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第1話「孤児・松成汐里。」
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両親からこの屋敷を引き継いでから約半年が経った。海外での仕事が忙しくなった両親は私に一緒に海外に行くかと聞いたが、私は拒否し、この家に一人で残った。しかし…。
「一人で生活するには広すぎるのよねぇ…。」
この家に関してのことは全て私に任されている。私の生活は私の自由にしていいとの事だ。
「とりあえず買い物でも行ってこよ……。」
冷蔵庫の中身を確認した私は必要な物を紙に書き、コートを羽織って外へ出かけた。
「寒い……。」
袋を手に持ち、体を震わせながら歩いていると、ふと公園の遊具の下でうずくまっている人影が目に入った。いつもであれば無視をする所なのだが、今日の私はなぜかその人影が気になった。
「あ、あの…。」
近づくと、その人影は女の子だということが分かった。
「だ、大丈夫…?」
「さ、寒い……。」
少女はこの季節に大して絶望的なほど薄着で、どこから拾ってきたのか分からない汚れたダンボールにくるまっていた。
「そりゃあそんな格好じゃ寒いわ。これ貸してあげるから着なさい。」
少女からダンボールを取り上げ、その代わり私が来ていたコートを肩からかけてあげる。
「あなた、お家は?」
「……。」
少女は黙って寂しそうに首を横に振った。
「ご両親は?」
「……逃げた。」
私はその一言で全てを察した。この少女の両親は恐らく借金があったのだろう。それで返済することも出来ずにこの子を置いて夜逃げをした。だからこの子は帰る場所を無くしてこんな所で…。
「じゃあ、私と一緒に来る?ちょうど人が一人欲しかった所なの。」
「え……?」
今まで見せなかった少女の少し明るい顔に、私はホッとしてそっと手を差し伸べた。
「私は白石結衣(しらいしゆい)。あなたは?」
「松成汐里(まつなりしおり)です。」
汐里ちゃんの手を引き、公園から出ようと歩き出す。するとそこにスーツを着た怖い顔の男が数人現れた。
「探したぞ松成汐里。父親の分の借金、払ってもらおうか?」
「わ、私……、お金、持ってないです…。」
完全に怯えきった表情で、体を震わせる汐里ちゃん。しかしそんなことはお構いなく、男達は声を荒らげた。
「んなもんは分かってんだよ!女なんだから体でも売りゃあ支払いぐらい出来んだろって言ってんだよ。簡単な話だろ?男と寝るだけで借金無くせて自由になれる。もしかしたらお小遣いだって手に入るかもしれなねぇ。そうしたらお前の両親とももう一回一緒に暮らせるかもな。」
その男の言葉に汐里ちゃんの顔色が変わった。何かを決意したような、今までにない力強い目つきだ。
「ほ、本当に、そうしたらお父さんやお母さんと…。」
「あぁ、汐里ちゃんの頑張り次第だな。」
一歩、また一歩と男の方に歩いていく汐里ちゃん。その手を私は咄嗟に掴んだ。
「汐里ちゃん。行っちゃダメ。」
「結衣さん……。」
止めないでと言わんばかりの表情を浮かべる汐里ちゃんの目を真っ直ぐ見つめる。
「なんだ姉ちゃん。その子の友達か?」
「えぇ、さっき知り合ったばかりだけど、今からこの子を私が雇うつもりだったから、友達と言うよりかは雇い主と言った方が正解かしら?」
「そいつを雇う…ねぇ?誰の許可得てやってんだ?」
「この子にちゃんと許可は得てるわ。今から一緒に帰るところだったのに…。」
汐里ちゃんを体の後ろに隠すように男との間に立ち塞がる。
「ほぅ?その度胸は認めてやる。だがなぁ、払うもん払ってもらわなきゃこっちとしても引くに引けねぇんだよ。」
「あら?この子の親が残した借金っていくらなのかしら?」
