たった一人の異世界侵略〜特殊スキル《弾幕》と《無限チュートリアル》でハンパな異世界を分からせに来た〜

アマノヤワラ

文字の大きさ
上 下
43 / 56

∞39【歴史は做(つく)られる】

しおりを挟む
≈≈≈

≈≈≈


 【竜の御座石みくらいし】が地中に埋められたことで、以前よりも低く平べったくなったレオ山。

 その山頂に、一人のおとこが立っていた。

 その男は、地元民にとっては信仰の対象であり地域のシンボルでもあるレオ山の山頂に『許可なし』で入山している。なぜなら、入山許可が下りるまでに時間がかかるし許可申請できる村まで赴くのが『めんどくさいから』である。

 しかも、男は登りやすい正規ルートの方ではなく、獣道とも呼ばないような岩山の断崖絶壁だんがいぜっぺきをよじ登ってきた。なぜ断崖絶壁をよじ登ったのかというと、一つには自身の“運動不足解消の為”でもある。この男にとって、約300メートルのほぼ垂直な岩壁を『命綱なし』でよじ登るのは『運動不足解消』であるらしい。
 もう一つには『……正規ルートじゃなくて別の道を来たんだから地元の方々にも文句は言われんだろう。実際、鳥とかカモシカとか文句言われてないし』という、この男なりの変な理屈からだ。

 そういうところ、この男は『バカ』なのだ。




「……ふぅん」

 レオ山の山頂に立ち、『ディオアンブラ伯爵』ことアゾロとエミルの父は、言葉とも呼気ともため息ともつかない声を発した。

 父は【竜の御座石みくらいし】跡地にある地面の『ある一点』を無表情のまま、『じーっ…』と見つめている。

 その場所には、何度も何度もしつこく地団駄を繰り返したような『小さな足跡』がいくつも残されていた。その大きさからして足跡の主は『子供こども』もしくは『小柄な女性じょせい』だろう。
 もう一度ふぅん…と言った後で、父はその足跡を辿って歩き始めた。

 この父は、『人の足跡あしあと』を見ただけで、その人が『大体どのくらいの強さなのか』が分かるという妙な特技を持っている。足跡を辿って歩きながら、父は心の中だけでこう独りごちた。

(……足跡と歩幅からして身長体重は『うちの娘』と同じくらい……歩く時の『踏み込み方のクセ』も全く同じ……)

 またふぅん…とつぶやきながら、父はさらに足跡あしあとの追跡を続ける。足跡は高い崖の手前で途切れていた。

 父は落ちないように気を付けながら、風が吹き上げてくる崖下を覗いてみた。崖はそのまま深い谷間に続いていて谷底が見えない。思わず父の睾丸の辺りがキュッ…となる。
 父は『匍匐ほふく前進』の要領で崖の縁ギリギリまで近付いて崖の壁面を観察してみたが、足跡の主が残した痕跡は見つからない。崖の壁面を降りた訳ではないようだ。
 足跡の痕跡からして、まるで足跡の主が『この崖から』父には感じられた。

 今度は父は『ふぅん…』とは言わなかった。
 黙ったままで、父は心の中だけで自分の分析結果を総括してみた。



 この足跡の主は。
1.【竜の御座石みくらいし】の上で、何度も何度もしつこく『地団駄』を繰り返した。
2.『自分の娘』と同じくらいの身長体重である。
3.『自分の娘』と同じ歩き方のクセを持っている。
4.『地団駄』の後で、崖からんでいる。
 いや『』……?



「……なるほどねー」

 父は絶壁のフチギリギリに腕を組んで胡座アグラをかき、崖下を見ながら心の中だけで独りごちた。

(……多分『地団駄これ』、うちの娘アゾロの仕業だ。……ここで何やってたのか知らないし、なんでいわが埋まってるのかも知らないけど……)

 納得したら、父はもう悩まない。
 “起こってしまったこと”は、この父にとってそれ以上でもそれ以下でもない。ただ、父には自分の娘アゾロが『何故ここで地団駄を踏んだのか』までは分からないが、それは帰ってから本人に直接聞けばいいことだ。

 残る問題は。
 『【竜の御座石みくらいし】が地面に埋まっていること、及び【竜】の行方不明事件と“うちの娘”はなにか関連はあるのか?』。
 



 父はしばらく腕を組んで考える。
 そして。

「………すげえめんどくさい」

 そう独りごちた後で父は立ち上がり、山頂に残っている『娘の足跡』を丁寧に丁寧に自分のブーツの分厚い靴底で消していった。
 
 そして、この件に自分の娘が関与した疑いのあるすべての証拠を隠滅した父は、

「……うちのムスメがスミマセンでした」

 と一言謝り、【竜の御座石みくらいし】に対して『心ばかりの』会釈をした。
 一応、この父にも『歴史に対する敬意』らしきものは、心の中にほんの幾ばくかは存在するらしい。

