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〈第12話〉琥珀の初めての嫉妬─①

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日が明けて。琥珀は思い出す。

─晴明により、人間の姿になった琥珀は、今は日の光も、だいぶ平気になった。但し。晴明の結界のなかなら。─

あの夜、晴明からの再びのくちづけの夜。

琥珀はセキレイの『紅』を紹介された。

琥珀は、考えずにいられない。

(晴明様、お苦しそうだった…。僕…。どんなことをされても良かったのに…。どうしてかな…。僕が子供すぎるのかな…。
 やっぱり、晴明様には、僕じゃだめなのかな…。)

そんなことを考えて、琥珀はまた切ない気持ちになっていた。

そんなとき。

不意に、紅の自分を呼ぶ声がした。

「琥珀様どこにいらっしゃるのですかあぁ!」

(あっ!もうお日様が、あんな所に!僕、紅との約束が…っ!)

気が付けば、もう、午後も日も高く。
紅との、約束の時間だ。

(…でも…。僕…。今、紅に…会いたくない…。)

晴明の屋敷に紅の声が高らかに響く。

あれから、晴明による、ある種乱暴な紅の紹介から、セキレイの化身である『紅』の丁寧な自己紹介が琥珀になされ、紅は琥珀の身の回りの世話。…お世話係となった。だが、それは、教育係もかねていたようで…。

『琥珀、お前はただ私の側にいれば良い』
晴明はそう確かに言っていたのだが。

琥珀の前に現れたセキレイの紅は、琥珀に、細やかな人間界の作法を、口うるさいととれるほど、丁寧に教え込んだ。
「人間界で通用する、話術、作法を身に付けなければ。いづれ琥珀様のお役にも立ちますから。」
必ず最後はそう言って。

教育係として紅は厳しかったが、琥珀は、そんな紅にとても感謝していた。

(…紅は、あんなに僕のこと考えてくれるのに…。…僕っ…。)

(…でも、親しそうにしてた晴明様と紅のことを考えると、僕…っ。胸が苦しくてっ。)

だからこそ琥珀は、その胸のうちに初めて抱く、紅への、いわゆる『嫉妬』のような思いに戸惑い、紅を避けた。

(紅は、僕の知らない晴明様を知っているの?
 あんなに綺麗なんだもの、かつて晴明様に愛された…の…?)

琥珀は、自分の胸に渦巻く想いにやけつきそうだった。

(あんなに紅は僕に良くしてくれてるのに…。僕は…!だけど…!)

そう思いながら…。

(紅い瞳の『紅』…。
 きっと、紅も晴明様が名付け、大切にされてるんだ…!)

(あんなに、綺麗な人だもの…!)

そう思うだけで琥珀は切なくて。

誰かを責めたいような、それでいて、とても自分がちっぽけなもののような気持ちになって、悲しかった。


紅との約束の、午後の書の時間。


本来なら紅が琥珀へと教えてくれることの決まっていた時間だった。

だが…、いまは、正直琥珀は紅に会いたくなかった。

(紅の顔、今は見たくない…。それから、僕の顔も。誰にも見せたくない…!)

そして。琥珀は屋敷の木の上に登ると、回りからは見えないような所へ姿を隠した。

(…ここなら、今の姿の紅ならみつけられないはず…。きっと。晴明様も。今だけ…。今だけ、一人になりたい…っ。)

琥珀には、紅が自分を呼び、探してくれている姿が見えたけれど、琥珀には、こんな自分をどうすることも出来ず、ただ、自分を探すのに加わった晴明と、困り果てている紅の姿を見ているしか出来なかった。
                                                    
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