73歳転生悪役令嬢の終活

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 一通り綺麗になった診療所で三人で祝杯をあげる。あたしはヴェルナー様用にお皿を取り分けてやると

「ありがとうございます!僕もアイリーンさ、さんのお皿に!」
 とヴェルナー様か照れながら取り分けてくれる。推しの手からサラダが!!

「全く、これで両思いじゃないとか嘘だろう?ひっく!」
 既にワインを何本か飲み干したエルヴィンさん…。こいつ…。

「エルヴィンさん飲み過ぎだよ?」

「たまにはいいだろうが?ひっく!ひひひひひ!めでたいな!綺麗になって嬉しいな!」
 と酔いが回り出している。

「エルヴィンさん、もう寝たほうがいいよ。明日も村に行くとか言ってただろ?」

「そうだあー!医者だーわし!」
 とそこからベラベラと村の話や妻の話を始めてベロベロに酔って机に頭をつけてガーガーと寝始めたもんだからあたしとヴェルナー様でエルヴィンさんをなんとか寝室まて運んだ。

 それから二人でテーブルの上の片付けを始めた。
 皿を洗い、ヴェルナー様が食器を拭いて棚にしまう。その作業が終わると

「ヴェルナーさん、疲れたろ?休んでいいんだよ」
 と言うとヴェルナー様は

「アイリーンさんこそ…疲れたでしょう?」
 と言う。

「あたしは慣れてるからね、まぁ久々家事やったけどね。子供やら孫がいるとねぇ…」
 とつい前世の癖を言ってしまった。

「は、はぁ!?子供!?ま、孫まで!?い、いつの間に!?一体誰の!?ええ?まさか王子…!!?いや、でも…破棄されて…え?隠し子!?」
 と混乱していた。

「あ、あああ!違う違う!ちょっと本の中の話とごっちゃになっちまってたよ!!ごめん、勘違いさ!あたしに子供はいない!孫も!ちょっとやっぱり疲れてるみたいだね!はは!」
 と誤魔化したらヴェルナー様は

「な、なんだ…本の話ですか。びっくりした…」

「そうだよぉ!!あたしが欲しいのはヴェルナーさんとの子供に決まってんだろ!やだねぇ!!ははは!」

「ええーー!?」
 と今度は真っ赤になっている。ふふ可愛いじゃないか。実はあたしもさっき少しだけ酒を拝借しちまったんだよね!


「ほ、本当にどうして僕なんか…」
 と動揺するヴェルナー様の手を引き窓の下へ連れて行く。

「ほら!見てみな!月だよ!二つもある!!」
 この世界の月は何故か二つありここが異世界だと思い知らされる。未だに夢じゃないかと思うが、月が証明している。

 ぼんやり月の光を浴びているとヴェルナー様が

「……月は昔から二つあるけど……う、美しい…」

「ん?そうだね!月は綺麗なもんさ!そういや、『月が綺麗ですね』って求婚の仕方もあったね。小説で読んだよ。」
 どっかの文豪の有名なやつだったね。前世の。

「え…!?い、いや僕のはそう言う意味ではないですよ!?でも…あの…本当に美しいので描きたいなぁ……はっ!ご、ごめんなさい!僕!失礼な!」
 と慌てる。

「ん?どうしたんだい?当たり前じゃないか。ヴェルナーさんは画家志望なんだから描きたい時もあるさ!なら描けばいいじゃないか。月」
 と言うと驚いた顔をして首を振る。

「ええ…と…。つ、月じゃなくて!!そうじゃなくて!!そそそそのぉ…えと…描きたいのは…アイリーンさんで…」
 とボソボソ真っ赤になりながら言う。

「ん?あたし?ははは!あたしならいつでも描いとくれよ!!」

「えっ…いいんですか?僕…人物を描いた事あまりなくて…」

「ほんとかい?そういやアトリエで見た絵は全部固形物だった様な」

「わぁ!恥ずかしい!僕の絵なんて見ても…」

「上手かったじゃないか!自信持っていいよ!ヴェルナーさん人物絵の練習にあたしを使いなよ!」
 と言うとヴェルナー様は赤くなり

「ご迷惑ではないのですか??」

「迷惑?なんで?あたしはもう令嬢でもないんだから!いいに決まってるだろ!あ、もしかしてヌード…全裸になれってことかい?」
 と言うと目をぐるぐるし出して

「な!なな、何言ってんですか!そそそんな破廉恥な!!僕はそんなの描きません!普通にしててください!」
 と言いヴェルナー様はスケッチ用の紙束を取り出した。スケッチブックが無いからバラバラだね。

