勉強環境にあった。

その中でも、近づいてくる花火大会の話題に、勉強会の度に美由紀と二人、盛り上がり、俺は、その日がくるのを心待ちにしていた。

楽しみすぎて、前の晩の俺は、相変わらず、なかなか眠れなかったくらいだ。

そして。
8月の日曜日。
花火大会の日がやってきた。
今日は、美由紀の最寄り駅の駅前で待ち合わせをしていた。
そこからはバスで一緒に行くことになっている。
時間は夕方の四時。少し早いかもしれなかったけど、俺が気がせいて仕方なかった。

そして。少し早く待ち合わせ場所に着いた俺は。今日の美由紀の格好を想像してどきどきしていた。
そこへ。
濃紺に鮮やかな青色の柄。
朝顔の柄の浴衣を着た、美由紀の姿…!
「…美由紀…!」
「…ごめん。和人くん、待たせちゃった…?」

いや、待ってなんていない。
少しも。
いや、美由紀、君のことならどれだけ待ってもかまわない。

夕暮れの光に、君の、鮮やかな浴衣姿が輝いていた。

「待ってなんてないよ。俺が少し早くきすぎたんだ。」
俺がそう言うと。美由紀は、
「本当に?ごめんね。暑かったでしょ?」
と、しょんぼりとした顔になる。
ああ、朝顔が萎れていくみたいだ…。
俺は、それを美由紀に伝える。
「せっかくの朝顔が萎れてくみたいだ。大丈夫。本当に待ってないから。今、さっき着いたんだよ。…それから。美由紀…。…浴衣、似合ってるよ。」
美由紀は顔を上げると、
「…ありがとう、和人くん。実は今日、お姉ちゃんとトレードしたの。」
そう嬉しそうに微笑んだ後、ぽつりと言った。
「あれ?お姉さんって、今、彼のところに行ってるんじゃなかったっけ?」
そんなことを話しながら、俺と美由紀はバスに乗り込む。
バスの中、美由紀のお姉さんの…。今日の浴衣の話になる。
美由紀は、少し困り顔で話す。
「今日の浴衣を出してたら、彼のところに行ってたお姉ちゃんが急に帰ってきたの。彼と花火大会行くから、浴衣とりにきたって言って。」
「アクティブなお姉さんだね…。」
「…うん。お姉ちゃん、行動力がすごいの…。そこまでは良いんだけど、私の出してた浴衣とお姉ちゃんが自分の浴衣、交換してって言い出して…。それで。ひまわりから朝顔になったの。今日。」
美由紀は、どこか残念そうに話す。
きっと、美由紀のお姉さんは、強引なところがあるのかもしれない。
いや、かなり強引なんだろうなぁ。
なんてことを考えながら、俺は美由紀に、
「でも。朝顔の柄も素敵だよ。すごくきれいだ。大人っぽくて。」
そう言った。
これも、俺の気持ち。
美由紀は…綺麗で…色っぽかった。
もしかしたら、お姉さんは、わざと?
なんて、ちらりと考えたが、美由紀の反応の前に、すぐ忘れてしまった。
美由紀は、バスの人混みの中、多分、暑さからではなく、真っ赤になった。
そして一言。
「…ありがとう…。」
とだけ呟いた。
耳まで赤く染めた美由紀が、バスの中、それ以上話すことはなくて。
俺は、こんな時だというのに、君の後れ毛とうなじを見つめて、どきどきしていた。

バスが花火大会の会場につくと。
そこは、思っていた以上の人混みで溢れていた。
必死で美由紀を人混みから庇う。
ようやく、見物出来そうなところまでくるときには、もう夕闇の中、俺はくたくただった。
そんな俺に、美由紀が飲み物を渡してくれる。
「手作りってわけには、いかないけど…。…疲れたでしょ?ありがとう。」
そう言って渡されたペットボトルの冷たさがありがたかった。
「実は、私の分も買っておいたの…。少しぬるくなっちゃったかな…。」
美由紀は、バックから、もう一本のペットボトルを取り出して、微笑う。
俺は、美由紀を抱きしめたい衝動にかられた。
でも、俺には、そんなこと許されてない…。
俺と美由紀は、そんな関係じゃないか
ら…。
やがて花火が始まっても、花火を見つめる美由紀の隣で、俺は、そんな切ない想いを抱えていた。

花火が、そんな俺達を照らしている。
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