ずっと君を想ってる~未来の君へ~

犬飼るか

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(14)─夏休み─君との日々〈花火大会①〉─

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三者面談が無事終わり、学生達は間近にせまった夏休みに沸き立っていた。

クラスメイト達の話題も、夏休みの課題や進路より、休みの間、誰彼との約束があるとか、どこそこに行くとか、というもので賑わっていた。
とにかく、休み時間も昼休みもその調子で─。
俺には、正直羨ましい限りだった。
美由紀の進路を応援する、と決めた俺には…自分からは、なかなか遊びの約束は誘いづらいものがあったから。
そんな俺に、助け船を出すように。
西村が、俺が夏休み中の日曜日のことを話していたところに割り込んできた。
「なあなあ。榊。和人。お前ら、せっかくの夏休み、もしかして勉強しかしねぇの?8月の最後の日曜日、花火大会あるんだぜ。行ってこいよ。」
…花火大会。
実は、知ってはいた。
─彼女持ちの兄貴が嬉々として話していたから。
だけど、美由紀は行かない(少なくとも俺とは。)と思っていたから、話題にすることはなかった。
当然のように、美由紀から話題になることはなくて…。
だから、その時の俺の気持ちとしては、
西村、余計なこと言いやがって…!
美由紀と気まずくなるじゃないか!
だった。
ところが、美由紀は一言。
「─花火大会…?!来月の日曜日?」
美由紀、知らなかったのか?
美由紀は俺に、
「…和人くん、知ってた?」
と尋ねた。俺はうつむいて答える。
「…うん。」
「教えてくれれば良かったのに。私…花火、大好き。」
─大好きという言葉がリフレインする。
花火が、じゃない、俺が、ならどんなに良いだろう─。
そんなことを俺はつい考えていた。
「…和人くん?」
「あ…ああ。ごめん。」
西村は、俺の考えることなどお見通しという顔で、俺を見ながら言う。
「な、だろ。だろ。二人で行ってこいよ!」
俺が美由紀を見ると、美由紀は、恥ずかしそうにうつむいている。
これは、一緒に行けるかもしれない…。
俺が美由紀の反応に喜んでいたとき。
西村が、楽しそうに言った。
「それで、遅くなったら、美由紀んとこ泊まっちゃえ!」
「っバカか!西村っ!もういいっ!!」
「なんだよー。」
と西村は笑いながら行ってしまった。

後には、気まずさが残った二人。
クラスメイトの賑やかさがありがたかった。
そこで、美由紀は、ぽつりと言った。
「和人くん…私と花火大会行くの…嫌?」
何でそんなこと考えたんだ。
一緒に行きたいよ!
俺は慌てて言った。
「いや…美由紀から、そういう話題にならなかったから…別の人と行くのかなって…。」
「別の人って?」
「…友達…。瀬川とか…。それか、家族…。お姉さんとか…。」
それに、花火大会を口実に告白する奴は多い。
美由紀も、誰かに誘われたんじゃないか、と思ってた。
俺は、そんなことをつい、口にだしてしまう。
「それとも誰か…別の奴、いるかなって」
俺の、そんな一言に、美由紀はひどく傷ついた顔をした。そして、下を向いて
「いないよ…。そんな人。」
ぽつりと呟いた。
「美由紀…。」
俺の呼び掛けに、美由紀は顔を上げると、
「…それに…柚花ちゃんは今、勉強で夏中忙しいみたいだし。お姉ちゃんは、今、彼のところに行ってる…。お母さんは夏中仕事…。」
…おずおずと、けれどはっきりと答えた。
これは…。俺が誘っても良いよな…。
だってきっと、美由紀は花火大会って知って…、日曜日って知って…、俺と行くことを考えてくれたんだ。
俺は、少しの勇気を出して、
「美由紀…花火大会、俺と一緒に行かないか?」
その時の美由紀の嬉しそうな顔といったらなかった。
「…うん!和人くん、ありがとう!嬉しい…!」

なあ、美由紀。
それは。花火が見れるから?
それとも、俺と一緒に行けるから?
どっちでも良い。
どっちもなら嬉しいけど。
美由紀がこうして喜んでくれるなら。俺は。

そして。8月の最後の日曜日。美由紀と俺は、二人で花火大会に行く約束をした。

夏休みが、始まろうとしていた。
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