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文芸部へようこそ?
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授業が終わるチャイムが鳴り俺はいつもの様に部室へと向かった。この部屋に来る生徒は俺だけということで特別に貸してもらっているスペアの鍵で、部室のドアを開錠して中に入る。
ガタッ!
扉を開けたと同時に部屋の中から大きめの物音がした。時間に限らずこの部屋に立ち入る人は俺以外に居ない。備品の乏しい部屋だから先生が来ることもごく稀だ。
「誰か居るのか?」
恐る恐る部室に入り隅から確認していく。もしかしたら風か何かで物か倒れただけかもしれない。そう思いながらも、一応棚の奥など色々な箇所を見て回る。
「うわっ!」
壁際に置かれた机の影を覗き込んだ瞬間、そこにはうちの制服を着た小柄な女子生徒が座っていた。
「びっくりした…。」
「それはこっちのセリフだ!ここで何してるんだよ。」
少女はまるで俺が悪いみたいな言い方をしながら立ち上がった。その襟元には、オレンジ色に装飾された学年章が付いている。
「え、2年ってことは…先輩?」
「あ、今見た目とか体型で同学年って決めつけてなかった?」
「いや、えっと…そんなことはないです。」
明らかに中学生レベルの体型をしている先輩を同級生と思い込んでしまうのは俺だけのせいじゃないと思うんだが…。そんなことを思いながらも、俺は気持ちを落ち着かせながら椅子に座った。
「で、学年違いの先輩がここで何をしてるんですか?」
「酷いなぁ。同じ文芸部の部員なのに部室に活動しに来ちゃいけないの?」
少し気だるげな喋り方をする先輩。今まで顔すら出さなかった人が何を言っているのやら。
「失礼ですけど、幽霊部員がいきなり部室に現れたら驚きますし、俺は先輩が部員であることも今知りました。」
「じゃあ、改めてよろしくって事で。」
マイペースに話を進めていく先輩は、タブレットを開いて何やら文章を打ち込み始めた。先輩が文字を打ち込む度にポコポコという電子音が静かな部室に響く。
「今日は何で部室に来たんですか?」
俺は疑問に思っていたことを直球で聞いてみた。俺が文芸部に入って約3ヶ月、一度も先輩の姿を見たことがない。今年度に入って一度も顔を出していなかった人が、なぜ急にここに来るようになったのかがずっと疑問だった。
「んー。静かな場所が欲しかったから…かな?」
タブレットに視線を落としたまま先輩はそう言った。使い込まれたタブレットと慣れた手つき、タイピング速度は画面でのキーボード入力だというのに俺よりも遥に速い。
「日課の執筆活動を邪魔されない静かな場所が欲しくて部室に来た…と?」
「そういうこと。この部活は幽霊部員が多いからね。」
この学校は生徒全員どこかの部に必ず所属しないといけない。高校生ともなれば部活よりも優先したいものの一つや二つあってもおかしくはないだろう。とりあえず地味な文化部に名前だけ置いて、あとは自由な学校生活を満喫するというのが蔓延した結果、この部は所属している部員の9割以上が幽霊部員となっている。
「幽霊部員しかいない部室に、まさか人が来るなんて思ってなかったからね。」
「俺も人が居るなんて思ってなかったですよ。」
相変わらずポコポコと文字を打ち込み続けている先輩。しかし、心なしかその指のスピードが遅くなってきているように見えた。
「…。」
ついには手の動きが完全にストップし、先輩は眉間にシワを寄せて目を閉じてしまった。
「行き詰まったんですか?」
「んー。」
唸る先輩。俺は椅子から立ち上がり先輩の方へと歩み寄った。
「内容、読んでもいいですか?」
「ん。」
許可を貰ったので、俺は先輩のタブレットを覗き込んだ。すると、そこには学校内のコンクールには到底提出できないような卑猥な内容が書き連ねられていた。
「これって…。」
「私はこういうのしか書く気になれないの。人間の3大欲求の一つなんだから誰にも否定させない。」
眉間にシワを寄せたままの表情で先輩は言った。
