4 / 34
(4)─中間試験─君との日々〈涙〉─
しおりを挟む
学校生活は楽しかった。
そこには、美由紀、君がいたから。
健康診断があったりして(男子たちはこぞって女子達の結果、主に胸囲、を気にしていたけど。)
俺は、美由紀の結果、胸囲諸々~。だけが気になっていた。
そんな毎日の中でも、試験はある。
中間試験がもうすぐ、という頃だった。
俺は、もう行きたい大学を決めていたから、一応そこで良い成績はとりたかった。
─あそこの大学に楽に入れるだけの成績をとらなきゃな
俺は、そんなことを考えてた。
そんな中。美由紀との帰り道。それぞれの将来について少し話した。最近は、二人で駅まで一緒にゆっくり歩いて帰る。
たまにクラスメートに(主に西村だったが。)
「お前ら、付き合ってんの?」
と、聞かれたが、その度、
俺は内心
もっと言ってくれ!
と思ってたけど、
その度に、美由紀は困った顔で
「…違うよ。付き合ってるとかじゃないよ。和人くんとは…そういうんじゃない。」
そう、答えてた。
クラスでも、可愛いと言われる方だった美由紀とのこの関係を他の男子にやっかまれなかったのは、ひとえにこの、美由紀の返事にあったらしい。
クラスメートに、俺は
《ヘビの生殺し状態》
とすでに呼ばれていたらしいから。
そんな関係の俺達の帰り道。
「和人くんは、将来の夢とかってある?」
美由紀が俺を少し見上げるようにして、尋ねた。
将来の夢かぁ…。
改めて。俺は考えた。
「良くわからないけど、行きたい大学ならあるよ。そのために勉強しなきゃって思ってる。」
「なりたいものではないの?」
俺の答えに、美由紀は納得していないようで、何だかちょっと不機嫌そうな顔をしてる。
そんな顔も可愛いな…。
こんなことを考えてしまうのは、やっぱり俺がどうしようもなく、美由紀のことが好きだからだろう。
「なりたいものっていうか…。俺…。これ、女の子にいうと誤解されやすいんだけど…。」
「え?何?漫画家さん?今は専門学校あるよね?声優さん?私…結構、まんが読むよ…和人くん。」
「うん…。ちょっと違うかも。俺、コンピューターをもっと勉強したくて大学に行きたいんだ。」
美由紀は、ちょっと難しい顔をしていたけれど
「…私は…パティシエになりたいの。お菓子の勉強をして、お菓子を一杯作れるようになりたい。そういうことだよね、和人くん。」
と納得したように、俺を見上げて笑いかけた。
パティシエ…。女の子だなぁ…。
やっぱり可愛い…。
俺は、場違いにもそんなことを思っていた。
そして。後日行われた─中間試験の結果─。
俺は、なかなか良い成績がとれたのだが…。
美由紀の結果は、散々なものだったらしく─。
放課後、担任に呼ばれていた。
俺が待っていると、美由紀は落ち込んだ顔で進路指導室から出てきて、
「どうしよう。私、パティシエになれなくなっちゃうよぅ。」
それは今にも泣き出しそうな声だった。
俺は、美由紀の夢が、そこまで本気だったことに驚いた。
俺は自分に夢中で、全然、隣にいる美由紀が見えてないじゃないか!
「大丈夫。大丈夫だから─。先生、何て?」
「あのね─。」
美由紀は、担任の教師の話をすると、涙をもう、こらえきれない、というように泣き出してしまった。
泣きじゃくる君を目の前にして、あの時の俺は、ただ、おろおろするばかりで。
そうだっ!
