71 / 74
第3章
70
しおりを挟む
メインの料理も食べ終わり、ダイニングテーブルから窓に向って置かれたソファーに二人は移動していた。
フルーツを使ったデザートとチーズのトレイを残してシェフは1階の店に下がった。
赤ワインを飲み干した後佐々木は「食後酒にするか」と言い、真理亜の返事を待たずにデザートワインを開封している。
沈黙が心地よく、佐々木が回すワインオープナーとコルクの擦れる音を聞きながら、真理亜は自分がもうかなり酔っていることを自覚していた。
「ほら」と佐々木は小さめのワイングラスを真理亜に手渡すと、もう1つを持ったまま真理亜の隣に座った。
二人はしばらく何も言わずにただそうやって座っていた。
「ここは子供の頃住んでいた家があったところなんだ」
佐々木はそう言ってからワインを口に含んだ。
「確かお兄さんがいたよね?」
「あぁ。兄貴は家業を継いでるよ」
「そっちを手伝わなくていいの?」
それには佐々木は答えなかった。
真理亜はワインをゆっくり飲んだ。
「俺は一生この店の切り盛りをやってるというのも有りだ」
「うまくやってるように見えるよ」
「まぁ、嫌いじゃない」
佐々木がワインボトルを取り上げて真理亜のグラスにまた少し注いだ。
「ワインの輸入をしたいんじゃないの?」
「ん~~」
また佐々木は答えなかった。
「急に歯切れが悪くなったわね」
佐々木はどう言うべきなのか迷っているようだ。
「俺、このままでも良いのかなって思うんだよ。
このまま桜羽の運営をして、このビルを管理して。
でも、親父や兄貴たちの会社で一緒に仕事をしたいとも思うんだ」
「もしかして会社に来いって言われたの?」
「いや。呼ばれるかもしれないし、そうじゃなくても俺が行きたいって言えば歓迎だろうな」
そこで言葉を切ってワインを自分のグラスに注ぐ佐々木を見ながら、真理亜は慎重に聞いてみた。
「じゃ、いずれはお父様の会社に入ることを視野に入れているのね」
佐々木はまた一口ワインを飲んでから、「あぁ、まだ先のことだけど、きっとそうなると思う。
でもまだ今はもう少しやりたいことがあるんだ」
真理亜はニヤニヤするのを止められなかった。
「お前にはお見通しだな」
佐々木もニヤリと笑った。
「ワインの輸入を考えてみたい」
「素敵なことだわ」
「俺にはまだ数年自由時間があるとおもう」
「うんうん」
「1~2年でいいんだ。フランスに行って来ようと思ってるんだ」
「へ~~~?」
「最近ずっと考えていたんだけど、今決めたよ」
真理亜はさらにニヤニヤ笑ってワイングラスを佐々木のグラスに当てて、「頑張って」と励ました。
「俺たち、また友達に戻っていいよな?」
「ずっと友達を止めたつもりはないんだけど?」
「じゃ、もう少し飲もう」
シェフが置いていったデザートやチーズを食べながら、二人はさらにグラスを重ねた。
フルーツを使ったデザートとチーズのトレイを残してシェフは1階の店に下がった。
赤ワインを飲み干した後佐々木は「食後酒にするか」と言い、真理亜の返事を待たずにデザートワインを開封している。
沈黙が心地よく、佐々木が回すワインオープナーとコルクの擦れる音を聞きながら、真理亜は自分がもうかなり酔っていることを自覚していた。
「ほら」と佐々木は小さめのワイングラスを真理亜に手渡すと、もう1つを持ったまま真理亜の隣に座った。
二人はしばらく何も言わずにただそうやって座っていた。
「ここは子供の頃住んでいた家があったところなんだ」
佐々木はそう言ってからワインを口に含んだ。
「確かお兄さんがいたよね?」
「あぁ。兄貴は家業を継いでるよ」
「そっちを手伝わなくていいの?」
それには佐々木は答えなかった。
真理亜はワインをゆっくり飲んだ。
「俺は一生この店の切り盛りをやってるというのも有りだ」
「うまくやってるように見えるよ」
「まぁ、嫌いじゃない」
佐々木がワインボトルを取り上げて真理亜のグラスにまた少し注いだ。
「ワインの輸入をしたいんじゃないの?」
「ん~~」
また佐々木は答えなかった。
「急に歯切れが悪くなったわね」
佐々木はどう言うべきなのか迷っているようだ。
「俺、このままでも良いのかなって思うんだよ。
このまま桜羽の運営をして、このビルを管理して。
でも、親父や兄貴たちの会社で一緒に仕事をしたいとも思うんだ」
「もしかして会社に来いって言われたの?」
「いや。呼ばれるかもしれないし、そうじゃなくても俺が行きたいって言えば歓迎だろうな」
そこで言葉を切ってワインを自分のグラスに注ぐ佐々木を見ながら、真理亜は慎重に聞いてみた。
「じゃ、いずれはお父様の会社に入ることを視野に入れているのね」
佐々木はまた一口ワインを飲んでから、「あぁ、まだ先のことだけど、きっとそうなると思う。
でもまだ今はもう少しやりたいことがあるんだ」
真理亜はニヤニヤするのを止められなかった。
「お前にはお見通しだな」
佐々木もニヤリと笑った。
「ワインの輸入を考えてみたい」
「素敵なことだわ」
「俺にはまだ数年自由時間があるとおもう」
「うんうん」
「1~2年でいいんだ。フランスに行って来ようと思ってるんだ」
「へ~~~?」
「最近ずっと考えていたんだけど、今決めたよ」
真理亜はさらにニヤニヤ笑ってワイングラスを佐々木のグラスに当てて、「頑張って」と励ました。
「俺たち、また友達に戻っていいよな?」
「ずっと友達を止めたつもりはないんだけど?」
「じゃ、もう少し飲もう」
シェフが置いていったデザートやチーズを食べながら、二人はさらにグラスを重ねた。
0
お気に入りに追加
92
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
隣の人妻としているいけないこと
ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。
そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。
しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。
彼女の夫がしかけたものと思われ…
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
秘密 〜官能短編集〜
槙璃人
恋愛
不定期に更新していく官能小説です。
まだまだ下手なので優しい目で見てくれればうれしいです。
小さなことでもいいので感想くれたら喜びます。
こここうしたらいいんじゃない?などもお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる