ずっと君を想ってる~未来の君へ~

犬飼るか

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(8)─体育祭─君との日々〈告白①〉─

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初夏。近ごろ学校では、皆、もうすぐ行われる校内イベントのことで盛り上がっていた。

年に1度の、体育祭があるのだ。
あの恋人になる確率があがると噂のイベント。

さすがに俺は(少ししか)期待はしていなかったが、美由紀と二人で写真を取ったり、普段出来ないことが色々出来るかもと、今から浮き足だってはいた。

けれど、俺の美由紀に対する感情は相変わらずで、それに変化が起こるとは、思ってもいなかった。

あんなことがおこるまでは。
それは俺にとって、余りに突然な出来事だった。

その日。
体育祭の日。

俺はその日も個人競技を終え、美由紀と合流しようとしていた。
いつも何かとつるんでいる西村達には、
「付き合いわりぃなぁ─。」
なんて、口汚く文句も言われたけど。
俺だって、せっかくの体育祭。少しでも美由紀と一緒にいたい。
「そういうお前らだって、彼女のとこいくんだろ。」
俺が西村達にそう言うと
「まあな─。和人も頑張って榊、彼女にしろよ。」
「本気なんだろ、伝えろよ。」
西村達はこぞって、珍しく茶化さないで応援してくれた。
俺はそんなつもりはなかったけど、西村達の気持ちが嬉しい。
「ありがと。じゃ、行ってくる。」
「和人、頑張れよ。後でまたな。」
西村達に見送られながら、俺は美由紀を探しに行った。

美由紀のところに行ってみると、そこにもう、美由紀はいなかった。
俺は慌てて、一緒の競技に出ていた、美由紀の友達の瀬川柚花に、美由紀のことを尋ねた。
瀬川は、どこかいいずらそうにしながら、
「さっき…。少し前に…。隣のクラスの橘君が来て、美由紀に話があるって…。一緒に来てって…。」
隣のクラスの橘…!橘俊輔。
サッカー部で、女子にも人気のある橘が、美由紀に何の用だよ!
…わかってる。そんなの、一つしかない。
─告白する気だ…!
─俺は、自分を落ちつかせようとした。
…大丈夫。美由紀は、そういうのは好きじゃないんだから。
─俺の気持ちだって、聞かないようにするくらい…。
…だから。俺は今まで、わざと美由紀に気持ちを伝えずにきたんだから─。
「…わかった。瀬川、ありがと。探してみる。」
俺は瀬川にそう言うのが精一杯だった。
俺の背中に、瀬川が言う。
「あのね、喜多見くんっ!美由紀、困ってたよっ!橘くん、強引に美由紀連れてっちゃったのっ。」

俺の中に、初めての、どろどろとした感情が生まれる。
俺は、初めて、嫉妬と言うものをしる。
─橘。
気持ちを簡単に伝えるなんて許せない。
俺は、ずっと、この気持ちを一人で抱えてきたのに。
…美由紀の為だって諦めて。
…美由紀を困らせたくないって諦めて。
─お前一人に、告白なんて。
そんなこと、させない。

体育祭の喧騒の中、俺は必死で二人を探した。

きっと、あそこだ─。
いつか、泣いている美由紀が泣き止むようにと連れて行った、学校の端の大きな桜の樹の下。
聞けば、あそこは学校の告白スポットとして有名らしい。
橘のことだ。絶対あそこだ─。
俺はそう考え、ただ急いだ。

俺は橘とは、1年の時に同じクラスだった。さして親しくはなかったけど、目立つことが好きな、キザな奴だった。
どう振る舞えば良いかを、常に考えているような。
俺は、顔には出さなかったが、橘があまり好きではなかった。
だから自然と距離を置くようにしていた。
よりによって、そんな奴が─。
美由紀─。
待っていて。
お願いだから。
そんな奴の気持ちなんて聞かないでくれ─。
─俺の気持ちも、聞いてくれないのに─。
これで二人が付き合うことに、なったりしたら、俺は─。
頭が真っ白になりそうな嫉妬を抑えながら、俺は、二人の姿を探した。

俺が例の桜の樹のところへ行くと、予想通り、橘と美由紀の二人はそこにいた。
そこで何やら橘は強引に美由紀に言い寄っていた。
「俺さ─。お前のこと、好きなんだよ。」
やめろ、やめろ、やめろ─。
何で、橘、お前なんかが、美由紀に軽々しくそんなこと言ってるんだよ。
そう考えて俺は腹が立って仕方ないのに、
「そんなこと…急に…。困る…。私…。」
美由紀の歯切れの悪い返事に、俺は、はからずも校舎の影に隠れるかたちになって、二人の話をきいてしまう。
これ以上、二人の話を聞きたくないと思うのに。
「なあ 、美由紀って、喜多見といつも一緒にいるけど、付き合ってんの?」
橘が、言った、その一言に俺の心臓はドクンと脈うつ。
わかってる。わかってるんだ。
美由紀が、そういう風に俺とのことを考えていないことは…。だけど…。
「…和人くんとは、そういうんじゃない…。」
やっぱり…。
美由紀の一言が胸に突き刺さる。
俺とは?俺とは、そういう関係じゃないって?じゃあ、橘なら?橘なら、そういう関係になれるのか…!
俺の胸が、嫉妬で真っ黒に染まっていく。

こんな気持ち、もうまっぴらだ!!
…だけど…。

「美由紀…。」
俺は美由紀を呼ぶ。
「和人く…ん。」
怯えたように、美由紀が振りかえる。
…そんな顔、しないで、美由紀…。
「良かったな。美由紀。彼氏、できて。あーあ。俺も彼女探さないと…。」
美由紀、俺は、上手く言えてたかな。
「…和人くん…っ。和人くん…っ、…違うのっ!」
美由紀は、泣きそうな顔をしてる。
もう、いいよ。美由紀。
俺に遠慮することないよ。
「じゃ、な。美由紀。俺はもう行くわ。」
後ろ手に手を降って、俺は歩きだした。

「和人くん、違う!和人くん!」
何だか、美由紀が後ろで俺を呼んでたけど。
俺は、もう、どうするべきかわからなかった。

美由紀─。
今も誰より美由紀が好きだけど、君には、いつも笑っていて欲しいから。
俺の気持ちには、蓋をしよう。
─誰より君が好きだから。
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