やっと気が付いた俺は、遅れて鞄からハンカチを取り出して、急いで美由紀に手渡した。
ところがそれは─。
「…和人くんのハンカチ、クシャクシャだね…。」
こんな時に、俺は─。
そう、自分の失態を悔いていたのだけれど。
美由紀はそれを見て、一瞬だけふっとわらった。
だけど、また泣き出してしまって、俺はもう、ただどうすれば美由紀が泣き止むかを考えて、ただ、焦るばかりだった。
とりあえず、その場から美由紀と二人離れようと、美由紀の肩を抱いて連れ出す。
廊下を美由紀を連れて歩いていると、友人の西村達が、からかうように
「泣かせてんなよ─。」
などと声をかけてきた。
次に会ったら覚えてろよ。
そんな目線を西村達におくり、俺はかまわず、美由紀と校舎を出た。
どこか、美由紀と二人、ゆっくり話の出来る所─。
美由紀の気分が晴れそうな─。
俺は、学校の端の大きな桜の樹の下に美由紀を連れて行った。
桜はもう緑の葉をつけ、葉桜になっている。
俺は、わざと大袈裟に、
「きれいだよなあ。桜は花もいいけど、緑もいいな。」
なんて言ってみるけど、
美由紀は、少し桜の樹を見上げて、
「…うん。和人くん…。…うん。」
とまだ涙声。
そんな美由紀に、
「美由紀、大丈夫だよ。担任の言ったことなんて気にするなよ。」
俺がつい、こんな不用意な言葉を言ってしまうと、美由紀の瞳には、また涙が溢れた。
美由紀は、俺に向かって必死で喋った。
「だって…私。小さい頃からずっと夢はお菓子屋さんで。中学の頃から…いづれ将来はパティシエになるって…っ。」
「うん。美由紀。…うん。」
俺は、美由紀の話を受けとめることしか出来ない。
「だから…。日曜日にはお菓子の本見ながらいつも作って勉強したり…お菓子屋さんに買いに行ったりして…っ。それを先生…っ。私じゃパティシエになれないって…っ。」
また、思い出して涙を堪えられなったのか、泣き出した美由紀をよそに、俺はかなり頭にきていた。
あの担任、人の─美由紀の─大切な夢を後押しこそすれ、否定してどうするんだよっ!
ん?でも何故?
「美由紀…。…先生、何で、美由紀には無理って言ったんだ?」
美由紀は、うつむき、俺のクシャクシャのハンカチで涙を拭ってる。
「私みたいな…しょっちゅう貧血おこすような体力がないのには勤まらないって…っ。それよりまず…成績をどうにかしろって…っ。」
俺はそこで、良いことを考えた、というように美由紀にきりだす。
「美由紀─。」
そこには、美由紀、君がいたから。
健康診断があったりして(男子たちはこぞって女子達の結果、主に胸囲、を気にしていたけど。)
俺は、美由紀の結果、胸囲諸々~。だけが気になっていた。
そんな毎日の中でも、試験はある。
中間試験がもうすぐ、という頃だった。
俺は、もう行きたい大学を決めていたから、一応そこで良い成績はとりたかった。
─あそこの大学に楽に入れるだけの成績をとらなきゃな
俺は、そんなことを考えてた。
そんな中。美由紀との帰り道。それぞれの将来について少し話した。最近は、二人で駅まで一緒にゆっくり歩いて帰る。
たまにクラスメートに(主に西村だったが。)
「お前ら、付き合ってんの?」
と、聞かれたが、その度、
俺は内心
もっと言ってくれ!
