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(6)─勉強会─君との日々〈ブラウニー〉─

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美由紀の家に案内されながら、二人一緒に歩いた。
それはいつもの学校の帰り道とは、少し違って。
どこか二人、緊張してしまっていたのは、どうしてだろう。

そんな時。
道の途中に俺はコンビニを見つけて、美由紀に声をかける。
「何か、飲み物とか買ってく?」
美由紀は少し考えていたようだったが、
「うん。そうだね…和人くん。」
と答えてくれた。

コンビニは、今日の温度に合わせて、強めの冷房がついていた。
「涼しいね。和人くん。」
そう言って美由紀は嬉しそうに、飲み物を選んでいる。
俺は、ただ、その横顔をみつめる。
ふいに、俺と美由紀の視線がぶつかり、
美由紀は、不思議そうな顔で、
「飲み物、決まった?」
と俺にきいた。
俺は、慌てて、適当な飲み物を取り出し、
「これにする。美由紀は?」
美由紀にたずねた時だった。
美由紀は少し驚き、そして嬉しそうに、
「あ、和人くん…アイスミルクティー好きなの?」
「あ、これ─。」
まさか俺は適当に選んだとも言えず、
「うん─。」
と、曖昧に答えた。
すると美由紀は、
「実は、家にアイスティー作って用意してあるの…。でも、和人くん、好きかどうかわからなかったから…。アイスミルクティー…好き?」
おずおずと俺にきく、その美由紀の様子が可愛いくて。
「嬉しいよ。俺、あんまり飲んだことないけど、好きだよ。ありがとう。」
俺は精一杯、素直な気持ちを伝えた。
「うん。和人くん。ありがと。あとね、簡単な、お菓子も作ってあるの。だから、他の買い物していい?」
そう言った美由紀は、可愛いくて。
それに。
簡単なお菓子!そんな物まで!
至れり尽くせりだな─。
俺は、思わず自分が片思い中という現状さえ忘れてしまいそうだった。

初夏の風が吹く。
それは、夏の暑さを予感させた。

コンビニをでて、美由紀に案内された美由紀の家は、7階建てのマンションの7階の中の一室だった。

「あのね、狭いかもしれないけど─。」
美由紀はそう言ったけど、十分な広さがあるように思えた。
もしかしたら戸建てに比べているのかな、とは思った。
俺は、前に家に庭に桜の樹がある話をしていたから。
「そんなことないよ。片付いてて、きれいな家で羨ましいよ。俺の家は、何だかごちゃごちゃしてる。」
俺が言うと、美由紀は寂しそうに、
「何かいいな…そういうの。家は汚すと怒られちゃう…。」
俺は、余計なこと言っちゃったかな…。と思いながらも、美由紀を元気づけたくて、
「そっかぁ。でも家、万事がそんな調子なんだよ。母さん自体がだらしないって言ったらなんなんだけど。それで男兄弟だから最悪だよ…。」
そんな俺の言葉に、やっと美由紀は笑ってくれた。
「何それぇ…。じゃあ、家は姉妹だからかな。女所帯だし。」
美由紀は、くすくす笑いながら、部屋へと案内してくれた。
まず、荷物を置いてこよう、ということになって。
俺は、この時ゆっくり美由紀の部屋を見られると思ったのだが、美由紀は俺の荷物を、あっという間に自分の部屋の中に置いてきてしまった。
俺は、ただ、部屋のドアの前で待っていた。

美由紀の家は、それぞれに自分の部屋を持っていて、ダイニングキッチンとバスルームとトイレがある、とのことだった。

とりあえずは、と美由紀が言い、ミルクティーをご馳走になりに、ダイニングキッチンに行く時に美由紀が案内してくれた。

ダイニングキッチンで、美由紀は、
「和人くんは、そこのテーブルのとこのソファでゆっくりしててね。後からこっちの椅子で。」
とテキパキと準備をしていた。
「あ、ごめんな─。」
俺が言うと、美由紀は嬉しそうに、
「ううん。もうちょっと待っててね。」

「和人くん、お待たせ。」
美由紀はテーブルに木のトレーを運んできた。
その上には、グラスが四つ。お皿が二つ。
「これ…。和人くん、学校でよく、チョコのお菓子食べてるから…。気に入るかと思って…。」
美由紀はそう言って、四角く切られた薄いチョコケーキのようなお菓子が乗ったお皿を俺の前に置いた。
「それから─。合うかと思って、アイスコーヒーと、あとアイスミルクティー。」
「美由紀…。」
「喉、かわいてるかな、と、思って。いっぺんに持ってきちゃったの…。ごめんね?」
美由紀は、少し申し訳なさそうにしていたけれど…。
美由紀が、学校で、俺のそんなところまで見てくれていたなんて…。
「うん。喉、かわいてたから、嬉しい。ありがとう。これ…何てお菓子?」
俺が言うと
「多分知ってると思うけど、ブラウニーって言うの。」
美由紀はそう言って微笑んだ。
「ああ。でも、俺、数えるくらいしか食べたことないや。早速だけど、食べてみていい?」

美由紀の手作りのブラウニーは美味しかった。
アイスミルクティーも。アイスコーヒーも。
あっという間にたいらげる俺を、美由紀は嬉しそうに見ていた。
「あ、何か…ごめん。」
俺は、我にかえって美由紀に言った。
「もっと、味わって食べれば良かった。」
「…美味しくなかった?」
美由紀はこちらをうかがうように言う。
「いや、全部美味しかったよ…っ。」
俺が、ムキになってそう言うと、美由紀は嬉しそうに微笑って。
「ありがとう。良かった。嬉しい。」
けれどそんな美由紀の笑顔は、どこか寂しそうだった。
「美由紀?」
「うちは、お姉ちゃんはダイエット中だし、お母さんは私の進路に反対してるから、誰も私のお菓子を食べてくれないの─。」
その瞬間、美由紀の瞳から涙がぽろり、と零れた。

ああ、この涙には弱いんだ─。
俺はそう思いながら、静かに涙を溢す美由紀を前に戸惑っていた。
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