上 下
20 / 33
番外編

女友達とショッピング

しおりを挟む
私とケヴィン様は、こっそりと邸を抜け出した。裏口からコソコソと外に出て、裏門に辿り着く。そこにも門番がいるのだが、私と女装したケヴィン様を見た。

ごくりとケヴィン様を見て、門番さんが頰を赤くされた。

「奥様?どうしたのですか?この方は?」

「お友達よ。実は庶民の方だから、こっそりと裏門から出て、街で私、お買い物したくて」

「そんな!奥様!それなら護衛を付けられた方がいいでしょう!街は危険な者共がいるかもしれません」
私はゴソゴソと金貨の袋を渡して護衛さんに

「お願いですわ、見逃して?私達なら大丈夫ですわ、私もどこから見ても地味な街娘でしょ?」

「ですが、奥様に何かあったら旦那様が…」
と心配する護衛さんに、ついにケヴィン様が

「おい、私がいて、妻に何かあるわけない。こう見えて強いからね」
と声を発すると護衛さんは驚きの表情をした。

「えっ!!?ま、まさか!!旦那様……ですか!!?この美少女……が……いやでも、そんな馬鹿な!!」

「そのまさかだ。この事は生涯秘密にしてくれないと君を首にするし、土に埋めることになるよ」
とにっこりする美少女に震え上がり、護衛さんはどうにか外へと出してくれて

「くくく、くれぐれもお気を付けて!!」

と言い、手を振る。
私達はニコニコとして歩いた。

「ケヴィン様…街へは乗合の馬車に乗るんですよね」

「ええ、そうよ。大丈夫、痴漢されないようにエルは私が守ってあげるからね!」
と美少女が微笑む。うっ!美しい!!

「ありがとうございます。ケヴィン様!」

「その呼び名…この姿には似合わないし、何か女の子の名前にしない?」
と2人で考えながら歩いて、最終的にナツミとなった。
どうやらケヴィン様の前世のお名前がナツミと言うらしい。

「ナツミ様……」

「へ、変かしら?この世界では、あんまり聞かないわよね?」

「いえ……ケヴィン様も久しぶりに言われて嬉しいかと思いますので、そう呼ばせてもらいますわ」

「別にナツミの時は様とか付けなくても良くない?私達は今、街の女友達という設定よ?ね?エル」

「私の呼び名は、今まで通りなんですけど…」

「それは別に良いじゃないのよ?」
なんだか不公平ですが、私もナツミと呼び捨てにする事にした。


乗合馬車に乗ると、いつもの貴族の馬車とは違い、揺れが段違いだった。凄く揺れる。平民の皆様は慣れていて、落ち着いているが、私とケヴィン様…ナツミは気持ち悪くなった。

「だ、大丈夫?エル…。な、なんなら私の服に吐いていいのよ?」
と青い顔をしてナツミが言うが

「だ、大丈夫ですわ、これくらい」
美少女に吐くわけにはいかない!!

そうして揺られながらも街に着いた。着いた途端、椅子を探して座ったけど。

ナツミは私の背中をさすってくれた。

「ありがとうございます。ナツミ」

「お互い様ね。……少し休んで街を周りましょう」

「はい……」
と話していると、何やら柄の悪そうな男達が近付いてきた。

「ゲッ!……こう言うのって、街、見回ってエルが迷子になってから登場するチンピラじゃ無いの?」
と言うから

「何で私が迷子になる前提なんですか?」
と呆れる。

「お嬢さん達!可愛いね!!特に長身の子!!すっげー美少女じゃん!!」

「何?この街に来たの?俺達が街を案内してやろうか?」

「それとも、気分悪そうだし、宿屋で休むかい?」
とニヤリとして近付くのでナツミは、ふらりと立ち上がり……

【背負い投げ!】

と男達を次々とぶん投げた。
ゼェハァ言い、ついにお腹を抑えて…男達の顔や服に盛大に吐いた!!