と思ってたけど、
その度に、美由紀は困った顔で
「…違うよ。付き合ってるとかじゃないよ。和人くんとは…そういうんじゃない。」
そう、答えてた。
クラスでも、可愛いと言われる方だった美由紀とのこの関係を他の男子にやっかまれなかったのは、ひとえにこの、美由紀の返事にあったらしい。
クラスメートに、俺は
《ヘビの生殺し状態》
とすでに呼ばれていたらしいから。
そんな関係の俺達の帰り道。
「和人くんは、将来の夢とかってある?」
美由紀が俺を少し見上げるようにして、尋ねた。
将来の夢かぁ…。
改めて。俺は考えた。
「良くわからないけど、行きたい大学ならあるよ。そのために勉強しなきゃって思ってる。」
「なりたいものではないの?」
俺の答えに、美由紀は納得していないようで、何だかちょっと不機嫌そうな顔をしてる。
そんな顔も可愛いな…。
こんなことを考えてしまうのは、やっぱり俺がどうしようもなく、美由紀のことが好きだからだろう。
「なりたいものっていうか…。俺…。これ、女の子にいうと誤解されやすいんだけど…。」
「え?何?漫画家さん?今は専門学校あるよね?声優さん?私…結構、まんが読むよ…和人くん。」
「うん…。ちょっと違うかも。俺、コンピューターをもっと勉強したくて大学に行きたいんだ。」
美由紀は、ちょっと難しい顔をしていたけれど
「…私は…パティシエになりたいの。お菓子の勉強をして、お菓子を一杯作れるようになりたい。そういうことだよね、和人くん。」
と納得したように、俺を見上げて笑いかけた。
パティシエ…。女の子だなぁ…。
やっぱり可愛い…。
俺は、場違いにもそんなことを思っていた。
そして。後日行われた─中間試験の結果─。
俺は、なかなか良い成績がとれたのだが…。
美由紀の結果は、散々なものだったらしく─。
放課後、担任に呼ばれていた。
俺が待っていると、美由紀は落ち込んだ顔で進路指導室から出てきて、
「どうしよう。私、パティシエになれなくなっちゃうよぅ。」
それは今にも泣き出しそうな声だった。
俺は、美由紀の夢が、そこまで本気だったことに驚いた。
俺は自分に夢中で、全然、隣にいる美由紀が見えてないじゃないか!
「大丈夫。大丈夫だから─。先生、何て?」
「あのね─。」
美由紀は、担任の教師の話をすると、涙をもう、こらえきれない、というように泣き出してしまった。
泣きじゃくる君を目の前にして、あの時の俺は、ただ、おろおろするばかりで。
そうだっ!
やっと気が付いた俺は、遅れて鞄からハンカチを取り出して、急いで美由紀に手渡した。
ところがそれは─。
「…和人くんのハンカチ、クシャクシャだね…。」
こんな時に、俺は─。
そう、自分の失態を悔いていたのだけれど。
美由紀はそれを見て、一瞬だけふっとわらった。
だけど、また泣き出してしまって、俺はもう、ただどうすれば美由紀が泣き止むかを考えて、ただ、焦るばかりだった。
とりあえず、その場から美由紀と二人離れようと、美由紀の肩を抱いて連れ出す。
廊下を美由紀を連れて歩いていると、友人の西村達が、からかうように
「泣かせてんなよ─。」
などと声をかけてきた。
次に会ったら覚えてろよ。
そんな目線を西村達におくり、俺はかまわず、美由紀と校舎を出た。
どこか、美由紀と二人、ゆっくり話の出来る所─。
美由紀の気分が晴れそうな─。
俺は、学校の端の大きな桜の樹の下に美由紀を連れて行った。
桜はもう緑の葉をつけ、葉桜になっている。
俺は、わざと大袈裟に、
「きれいだよなあ。桜は花もいいけど、緑もいいな。」
なんて言ってみるけど、
美由紀は、少し桜の樹を見上げて、
「…うん。和人くん…。…うん。」
とまだ涙声。
そんな美由紀に、
「美由紀、大丈夫だよ。担任の言ったことなんて気にするなよ。」
俺がつい、こんな不用意な言葉を言ってしまうと、美由紀の瞳には、また涙が溢れた。
美由紀は、俺に向かって必死で喋った。
「だって…私。小さい頃からずっと夢はお菓子屋さんで。中学の頃から…いづれ将来はパティシエになるって…っ。」
「うん。美由紀。…うん。」
俺は、美由紀の話を受けとめることしか出来ない。
「だから…。日曜日にはお菓子の本見ながらいつも作って勉強したり…お菓子屋さんに買いに行ったりして…っ。それを先生…っ。私じゃパティシエになれないって…っ。」
また、思い出して涙を堪えられなったのか、泣き出した美由紀をよそに、俺はかなり頭にきていた。
あの担任、人の─美由紀の─大切な夢を後押しこそすれ、否定してどうするんだよっ!
ん?でも何故?