「元金利息合わせて100万だよ!さぁ、代わりに姉ちゃんが払ってくれるのか?」
金額を聞いた瞬間私はポケットから携帯を取り出し、父親の会社の事務処理をしている斉藤という男の人に電話をかけた。
「まぁ、姉ちゃんみたいないい体してたら100万なんか稼ぐのあっという間だろうな。」
公共の場で下品な発言を連発する男を私は睨みつける。
『はい、斉藤です。』
「あ、斉藤さん?結衣です。」
『あぁー。これはこれは結衣お嬢様。ご無沙汰しております。本日はどう言ったご要件で?』
「詳しい理由は後で話すわ。今すぐに現金で100万円用意出来るかしら?」
『えぇ。その程度の金額でしたら、会社を通さずとも私のポケットマネーからご用意出来ますので、今すぐご用意出来ますが…。』
「お願い出来るかしら?場所はメールで送っておくわ。」
『かしこまりました。少々お待ちください。』
私が電話を切ると、その場に居た全員が呆気にとられたような表情をしていた。
「あ、あんた、一体何者だ?」
「父親が会社を経営しているから、普通の人よりも少し裕福なだけよ。」
嫌味全開でそう言い放つと、男たちはなんとも言えない顔をしていた。
しばらく経って、私たちの所に斉藤さんが到着した。
「お嬢様。お待たせ致しました。」
「ありがとう。さぁ、これが約束の100万よ。これでこの子は私の好きにさせてもらうわ。」
男たちに100万の札束を投げるように渡し、斉藤さんの乗ってきた車に汐里ちゃんと共に乗り込んだ。
私の家まで送って貰う間に、斉藤さんには今回の事を全て話した。斉藤さんは最初、今回のお金に関しては返す必要は無いと頑なに言っていたが、それだと私の気が収まらなかったので、後日無理やり斉藤さんにお金を返した。
今は使用人として雇った汐里と二人で暮らしている。買い物や食事の準備など、家事や雑用をこなしてもらう代わりに、ここでの安定した生活を送って貰うというのが私との契約内容だ。
こうして女同士、健全で仲睦まじい生活が順調にスタートすれば良かったのだが……。
「ご、ご主人様……それは……。」
ある事件がきっかけで、私たちの生活は早々から狂い始めたのだった…。
「一人で生活するには広すぎるのよねぇ…。」
この家に関してのことは全て私に任されている。私の生活は私の自由にしていいとの事だ。
「とりあえず買い物でも行ってこよ……。」
冷蔵庫の中身を確認した私は必要な物を紙に書き、コートを羽織って外へ出かけた。
「寒い……。」
袋を手に持ち、体を震わせながら歩いていると、ふと公園の遊具の下でうずくまっている人影が目に入った。いつもであれば無視をする所なのだが、今日の私はなぜかその人影が気になった。
「あ、あの…。」
近づくと、その人影は女の子だということが分かった。
「だ、大丈夫…?」
「さ、寒い……。」
少女はこの季節に大して絶望的なほど薄着で、どこから拾ってきたのか分からない汚れたダンボールにくるまっていた。
「そりゃあそんな格好じゃ寒いわ。これ貸してあげるから着なさい。」
少女からダンボールを取り上げ、その代わり私が来ていたコートを肩からかけてあげる。
「あなた、お家は?」
「……。」
少女は黙って寂しそうに首を横に振った。
「ご両親は?」
「……逃げた。」
私はその一言で全てを察した。この少女の両親は恐らく借金があったのだろう。それで返済することも出来ずにこの子を置いて夜逃げをした。だからこの子は帰る場所を無くしてこんな所で…。
「じゃあ、私と一緒に来る?ちょうど人が一人欲しかった所なの。」
「え……?」
今まで見せなかった少女の少し明るい顔に、私はホッとしてそっと手を差し伸べた。
「私は白石結衣(しらいしゆい)。あなたは?」
「松成汐里(まつなりしおり)です。」
汐里ちゃんの手を引き、公園から出ようと歩き出す。するとそこにスーツを着た怖い顔の男が数人現れた。