「ふん!……美少女の吐瀉物は、有り難く貰っておきなさい!」
と言う。……いや、汚い。

「エル、立てる?」

「なんとか」
と私はナツミに支えられて、近くにあった民家の井戸を借り、ナツミは口を濯いだり、私は少し井戸水を飲み、ようやく落ち着く。

「ふう、……スッキリした」

「そうですね、これで街を周れますね」
と言うと

「そうね!さぁ!買い物するわよ!!」
と私達は普通の娘さんみたいに、はしゃぎ、いろいろな物を見たり、買ったり、食べたりした。

今日は奥さんと旦那という関係を忘れて、女友達として過ごした!
ナツミは、今までに無いくらい楽しそうだった。

途中で男の方に声を何度もかけられた。皆、ナツミの容姿を見て近寄ってきた。相当な美少女ですからね。まさか男だとは思いもしないでしょう。
その度に、ナツミは笑顔でジュウドウの技を決めて撃退したけど。

「ほほほ!悪い虫は退治しないとね!」
と美少女は笑う。

冷たい庶民のアイスを見つけると、たくさん買って食べ合いをした。

「エル!そっちのイチゴ味、少しちょうだい!」

「ナツミのブルーベリーも!」
と私達は食べ合う。
私も、何だかワクワクして、楽しい時間を過ごした。最後にアクセサリー屋さんで可愛らしいネックレスをプレゼントされた。私からもプレゼントした。お揃いの色違いの猫のモチーフのものだった。

夕方になり、帰る時間になると乗合馬車を待つ。

「ああ、楽しかったわ。久しぶりに女に戻れて…私…満足よ……」

「また!また来ましょうよ!」
と言うとナツミは

「そうね……バレなかったらね……」
と微笑む美少女。

「エル、ありがとう!男に戻ったら、たくさんキスしてあげるわね」
と言うから恥ずかしくなる。旦那様ったら。

しかし邸に戻ると、鬼のようなゴッド様が裏門に仁王立ちされていてナツミを見て一瞬驚くが…

「ケヴィンだな?」
と言うと

「あら、それ、誰のことかしら?」
とすっとぼけたが声でバレて、ナツミこと、ケヴィン様は、思い切りゴッド様に殴られてしまった。

「変態に育てた覚えはない!!エルメントルート様が可哀想だろ!この馬鹿者!!」


男に戻り、頰を腫らしてしくしく泣いたケヴィン様は

「あんの、クソ親父…イケメンの顔になんて事すんのよ!昔から容赦ないわほんと」
因みに女装した服やカツラは、ゴッド様が取り上げてしまわれた。

「絶対、またリベンジしてやるわ!覚えてなさい!クソ親父!」
と頰をさする。

「可哀想に……薬をつけて差し上げますわ」
とクリームを塗ろうとしたら、手を掴まれキスされた。

「うふふ、今日は楽しかったけど…夜も楽しみましょう」
とケヴィン様は目をギラギラさせたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されなかった者たち

ましゅぺちーの
恋愛
とある学園にて、高位貴族の令息五人を虜にした一人の男爵令嬢がいた。 令息たちは全員が男爵令嬢に本気だったが、結局彼女が選んだのはその中で最も地位の高い第一王子だった。 第一王子は許嫁であった公爵令嬢との婚約を破棄し、男爵令嬢と結婚。 公爵令嬢は嫌がらせの罪を追及され修道院送りとなった。 一方、選ばれなかった四人は当然それぞれの婚約者と結婚することとなった。 その中の一人、侯爵令嬢のシェリルは早々に夫であるアーノルドから「愛することは無い」と宣言されてしまい……。 ヒロインがハッピーエンドを迎えたその後の話。

