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何の罰か

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何かこの国マールバラ王国の第一王子エルトン・マイルズ・ホースウッド様がギャアギャアとカラスみたいに

「お前との婚約は破棄だ!セシリア!愛しいエステル・ギャブリエラ・ステップニー男爵令嬢に嫌がらせばかりしたと聞いている!エステルにはお腹に子がいるんだぞ!!?」
夜会に出席した来訪者達は一斉に私を見る。

はぁ?

知らんよ。私じゃない。ちゃんと調べたの?何でエステルなんとかさんも被害者面して目を潤ませてるんだろう?

身に覚えのない嫌がらせなんてしてないし王子が婚約者の私を放置して勝手に爵位の低い手を出しやすそうな女の子と遊んで妊娠させて何か口実つけて婚約破棄したかっただけじゃない?

と私…綺麗な銀髪の少しふんわりとした印象で胸は並クラスで消してだらしなくないプロポーションを持ち、エステルなんとかより明らかに美人だけど王子の目は腐ってるらしい。
ついには

「セシリア・ミキャエラ・チェスタートン侯爵令嬢!お前は冷たい!!肌なんか死人のように冷たいし、目も冷めてて死んでいる!気持ち悪い!エステルの輝くような生き生きした瞳とは大違いだ!」
と悪口まで言われた!!
後ろで控えていた私の侍女のリネットも流石に怒りでブルブルしてきた。
まぁ落ち着きなさいなリネット。
と私はアイコンタクトを送る。リネットは落ち着き耐えた。

肌が冷えているのは冷え性だからだし冷めた目とか言われてもお前らの浮気現場見た日からこうなったんだよ。何も信じられねえよ。
この浮気者が!!
こっちの方が婚約破棄してえとこだったんだよ!!

と言いたい。
が、我慢して

「判りましたわ…。婚約破棄を受け入れましょう…。お幸せに!殿下!」
と頭を下げて下がろうとしたら

「待て!お前にピッタリな結婚相手は既に決めている!お前の父君にももう紹介状は出しておいた!俺は優しいだろう?次の相手を見つけてやったんだ!感謝しろ!」
となんか凄い余計な事までしてきた。
何こいつ、こいつの方が嫌がらせだわよ!
きっとロクな相手ではないな…と悟った。
王子に寄り添う頭の悪そうな黒髪のストレートの女の子は少し笑ったような気がする。

勝手にしてくれ。もうどうでもいい。
どの道政略結婚とかでだったし。そこまでこの王子のこと実は好きでは無かった。
こいつそこそこ顔はいいけど性格悪いし。浮気はするし、しかも孕ませとるし。孕ませるのも婚約破棄の布石であることも私は察していた。

こいつは実はずる賢くて卑怯者だと言うことがなんか判ったので未練はすっぱりない。
婚約破棄できて嬉しいわ!

じゃあね!!



家に帰るとお父様は怒って髭をピンとさせた!
お母様は泣くし。王家との縁談に期待を寄せて今まで散々王妃教育で無駄に修行させられたのが全て水の泡だ。

そしてお父様は言った。

「これが王子に新たに紹介されたお前の夫となる方だ」
と姿絵を見せられた。王子の遠縁の親戚の伯爵で最近両親が亡くなり未だ独り身だそうな。
何の特徴もない青年の絵が描かれていた。むしろ地味?

「…ローレンス・アラスター・ファーニヴァル伯爵だ。20歳だそうだ。この姿絵では髪の毛があるが実はこれはカツラで…。本当は禿げた男らしい…」

「えっ!!?」
と驚いた!!あの王子!!禿げた人を紹介とか普通に性格悪い!!

王子ぶん殴ってきたい!!

「王子からの紹介を無碍に断れない…。伯爵家とは言え、王家に縁は少しはあるし…禿げた所だけ目を瞑って嫁に行ってくれないか?セシリア…」
とお父様は言う。うちは上に兄がおり兄が既に跡取りであるから女は嫁に行くのだ。兄も婚約者と結婚間近だし私がさっさと行かないと邪魔だろう。

仕方ないわね。

「判りました。伯爵様の所にお嫁に行きますわ」
とどうでも良くなり私は返事をした。もちろん社交界に出れば私は引くて天田で男達に声をかけられるだろうが、そこであのクソ王子が私に良からぬ噂を流して来るに決まっている!

あいつ、昔私がわざとじゃなく後ろにいたの気付かないで腕が当たり勝手によろけて肥溜に落ちたこと今も根に持っているのだ。
まぁ相当臭くて私は鼻を覆ったからそれ見て傷ついたみたい。性格が悪いとか冷めてる目とか言われたのはそのせいもあるけど自業自得じやない?