「探したぞ松成汐里。父親の分の借金、払ってもらおうか?」
「わ、私……、お金、持ってないです…。」
完全に怯えきった表情で、体を震わせる汐里ちゃん。しかしそんなことはお構いなく、男達は声を荒らげた。
「んなもんは分かってんだよ!女なんだから体でも売りゃあ支払いぐらい出来んだろって言ってんだよ。簡単な話だろ?男と寝るだけで借金無くせて自由になれる。もしかしたらお小遣いだって手に入るかもしれなねぇ。そうしたらお前の両親とももう一回一緒に暮らせるかもな。」
その男の言葉に汐里ちゃんの顔色が変わった。何かを決意したような、今までにない力強い目つきだ。
「ほ、本当に、そうしたらお父さんやお母さんと…。」
「あぁ、汐里ちゃんの頑張り次第だな。」
一歩、また一歩と男の方に歩いていく汐里ちゃん。その手を私は咄嗟に掴んだ。
「汐里ちゃん。行っちゃダメ。」
「結衣さん……。」
止めないでと言わんばかりの表情を浮かべる汐里ちゃんの目を真っ直ぐ見つめる。
「なんだ姉ちゃん。その子の友達か?」
「えぇ、さっき知り合ったばかりだけど、今からこの子を私が雇うつもりだったから、友達と言うよりかは雇い主と言った方が正解かしら?」
「そいつを雇う…ねぇ?誰の許可得てやってんだ?」
「この子にちゃんと許可は得てるわ。今から一緒に帰るところだったのに…。」
汐里ちゃんを体の後ろに隠すように男との間に立ち塞がる。
「ほぅ?その度胸は認めてやる。だがなぁ、払うもん払ってもらわなきゃこっちとしても引くに引けねぇんだよ。」
「あら?この子の親が残した借金っていくらなのかしら?」
「元金利息合わせて100万だよ!さぁ、代わりに姉ちゃんが払ってくれるのか?」
金額を聞いた瞬間私はポケットから携帯を取り出し、父親の会社の事務処理をしている斉藤という男の人に電話をかけた。
「まぁ、姉ちゃんみたいないい体してたら100万なんか稼ぐのあっという間だろうな。」
公共の場で下品な発言を連発する男を私は睨みつける。
『はい、斉藤です。』
「あ、斉藤さん?結衣です。」
『あぁー。これはこれは結衣お嬢様。ご無沙汰しております。本日はどう言ったご要件で?』
「詳しい理由は後で話すわ。今すぐに現金で100万円用意出来るかしら?」
『えぇ。その程度の金額でしたら、会社を通さずとも私のポケットマネーからご用意出来ますので、今すぐご用意出来ますが…。』
「お願い出来るかしら?場所はメールで送っておくわ。」
『かしこまりました。少々お待ちください。』
私が電話を切ると、その場に居た全員が呆気にとられたような表情をしていた。
「あ、あんた、一体何者だ?」
「父親が会社を経営しているから、普通の人よりも少し裕福なだけよ。」
嫌味全開でそう言い放つと、男たちはなんとも言えない顔をしていた。
しばらく経って、私たちの所に斉藤さんが到着した。
「お嬢様。お待たせ致しました。」
「ありがとう。さぁ、これが約束の100万よ。これでこの子は私の好きにさせてもらうわ。」
男たちに100万の札束を投げるように渡し、斉藤さんの乗ってきた車に汐里ちゃんと共に乗り込んだ。
私の家まで送って貰う間に、斉藤さんには今回の事を全て話した。斉藤さんは最初、今回のお金に関しては返す必要は無いと頑なに言っていたが、それだと私の気が収まらなかったので、後日無理やり斉藤さんにお金を返した。
今は使用人として雇った汐里と二人で暮らしている。買い物や食事の準備など、家事や雑用をこなしてもらう代わりに、ここでの安定した生活を送って貰うというのが私との契約内容だ。
こうして女同士、健全で仲睦まじい生活が順調にスタートすれば良かったのだが……。
「ご、ご主人様……それは……。」
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