【1/21取り下げ予定】悲しみは続いても、また明日会えるから

gacchi
恋愛
愛人が身ごもったからと伯爵家を追い出されたお母様と私マリエル。お母様が幼馴染の辺境伯と再婚することになり、同じ年の弟ギルバードができた。それなりに仲良く暮らしていたけれど、倒れたお母様のために薬草を取りに行き、魔狼に襲われて死んでしまった。目を開けたら、なぜか五歳の侯爵令嬢リディアーヌになっていた。あの時、ギルバードは無事だったのだろうか。心配しながら連絡することもできず、時は流れ十五歳になったリディアーヌは学園に入学することに。そこには変わってしまったギルバードがいた。電子書籍化のため1/21取り下げ予定です。

妹に婚約者を奪われたので、田舎暮らしを始めます

tartan321
恋愛
最後の結末は?????? 本編は完結いたしました。お読み頂きましてありがとうございます。一度完結といたします。これからは、後日談を書いていきます。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

【完結】婚約者は自称サバサバ系の幼馴染に随分とご執心らしい

冬月光輝
恋愛
「ジーナとはそんな関係じゃないから、昔から男友達と同じ感覚で付き合ってるんだ」 婚約者で侯爵家の嫡男であるニッグには幼馴染のジーナがいる。 ジーナとニッグは私の前でも仲睦まじく、肩を組んだり、お互いにボディタッチをしたり、していたので私はそれに苦言を呈していた。 しかし、ニッグは彼女とは仲は良いがあくまでも友人で同性の友人と同じ感覚だと譲らない。 「あはは、私とニッグ? ないない、それはないわよ。私もこんな性格だから女として見られてなくて」 ジーナもジーナでニッグとの関係を否定しており、全ては私の邪推だと笑われてしまった。 しかし、ある日のこと見てしまう。 二人がキスをしているところを。 そのとき、私の中で何かが壊れた……。

【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~

胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。 時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。 王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。 処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。 これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。

母と妹が出来て婚約者が義理の家族になった伯爵令嬢は・・

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
全てを失った伯爵令嬢の再生と逆転劇の物語 母を早くに亡くした19歳の美しく、心優しい伯爵令嬢スカーレットには2歳年上の婚約者がいた。2人は間もなく結婚するはずだったが、ある日突然単身赴任中だった父から再婚の知らせが届いた。やがて屋敷にやって来たのは義理の母と2歳年下の義理の妹。肝心の父は旅の途中で不慮の死を遂げていた。そして始まるスカーレットの受難の日々。持っているものを全て奪われ、ついには婚約者と屋敷まで奪われ、住む場所を失ったスカーレットの行く末は・・・? ※ カクヨム、小説家になろうにも投稿しています

【完結】私を捨てて駆け落ちしたあなたには、こちらからさようならを言いましょう。

やまぐちこはる
恋愛
パルティア・エンダライン侯爵令嬢はある日珍しく婿入り予定の婚約者から届いた手紙を読んで、彼が駆け落ちしたことを知った。相手は同じく侯爵令嬢で、そちらにも王家の血筋の婿入りする婚約者がいたが、貴族派閥を保つ政略結婚だったためにどうやっても婚約を解消できず、愛の逃避行と洒落こんだらしい。 落ち込むパルティアは、しばらく社交から離れたい療養地としても有名な別荘地へ避暑に向かう。静かな湖畔で傷を癒やしたいと、高級ホテルでひっそり寛いでいると同じ頃から同じように、人目を避けてぼんやり湖を眺める美しい青年に気がついた。 毎日涼しい湖畔で本を読みながら、チラリチラリと彼を盗み見ることが日課となったパルティアだが。 様子がおかしい青年に気づく。 ふらりと湖に近づくと、ポチャっと小さな水音を立てて入水し始めたのだ。 ドレスの裾をたくしあげ、パルティアも湖に駆け込んで彼を引き留めた。 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞ 最終話まで予約投稿済です。 次はどんな話を書こうかなと思ったとき、駆け落ちした知人を思い出し、そんな話を書くことに致しました。 ある日突然、紙1枚で消えるのは本当にびっくりするのでやめてくださいという思いを込めて。 楽しんで頂けましたら、きっと彼らも喜ぶことと思います。

処理中です...