 そして、謝って自分の気が済んだ父は、今後の打開策を考える為に心の中で独りごちた。

(……さて、これから『皇帝』にどう『言い訳』しようかな……)

(……【竜】居なくなったって知ったら、皇帝アイツうるせえだろうな……)

(……【竜】が居なくなったのは多分【竜】自身の意志によるものだろう。アゾロが【竜】をどうこう出来る訳ないし。ていうか『人類じんるい』にはムリ……)

(……いわが埋められたとおぼしき予想犯行時刻は一昨日前の新月の晩。うちの娘アゾロの姿は目撃されてはいない。ただし周辺に住む複数の村人が深夜に鳴り響く『地鳴りのような大きな音』を聞いている……)

 【竜の御座石みくらいし跡地】上をウロウロと歩き回りながら、父は考え続けている。体術を使って『地面に足跡を付けずに歩き回る』ことなど、この父にとっては造作もない。父は地面に証拠あしあとを残さないように慎重に歩き回りながら、頭の中でこの件の後腐れのない解決方法を考える。

 国民も皇帝もみんなが納得できて、その上で『うちの家族アゾロ』に累が及ばない方法……。

 そして歩き回る父の脳裏に突然ひらめきがはしった。

(……『【竜】が勝手に癇癪を起こして【御座石みくらいし】を埋めた後、何処いずこへか去って行った』。……もう、……)

 もし今後【竜】がレオ山に戻ってきたとしても、【竜】の言語を解する者なんて『この世にはいない』ので、【竜】本人に事情を聞くことは『誰にも不可能』。

 それに『【竜】を罰すること』なんて、たとえ皇帝でも不可能。というか人類にはムリ。
 多分、この件は『【竜】がやった』ことにした方が国民も皇帝も納得するだろう。信心深いレオニア村の村人達へのフォローの方法は、なにか考えなければならないだろうが。

 この件へのアゾロの関与にしたって、今のところ確定しているのは、ごく最近アゾロが『【竜の御座石みくらいし】の上で地団駄を踏んだ』ということのみ。

 【竜の御座石みくらいし】は、『全長300平方メートル、厚み最大60メートルにも及ぶ円盤型の大磐おおいわ』である。そんな大磐を15歳の少女がどうこうするなんて『普通フツーに考えて不可能』。

 つまり、山頂の大磐が埋められてることと、【竜】の行方不明事件と、『アゾロの地団駄』を直接関連付けることは『誰にも不可能』。
 ならば、『この地の伯爵様けんりょくしゃ』である父が、『この件は【竜】がやった事だ!』と公表すれば、この件についてのアゾロの関与は永遠に隠滅される。

 この後、父はレオニア村で『一応の聞き取り調査』を行う予定だが、もし村人の誰かからアゾロの目撃証言があったなら……。


……その時は『知らんぷり』で誤魔化そう……




 その場に立ち止まったまま考えていた父は、ふぅ…と一つ息をつき、自分の両腰に手を当ててふんぞり返りながら言った。

「……そうだな。そうしよう。……犠牲者とかもいないことだし」

 この後がすげえめんどくさい、と最後にそう総括した父は、自分が最初によじ登ってきた垂直の断崖絶壁の方へと向かって歩き出した。断崖絶壁までは、峻厳に切り立つゴツゴツとした岩山の頂上の道を数キロほど辿って行かなければならないが、この険しい道程みちのりもこの父にとっては『運動不足の解消』でしかない。 

 ……でも、なんとなく後ろめたいから、ペナルティとして『断崖絶壁を降りる時は使』ことを、自分ルールとして勝手に決めた父であった。





To Be Continued.
⇒Next Episode.
≈≈≈

≈≈≈

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

Another World〜自衛隊 まだ見ぬ世界へ〜

華厳 秋
ファンタジー
───2025年1月1日  この日、日本国は大きな歴史の転換点を迎えた。  札幌、渋谷、博多の3箇所に突如として『異界への門』──アナザーゲート──が出現した。  渋谷に現れた『門』から、異界の軍勢が押し寄せ、無抵抗の民間人を虐殺。緊急出動した自衛隊が到着した頃には、敵軍の姿はもうなく、スクランブル交差点は無惨に殺された民間人の亡骸と血で赤く染まっていた。  この緊急事態に、日本政府は『門』内部を調査するべく自衛隊を『異界』──アナザーワールド──へと派遣する事となった。  一方地球では、日本の急激な軍備拡大や『異界』内部の資源を巡って、極東での緊張感は日に日に増して行く。  そして、自衛隊は国や国民の安全のため『門』内外問わず奮闘するのであった。 この作品は、小説家になろう様カクヨム様にも投稿しています。 この作品はフィクションです。 実在する国、団体、人物とは関係ありません。ご注意ください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

処理中です...