「俺も興味がないわけじゃないですけど、ちょっと意外というか…女の人でもこういうの書いたりするんですね。」
「あのね、女に制欲がないみたいな考えは全くの幻想だから。蓋を開けたら男よりもスケベな女なんていくらでも居るよ?」
人差し指を立ててキメ顔で言う先輩。そこまで決められてもと内心思いながら、俺は先輩が書いている官能小説に再び視線を落とした。
「で、どこで行き詰まってるんですか?知識があるわけではないですけど、俺でも力になれるなら知恵くらいはお貸ししますよ?」
「そう?じゃあひとつ質問なんだけど…。」
グリンッ!と首を回して俺を見上げるようにぱっちりとした綺麗な瞳をまっすぐ向けてきた先輩。その顔の近さに、不覚にも一瞬ドキッとしてしまった。
「君って童貞?」
「え…?」
ド直球な質問に一瞬言葉を失う。
「童貞卒業した瞬間の気持ちを知りたくてさ。君って童貞なのかな?って」
「ど、童貞だったらどうするんですか?」
動揺のあまり上擦った声になってしまった。
「童貞なんだったら話聞けないじゃん。」
「そうですよね。」
「あ、まさかこの先輩、俺の童貞卒業させてくれるのかも?とか思った?」
図星を突かれて一瞬焦る。こういう作品のアルアルじゃないのか?童貞卒業させてあげる代わりに感想を言え的な。それくらい一瞬期待しても別に良いだろ。
「べ、別にそんな期待してないですよ。」
「私に童貞卒業させてもらうのを期待と取るんだ。」
墓穴を掘った。俺の周りに流れている時間が一瞬止まったような気がした。
「まぁ、私は別に良いんだけどね。この先が書けるなら卒業させてあげても。」
呟くように言った先輩の言葉は、俺の心臓を鷲掴みにしてくるような威力があった。異性経験のない男子高校生が、目の前の異性に初体験させて貰えるなんて耳にしたら誰でも胸が高鳴るだろう。
「どうする?私で童貞卒業する代わりに、私の取材を受ける。質問に対する拒否権はなし。プライベートのことはもちろん聞かないけど、行為中の感覚とか心情とかは全部答えること。その条件を呑むなら童貞を卒業させてあげる。」
小柄な先輩は、慎ましい胸を張って堂々とそんな交渉をしてきた。不純なのは分かっている。でも、男として断ることが出来なかった
俺は、先輩の誘いに乗ることにした。
ガタッ!
扉を開けたと同時に部屋の中から大きめの物音がした。時間に限らずこの部屋に立ち入る人は俺以外に居ない。備品の乏しい部屋だから先生が来ることもごく稀だ。
「誰か居るのか?」
恐る恐る部室に入り隅から確認していく。もしかしたら風か何かで物か倒れただけかもしれない。そう思いながらも、一応棚の奥など色々な箇所を見て回る。
「うわっ!」
壁際に置かれた机の影を覗き込んだ瞬間、そこにはうちの制服を着た小柄な女子生徒が座っていた。
「びっくりした…。」
「それはこっちのセリフだ!ここで何してるんだよ。」
少女はまるで俺が悪いみたいな言い方をしながら立ち上がった。その襟元には、オレンジ色に装飾された学年章が付いている。
「え、2年ってことは…先輩?」
「あ、今見た目とか体型で同学年って決めつけてなかった?」
「いや、えっと…そんなことはないです。」
明らかに中学生レベルの体型をしている先輩を同級生と思い込んでしまうのは俺だけのせいじゃないと思うんだが…。そんなことを思いながらも、俺は気持ちを落ち着かせながら椅子に座った。
「で、学年違いの先輩がここで何をしてるんですか?」
「酷いなぁ。同じ文芸部の部員なのに部室に活動しに来ちゃいけないの?」
少し気だるげな喋り方をする先輩。今まで顔すら出さなかった人が何を言っているのやら。
「失礼ですけど、幽霊部員がいきなり部室に現れたら驚きますし、俺は先輩が部員であることも今知りました。」
「じゃあ、改めてよろしくって事で。」
マイペースに話を進めていく先輩は、タブレットを開いて何やら文章を打ち込み始めた。先輩が文字を打ち込む度にポコポコという電子音が静かな部室に響く。
「今日は何で部室に来たんですか?」
俺は疑問に思っていたことを直球で聞いてみた。俺が文芸部に入って約3ヶ月、一度も先輩の姿を見たことがない。今年度に入って一度も顔を出していなかった人が、なぜ急にここに来るようになったのかがずっと疑問だった。
