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∞34【アゾロVSエミル第三局面『刹那の立合い』】
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≈≈≈
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──『はっけよい!』
『残った!』──
母が発した決まり文句の直後、アゾロとエミルの両者がお互いに向かって同時に動き出した。
アゾロは『可愛い弟を力ずくで押し倒す』ために、弟に一直線に向かっていく。なんの工夫も作戦もなく『ただただまっすぐに』アゾロはエミルに向かって来る。
それに対して、エミルは……。
(押し倒す!そして、そのお腹に頬ずりしてくれる!!)
アゾロは頭の中だけで、そう独りごちた。
弟とのスキンシップしか頭にないアゾロの初手は、まっすぐ弟に向かって『ただ右手をのばす』。
……この時点で二人の勝負はほぼ決していた。
小兵な弟を捉えんがために『ただ右手を伸ばしてきた姉』に対してエミルの初手は。
『小さな両掌をアゾロの目の前でパァンッ!と激しく打ち鳴らす』
その技の名前は、アゾロも知っていた。
(……『猫騙し』!!)
アゾロは夢のおっさんから得た現代知識によって、この技の名前を知ってはいた。しかし、実際に誰かにやられたのは初めてである。
この恐るべき5歳児エミルは、普段からの弛まぬ努力によって『お手々パァン!』と自ら名付けたこの技を自分一人で開眼した。
アゾロはすぐ目の前で掌を打ち鳴らされて、本能的に『ほんの一瞬だけ』目を閉じて体の動きを止めた。しかし、なんとか本能に抗って無理矢理に目を見開き、アゾロはエミルの重なった両掌を片手で抑えんが為に、ほぼ反射的に右手を伸ばした。
……この行動もアゾロにとって『悪手』となる。
アゾロの動きが止まったほんの一瞬のうちに、エミルは『母豚の本気タックル』をいなす要領で姉が伸ばした右手の『外側から回り込み』、一瞬で姉の背後を取った。
そして、エミルはアゾロの両膝同時に本気の『膝カックン』をかます。
アゾロは意識外からの突然の両膝カックンにたまらず体勢を崩した。
アゾロ側からしたら、猫騙しで目をつぶったことと伸ばした右手の死角側から回り込まれたことで、完全にエミルに『虚』をつかれた形となる。
そして、そのままエミルはアゾロが履いている丈夫な『綿《めん》ズボン』の腰の両側を背後から掴んで、裏投げの要領で一気に『アゾロから見て左後方』に引っ張った。柔道でいうところの『後腰』という技なのだが、5歳のエミルは当然それを知らない。むしろエミルは異世界の競技である柔道の存在すら知らない。
この恐るべき5歳児エミルは、柔道の高等技術『後腰』を、『あの父の子』として持って生まれた格闘センスによって『たった今』思い付きで開眼せしめた。
猫騙しからの膝カックンの直後、自分の腰の後ろに突如発生した『左後方へ引っ張る遠心力』に、アゾロが思わず戸惑いの声を上げる。
「ウッ…ソ…」
相撲は地面に上体をついたら負けとなる決まりである。
そのため、アゾロは無理矢理に『立ったままの状態』を保持しようと試みた。大腿四頭筋・腸腰筋・臀筋・広背筋・腹斜筋・腹直筋・脊柱起立筋・僧帽筋・肩甲挙筋・上腕三頭筋。ありとあらゆる自分の筋力と骨格の『立つ力』を総動員して、力尽くで踏ん張ろうとした。
……これもアゾロの『悪手』となる。
恐るべき5歳の弟はアゾロのこの動きを読んでおり、アゾロの『腰の後ろ』に両腕で抱きついたまま少しジャンプして、自分の両脚でアゾロの両膝よりも少し上の辺りを『蟹挟み』でギュッ…と絞り込む。
そして、アゾロの腰の後ろにしがみつき『両脚を蟹挟み』でロックした状態で、エミルはさらに『左上体捻り』を加えて反時計回りの遠心力をアゾロの上体に加えた。
両脚をエミルの『蟹挟み』でロックされたままなので、アゾロには遠心力に対して抗する術がない。
「ウッ…ソ…!?」
エミルの『左上体捻り』が生み出した新たな遠心力によって『体勢を崩された』アゾロの上体が、反時計回り方向へと徐々に持っていかれる。自分とエミル二人分の体重を上体だけでは支えきれず、まるで朽木が倒れるようにアゾロの上体がゆっくりと『地面へと』向かって傾いていく。
エミルの蟹挟みで両脚を動かせないアゾロには、もはや抗いようもなく『背中から』地面に倒れ込むことしかできない。
……しかし、アゾロの腰の後ろには『5歳のエミル』がしがみついたままである。
「……ッ!? ウッ…ソォ!!!」
自分の腰の後ろにしがみつくエミルのちいさな体を自分の体の『下敷きに』すれば、アゾロはこの勝負には勝てるだろう。しかし、それでは『5歳のエミル』に重傷を負わせることになる。
弟を想う一人の『姉』として。
『5歳の弟に怪我を負わせてでも自分が勝負に勝つ』などということは。
アゾロには『出来なかった』……。
…To Be Continued.