ともあれ私は禿げた青年伯爵のとこに白いドレスを着て馬車に侍女のリネットと乗り込んだ。

リネットは可愛らしくリスのようなくりくりした黒目で泣いた。

「何で!お嬢様みたいなお美しい方が禿げた方へ嫁がないといけないのでしょう!?酷いっ!お嬢様は銀の髪にアイスブルーの美しい瞳…それにプロポーションも抜群であの頭悪そうな男爵令嬢なんかよりよっぽどおモテになるのに!!あの令嬢絶対にしたたかですよ!妊娠なんて!!王子の方もですが、こんなタイミングよくします?最低ですわ!お二人とも!!」
とリネットは茶色の髪とおさげを揺らし怒った!

「済んだことよ…。私は悪役令嬢で幕を引くわ。あの人達がヒーローでヒロインなんでしょ?自分たち中心で邪魔者の悪役令嬢が酷い目に遭い退散したってことでもういいわ。ありがとうリネット…」

「うう!あんまりですわ!お嬢様!禿げ男に初夜を捧げるなんて!!」
とまだリネットは泣いていた。
初夜か…。潤の勉強もしたけど…なんかもうどうでもいいわ。勝手にしてくれや…。
と思った。諦めの境地…。
今更王子達に復讐する気も起きないし王族に手を出したならうちが没落するかもしれない。兄達の婚姻も無くなったら私のせいになる。
我慢すればいい。私だけが。

それで丸く収まる。


伯爵家までは数日かかったけどようやく到着してウェディングドレスのまま私は伯爵邸を潜る。王家の縁と言っても建物自体は古く何か床もギシギシ言う。王子め!!こんなとこに飛ばしやがって!

「ああ!ようこそ!奥様!待ちわびておりました!ようやく坊ちゃん…いえ、旦那様にもお嫁様が来られた!」
とお爺さん執事のディーンさんが挨拶した。
使用人達も頭も下げた。
階上からカツラをつけた伯爵が柱からチラリと顔を出した。私を見ると慌てて柱に隠れた。

「ローレンス様!旦那様!こんなにお美しい花嫁様がいらっしゃいましたよ!早く降りてらっしゃい!!」
とディーンさんは叱る。

ビクビクそろそろと階段を降りてくる。地味顔で赤くなり消え入りそうな声で

「よ、ようこそ初めまして!この度はどうも遠路遥々お疲れでしょう?……ああ、とてもお美しくていらっしゃる!姿絵よりもずっと!」
と褒める。

「どうもよろしくお願いしますわ。私はセシリアと呼び捨てでも、おいとかお前とかでもいいですわよ」
と投げやりで言うと慌てて

「と、とんでもないです!セシリア様!うちより爵位の上の方にこちらが丁重におもてなさなければなりません!う、うちは王家の縁があると言っても本当に少しで…何故僕があんまり会ったこともない王子から紹介を受けたのか判らず…」
なにい?こいつも王子になんとなく利用されてたのか?

「結婚相手を探していたのではないのですか?だってその…髪…」
と言うとローレンス伯爵は素直に観念し

「ああ、やはり王都の方でも広まっておりますか?私の禿げは」
とカツラをあっさり取り後ろを向いて禿げを見せた。使用人は少しだけ笑っている。
頭のてっぺんより少し下後頭部に円形禿げが3つくらいある。恥ずかしそうに俯いてボソリと言う。

「すみません。こんな頭で…。あの僕…す、ストレスに弱くて昔からそれで気付いたら若い頃からもうこうなって笑われて…それで僕の所に来るお嫁さんもいないし、僕が女の人を好きになると相手は迷惑そうな顔をされるのでそ、その…も、もういいんです」
としょぼくれた。
まぁ見た目だけ見たら笑う者はいるだろう。

「ああ!安心してください!!僕は貴方に指一本さわりませんよ?初夜などただの体裁で別々の部屋を用意しておりますから今夜はゆっくりお休みください!お食事も用意しております!」
とまるで客扱いだ。

「………ローレンス様…お薬とか試されましたの?ストレスならば治るのでは?」
と言ってみるが

「あはは…まぁ最初は…頑張ったんですけどなんだか虚しくなりやめたんです…。僕…一生孤独で生きようと決めていたものですから…」
とまたしょぼくれていた。

それから私はそのまま少しのもてなしや結婚料理や宴会芸みたいなものを見せられた後普通にお部屋に通された。掃除はされ綺麗に整えられた1人用のベッドで眠ることとなった。

仮面夫婦かと少し思ったが。
旦那様は終始申し訳ないと言いつつ、私の顔をチラチラと見てはいたけどやはり申し訳ないという顔をしていた。



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