「ちょっと貸しとくれよ」
 と言いキョトンとしたヴェルナー様から紙束を取って糸で縫い付け、少し折り目をつけて捲れる感じにしてスケッチブック風にしてみた。

「ほら、こうやれば本みたいにめくって描けるよ。縦に捲るんだ」
 と言うと驚いたヴェルナー様は

「凄い発想ですね!こんな事思いつかなかった!」
 と言う。

「ふふ、物は考えようだよ」
 とあたしは椅子に座りじっとしていた。

 ヴェルナー様がチラチラとあたしを見て恥ずかしいね。推しは真剣に絵を描いていた。それから数分毎にページを捲り描き続けていた。ようやく一息すると絵が見たくなり

「絵できたかい!見せとくれよ!」
 とお願いすると恥ずかしそうに

「で、でも下手で…」
 と言い背後に隠そうとするのでしつこく付き纏いようやく見せてもらえた。

 そこには月明かりに照らされたいい女がいた。あたしか!

「おおお!上手いじゃないか!流石才能があるねぇ!これ売ったら売れるよ!世辞じゃないよ!」
 と言う。少なくともあたしなら100万出してでも買うね!
 と思っていたら

「そんな…僕なんて大した事なくて…絵の具もなかなか買えないし…画家なんて無理で」
 と眉を下げるが

「そんな事ないよ!!自信がないねぇ!ヴェルナーさんは!この絵が素晴らしいのなんて画商に見せればわかることさ!」

「無理ですよ…平民の描いた絵なんかを評価する画商はいません…」
 としょんぼりするヴェルナー様にあたしは

「素晴らしい絵なら誰が評価しても値はつくさ!!そうだね!そう言う目利きの画商を探そうじゃないか!」
 とあたしは腕を捲る。

 確かゲームではヒロインが画商を探してあげるストーリーがあったね。

「そんなこと…」

「ヴェルナーさん…家に戻って学園に行きな?あたしは心配ないよ。画商は探しておくから。学業も大事だよ。お金を家族に出してもらってんだろ?ちゃんと通って卒業しな!画商になるんだろう?頑張らなきゃダメだ。

 学園を卒業してないと舐められるよ?社会は手厳しいんだわ!」
 と言うと

「で、でも!」
 と言うからあたしは思い切ってヴェルナー様に抱きついて背中をポンポンした。ビクッとしたが気にせず

「大丈夫大丈夫。ヴェルナーさんが立派になること願ってるよ。体調も良くなってきたし心配ないよ。画家をめざしとくれ」
 と言うとヴェルナー様が

「……そ卒業しても絵を描いても売れないかも…」
 自信なく言うからあたしは言った。本来ヒロインが言うところだけど。

「なら…あたしが最初に買ってやるよ!!」
 そう言うとヴェルナー様が驚いてあたしを見た。いやだね、綺麗な瞳でこちらを見ないでくれ!推し様!!

「……僕の絵を?最初に!!?」

「ああ。嫌かい?シャーリィさんの方がいいかい?」
 と言うとヴェルナー様は首を振り赤くなり

「いえ!ぼ、僕…アイリーン様に買っていただきたい!です!」
 と言い嬉しそうに微笑んだ。
 くわ!心臓にくる!年寄りをときめかせるんじゃないよ。
 あ、若かった。

「じゃあ約束だね。ヴェルナーさん!」

「は、はい!!」
 とあたしとヴェルナーさんは月明かりの下約束をした。

 それから数日してヴェルナー様は家に戻って行った。
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