「んー。静かな場所が欲しかったから…かな?」
タブレットに視線を落としたまま先輩はそう言った。使い込まれたタブレットと慣れた手つき、タイピング速度は画面でのキーボード入力だというのに俺よりも遥に速い。
「日課の執筆活動を邪魔されない静かな場所が欲しくて部室に来た…と?」
「そういうこと。この部活は幽霊部員が多いからね。」
この学校は生徒全員どこかの部に必ず所属しないといけない。高校生ともなれば部活よりも優先したいものの一つや二つあってもおかしくはないだろう。とりあえず地味な文化部に名前だけ置いて、あとは自由な学校生活を満喫するというのが蔓延した結果、この部は所属している部員の9割以上が幽霊部員となっている。
「幽霊部員しかいない部室に、まさか人が来るなんて思ってなかったからね。」
「俺も人が居るなんて思ってなかったですよ。」
相変わらずポコポコと文字を打ち込み続けている先輩。しかし、心なしかその指のスピードが遅くなってきているように見えた。
「…。」
ついには手の動きが完全にストップし、先輩は眉間にシワを寄せて目を閉じてしまった。
「行き詰まったんですか?」
「んー。」
唸る先輩。俺は椅子から立ち上がり先輩の方へと歩み寄った。
「内容、読んでもいいですか?」
「ん。」
許可を貰ったので、俺は先輩のタブレットを覗き込んだ。すると、そこには学校内のコンクールには到底提出できないような卑猥な内容が書き連ねられていた。
「これって…。」
「私はこういうのしか書く気になれないの。人間の3大欲求の一つなんだから誰にも否定させない。」
眉間にシワを寄せたままの表情で先輩は言った。
「俺も興味がないわけじゃないですけど、ちょっと意外というか…女の人でもこういうの書いたりするんですね。」
「あのね、女に制欲がないみたいな考えは全くの幻想だから。蓋を開けたら男よりもスケベな女なんていくらでも居るよ?」
人差し指を立ててキメ顔で言う先輩。そこまで決められてもと内心思いながら、俺は先輩が書いている官能小説に再び視線を落とした。
「で、どこで行き詰まってるんですか?知識があるわけではないですけど、俺でも力になれるなら知恵くらいはお貸ししますよ?」
「そう?じゃあひとつ質問なんだけど…。」
グリンッ!と首を回して俺を見上げるようにぱっちりとした綺麗な瞳をまっすぐ向けてきた先輩。その顔の近さに、不覚にも一瞬ドキッとしてしまった。
「君って童貞?」
「え…?」
ド直球な質問に一瞬言葉を失う。
「童貞卒業した瞬間の気持ちを知りたくてさ。君って童貞なのかな?って」
「ど、童貞だったらどうするんですか?」
動揺のあまり上擦った声になってしまった。
「童貞なんだったら話聞けないじゃん。」
「そうですよね。」
「あ、まさかこの先輩、俺の童貞卒業させてくれるのかも?とか思った?」
図星を突かれて一瞬焦る。こういう作品のアルアルじゃないのか?童貞卒業させてあげる代わりに感想を言え的な。それくらい一瞬期待しても別に良いだろ。
「べ、別にそんな期待してないですよ。」
「私に童貞卒業させてもらうのを期待と取るんだ。」
墓穴を掘った。俺の周りに流れている時間が一瞬止まったような気がした。
「まぁ、私は別に良いんだけどね。この先が書けるなら卒業させてあげても。」
呟くように言った先輩の言葉は、俺の心臓を鷲掴みにしてくるような威力があった。異性経験のない男子高校生が、目の前の異性に初体験させて貰えるなんて耳にしたら誰でも胸が高鳴るだろう。
「どうする?私で童貞卒業する代わりに、私の取材を受ける。質問に対する拒否権はなし。プライベートのことはもちろん聞かないけど、行為中の感覚とか心情とかは全部答えること。その条件を呑むなら童貞を卒業させてあげる。」
小柄な先輩は、慎ましい胸を張って堂々とそんな交渉をしてきた。不純なのは分かっている。でも、男として断ることが出来なかった
俺は、先輩の誘いに乗ることにした。
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