「美由紀…。…先生、何で、美由紀には無理って言ったんだ?」
美由紀は、うつむき、俺のクシャクシャのハンカチで涙を拭ってる。
「私みたいな…しょっちゅう貧血おこすような体力がないのには勤まらないって…っ。それよりまず…成績をどうにかしろって…っ。」
俺はそこで、良いことを考えた、というように美由紀にきりだす。
「美由紀─。」
20
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
【完結】カワイイ子猫のつくり方
龍野ゆうき
青春
子猫を助けようとして樹から落下。それだけでも災難なのに、あれ?気が付いたら私…猫になってる!?そんな自分(猫)に手を差し伸べてくれたのは天敵のアイツだった。
無愛想毒舌眼鏡男と獣化主人公の間に生まれる恋?ちょっぴりファンタジーなラブコメ。
私の隣は、心が見えない男の子
舟渡あさひ
青春
人の心を五感で感じ取れる少女、人見一透。
隣の席の男子は九十九くん。一透は彼の心が上手く読み取れない。
二人はこの春から、同じクラスの高校生。
一透は九十九くんの心の様子が気になって、彼の観察を始めることにしました。
きっと彼が、私の求める答えを持っている。そう信じて。
「史上まれにみる美少女の日常」
綾羽 ミカ
青春
鹿取莉菜子17歳 まさに絵にかいたような美少女、街を歩けば一日に20人以上ナンパやスカウトに声を掛けられる少女。家は団地暮らしで母子家庭の生活保護一歩手前という貧乏。性格は非常に悪く、ひがみっぽく、ねたみやすく過激だが、そんなことは一切表に出しません。
ノアの箱庭~Noah's Ark Garden~
木立 花音
青春
【その日、世界の命運は一人の少女の命に委ねられた】
哘乃蒼(さそうのあ)が死んだ。
自分をかばって彼女だけが死んでしまったことを、主人公である長濱立夏(ながはまりっか)はずっと後悔していた。
そんな立夏の前に、死んだはずの乃蒼が再び現れる。
死んだはずの乃蒼がなぜここにいるのかはわからず、また彼女も、なぜ自分がここにいるのかわからないのだという。乃蒼が死んだあの日から、彼女の記憶は飛んでいるらしい。
何か未練を残していることによって、乃蒼がここにやってきたのだとしたら、それを解消するべきなんじゃないのか。そう考えた立夏は、二人でかつて書いていた、未完成のままになっている小説を二人で完成させよう、と提案する。
小説の完成が間近に迫ったある夏の日。二人の元に木田(きだ)と名乗る女性がやってくる。
「哘乃蒼は生きている」と木田に告げられ、向かった先の病院で、二人は衝撃的な光景を目にする。
見えてきた世界の秘密。乃蒼の正体。
世界の命運か。それとも彼女の命か。
二人は、厳しい選択を迫られることになるのだった。
タイムリミットは、彼女の命日である十一月三日。
「南風の頃に」~ノダケンとその仲間達~
kitamitio
青春
合格するはずのなかった札幌の超難関高に入学してしまった野球少年の野田賢治は、野球部員たちの執拗な勧誘を逃れ陸上部に入部する。北海道の海沿いの田舎町で育った彼は仲間たちの優秀さに引け目を感じる生活を送っていたが、長年続けて来た野球との違いに戸惑いながらも陸上競技にのめりこんでいく。「自主自律」を校訓とする私服の学校に敢えて詰襟の学生服を着ていくことで自分自身の存在を主張しようとしていた野田賢治。それでも新しい仲間が広がっていく中で少しずつ変わっていくものがあった。そして、隠していた野田賢治自身の過去について少しずつ知らされていく……。
【完結】君への祈りが届くとき
remo
青春
私は秘密を抱えている。
深夜1時43分。震えるスマートフォンの相手は、ふいに姿を消した学校の有名人。
彼の声は私の心臓を鷲掴みにする。
ただ愛しい。あなたがそこにいてくれるだけで。
あなたの思う電話の相手が、私ではないとしても。
彼を想うと、胸の奥がヒリヒリする。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる