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イヤメテの町

39「隣の部屋で『実の弟』のような少年が寝ているのに、無言のまま一人で激しい上下運動を繰り返してしまう、わたし…」の巻

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 宿屋の堅い木製の床の上で、片手の人差し指と親指だけで『指立て伏せ』をするカフェル。

 本人の指立て伏せの動きに応じて一斉に嬉しい悲鳴を上げるカフェルの上半身の筋肉マッスル達と、それに嫉妬する下半身の筋肉マッスル達(本人同様、筋肉も変態ヘンタイ)。

 激し過ぎる運動を淡々と繰り返しながらも、自分に厳しいカフェルは心の中だけで独りごちた。

(まだまだ、だな。わたしは……)

 カフェルは、冒険者だった父親譲りの『怪力』の特性を持っている。しかし、自分はまだまだそれを使いこなせてはいない…とカフェルは感じていた。

 おそらく、カフェルが我流で鍛えているせいでもあるのだろう。だが、実際問題として、冒険者をやりながら誰かに剣を教わることは難しい──


──
……わぁ!ふかふかの宿屋のベッド!

 宿屋の薄い壁一枚隔てて、隣の部屋に泊まるモビーの呑気な声が聞こえてきた。深刻に考えていたカフェルの頬に思わず笑みが溢れる。

(……まったく!
──あいつは子供の頃から変わらないな)

 カフェルは心のなかでそう独りごちながら床の上に座り、額に浮かぶ玉のような汗をタオルで拭う。
 幼なじみの『変わらなさ』にどこか安心しつつも、洞窟の中で自分の身体をタオルで拭った時の、意外と力強いモビーの指の感触をカフェルは思い出した。

 無意識的に自分の胸の辺りに指先を這わせながら、モビーの指先の感触を再現しようとするカフェル。

 最近、モビーは背も伸びて、少しずつ男性っぽくなってきたようにカフェルは感じている。

(……もうすぐ、背も追い抜かれる…かな?)

 お互いに無邪気な子供だった頃。

 「おねえちゃん、カフェルおねえちゃん!」と舌っ足らずなかわいい声で呼びながら、自分の後をよちよち追いかけてくる『ちっちゃなモビー』をカフェルは思い出す。

 ──あの頃は、自分が将来『モビーの部下』になるだなんて思いもしなかった。

 自分が無意識的にモビーの部屋の方をじっ…と眺めていることに気付いたカフェルは、フッ…と軽く自嘲的な笑みを浮かべた。

(なにを考えているのか、わたしは!あんな年下コドモ相手に…)

 カフェルのような、冒険者小隊の前衛戦士は小隊パーティー全体の『盾』でもある。それ故に小隊メンバーの誰か一人に対して、特別な想いを抱くことは赦されない。

 少なくとも、カフェルはそう思っている。

(……いまのわたしは、あいつの小隊の『戦士』だ!しっかりしろ、カフェルわたし!)

 自分で自分を叱咤しながら、カフェルはスクワットを開始した。突然始まった激しい上下運動に思わず歓喜の乳酸菌を放出するカフェルの下半身の筋肉達(ド変態)。そして、それに嫉妬するカフェルの上半身の筋肉達(ド変態2)


 ちなみに街にいる時のカフェルのトレーニングメニューは、『指立て伏せ(片手ずつ)×50回、スクワット×50回、V字腹筋×50回、骨密度を高める鉄球殴り(腕部と脚部)×50回、リアルシャドー3分』を、『10セット』繰り返す。
 バカじゃなかろうか。




 続く…
 次回は〚ラッテの夜〛…

 
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