⇒Next Episode.
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──『はっけよい!』
『残った!』──
母が発した決まり文句の直後、アゾロとエミルの両者がお互いに向かって同時に動き出した。
アゾロは『可愛い弟を力ずくで押し倒す』ために、弟に一直線に向かっていく。なんの工夫も作戦もなく『ただただまっすぐに』アゾロはエミルに向かって来る。
それに対して、エミルは……。
(押し倒す!そして、そのお腹に頬ずりしてくれる!!)
アゾロは頭の中だけで、そう独りごちた。
弟とのスキンシップしか頭にないアゾロの初手は、まっすぐ弟に向かって『ただ右手をのばす』。
……この時点で二人の勝負はほぼ決していた。
小兵な弟を捉えんがために『ただ右手を伸ばしてきた姉』に対してエミルの初手は。
『小さな両掌をアゾロの目の前でパァンッ!と激しく打ち鳴らす』
その技の名前は、アゾロも知っていた。
(……『猫騙し』!!)
アゾロは夢のおっさんから得た現代知識によって、この技の名前を知ってはいた。しかし、実際に誰かにやられたのは初めてである。
この恐るべき5歳児エミルは、普段からの弛まぬ努力によって『お手々パァン!』と自ら名付けたこの技を自分一人で開眼した。
アゾロはすぐ目の前で掌を打ち鳴らされて、本能的に『ほんの一瞬だけ』目を閉じて体の動きを止めた。しかし、なんとか本能に抗って無理矢理に目を見開き、アゾロはエミルの重なった両掌を片手で抑えんが為に、ほぼ反射的に右手を伸ばした。
……この行動もアゾロにとって『悪手』となる。
アゾロの動きが止まったほんの一瞬のうちに、エミルは『母豚の本気タックル』をいなす要領で姉が伸ばした右手の『外側から回り込み』、一瞬で姉の背後を取った。
そして、エミルはアゾロの両膝同時に本気の『膝カックン』をかます。
アゾロは意識外からの突然の両膝カックンにたまらず体勢を崩した。
アゾロ側からしたら、猫騙しで目をつぶったことと伸ばした右手の死角側から回り込まれたことで、完全にエミルに『虚』をつかれた形となる。
そして、そのままエミルはアゾロが履いている丈夫な『綿《めん》ズボン』の腰の両側を背後から掴んで、裏投げの要領で一気に『アゾロから見て左後方』に引っ張った。柔道でいうところの『後腰』という技なのだが、5歳のエミルは当然それを知らない。むしろエミルは異世界の競技である柔道の存在すら知らない。
この恐るべき5歳児エミルは、柔道の高等技術『後腰』を、『あの父の子』として持って生まれた格闘センスによって『たった今』思い付きで開眼せしめた。
猫騙しからの膝カックンの直後、自分の腰の後ろに突如発生した『左後方へ引っ張る遠心力』に、アゾロが思わず戸惑いの声を上げる。
「ウッ…ソ…」
相撲は地面に上体をついたら負けとなる決まりである。
そのため、アゾロは無理矢理に『立ったままの状態』を保持しようと試みた。大腿四頭筋・腸腰筋・臀筋・広背筋・腹斜筋・腹直筋・脊柱起立筋・僧帽筋・肩甲挙筋・上腕三頭筋。ありとあらゆる自分の筋力と骨格の『立つ力』を総動員して、力尽くで踏ん張ろうとした。
……これもアゾロの『悪手』となる。
恐るべき5歳の弟はアゾロのこの動きを読んでおり、アゾロの『腰の後ろ』に両腕で抱きついたまま少しジャンプして、自分の両脚でアゾロの両膝よりも少し上の辺りを『蟹挟み』でギュッ…と絞り込む。
そして、アゾロの腰の後ろにしがみつき『両脚を蟹挟み』でロックした状態で、エミルはさらに『左上体捻り』を加えて反時計回りの遠心力をアゾロの上体に加えた。
両脚をエミルの『蟹挟み』でロックされたままなので、アゾロには遠心力に対して抗する術がない。
「ウッ…ソ…!?」
エミルの『左上体捻り』が生み出した新たな遠心力によって『体勢を崩された』アゾロの上体が、反時計回り方向へと徐々に持っていかれる。自分とエミル二人分の体重を上体だけでは支えきれず、まるで朽木が倒れるようにアゾロの上体がゆっくりと『地面へと』向かって傾いていく。
エミルの蟹挟みで両脚を動かせないアゾロには、もはや抗いようもなく『背中から』地面に倒れ込むことしかできない。
……しかし、アゾロの腰の後ろには『5歳のエミル』がしがみついたままである。
「……ッ!? ウッ…ソォ!!!」
自分の腰の後ろにしがみつくエミルのちいさな体を自分の体の『下敷きに』すれば、アゾロはこの勝負には勝てるだろう。しかし、それでは『5歳のエミル』に重傷を負わせることになる。
弟を想う一人の『姉』として。
『5歳の弟に怪我を負わせてでも自分が勝負に勝つ』などということは。
アゾロには『出来なかった』……。
…To Be Continued.
⇒Next Episode.
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