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傘を買いに

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 程なくしてイドミさんとミッキーくんは土倉家へと引越してきた。

「この度はどうもお世話になってやってもいいでござる」
 ともはや喋り方がおかしくなったミッキーくん。やはり金持ちなこの家に慣れないようだ。
 しかも足と額を怪我したのかイドミさんに支えられている。

「ミッキーくん、足と額はどうしたの?」

「ちょっと…転んだだけだ…」
 と赤くなる。

「鬼にやられたのかと思ったよ」
 と優平くんは心配した。

「ミッキー様は私のセクスィーさにやられたのデストロイ」
 何があったんだろ?

「煩い!そ、そんなわけあるかっ!!と、とととにかく世話になるし、一応お前の言い分を聞いてやってもいいぞ?……………すんません、雑用でもなんでもお申し付けください!」
 と後半は下っ端社員のようになるミッキーくん。

「とりあえず今日は安静にして怪我治してね。僕は鈴さんと傘を買いに行くよ。じゃあね」
 と私は優平くんと傘を買いに式神に乗り出かけた。

 *

 若者の街は多くの人でいっぱいで逸れないよう優平くんと手を繋ぎ歩いた。ようやく傘屋に着いていろいろな傘の柄を見る。

「好きなの選んでね。何時間でも待ってる」

「流石に何時間はかかりませんよ」
 と私が言うと優平くんはにこりとしている。
 結局2本に絞り悩んだ。
 一つは赤い華模様の傘にもう一つは青い水玉の物だ。どちらにしようか悩んで華模様に決めた。

「とっても似合うと思う!鈴さん!!」
 と優平くんはベタ褒めするから照れる。
 それからクレープ屋と言うお洒落なお店で注文した。

「ふあ!甘い!!」
 イチゴのクレープを注文して食べ歩いた。漫画やドラマでもよくある光景だわ。
 こういう時一口ちょうだいと言うのかな?
 ガツガツしてると思われるかな?
 チラリと優平くんを見ると

「ん?鈴さんどうしたの?」
 と聞かれる。私はモジモジしながら

「一口欲しいのです」
 と言った。優平くんのはチョコのヤツだった。

「い、いいよ…」
 と勧められて食べる。美味しい!!
 優平くんはにこにこしている。

「私のも食べますか?…」
 と差し出すと彼は照れて

「いや、いいよ。鈴さんは食べるの好きでしょ?全部たべなよ?ね?それを見てる方が僕は好きだから」
 と言うから嬉しい。私はパクパク食べてしまった。

「鈴さんクリームが…」
 と頰に着いたクリームをきちんと拭いてくれる優しい旦那様にキュンとくる。

 しかしその時何か鬼の気配を感じた。
 優平くんは私を引き寄せ咄嗟に隠匿の術で隠れた。

 道の端からヤクザ風の男達が話している。1人はひょろ長く、1人は少し小太りの男だった。
 手には何かスーパーでの買い物品を持っていた。

「姐さんも人使い荒いんちゃう?」

「せやかて…仕方ありませんがな…」
 とブツブツ言っている。私達の前を気付かず通り過ぎた。

『優平くん…あの人達…この前の鬼と同じ匂いがします…』
 キュッと裾を握ると優平くんは

『後をつけてアジトを探ってみる?』
 と言ったので私はコクリとうなづいた。

 そのまま奴等を付け始めた。

「しかし…酒呑童子の兄貴はどこにいてはるんやろな?」

「これだけ見つからんと…もしかして記憶がないんか?」

「判らへんなぁ…でもその可能性はあるわ…。あの人は人から産まれた鬼やから…。人に憧れとるとこあったしな」

 それを聞くと私はゾワリとした。酒呑童子が私と同じく人から産まれた鬼…。

 彼等はとあるマンションに入って行きオートロックらしく私達は中へは入れなくそこで追跡は終わった。

『奴等の居場所が判っただけでも良かったよ…』

『はい…でも…優平くん…これからどうするんです?流石に中までは入れないし…。…優平くんを酷い目に合わせたから許せないです。優平くんの血を舐めたら私強くなれるし…あいつらを成敗したい…』
 するとそんな私に首を振る。

『ダメだよ鈴さん…今日はこのまま帰ろう?危険だ…』
 優平くんはマンションをスマホで撮影して位置情報を登録した。
 それから帰路に着くことにした。
 充分マンションから離れた人家のない場所で術を解くとそこはいわゆる歓楽街の路地裏であった。

「しまったな、変なとこで術を解いちゃった。でもあまり長くかけてると負担もかかるだろうしと壁に寄りかかる。!

「大丈夫ですか?優平くん…」

「今日はバスを使いましょう…」
 優平くんは嫌そうな顔をした。

「バス…」

「心配なら私が窓側に!」

「でも…混んでたら…」

「もうっ!優平くんは心配症すぎますって!」
 すると優平くんは

「す、鈴さんが可愛い過ぎるからいけないんだよぅ。し、心配だよぉ…」
 と泣きそうになるから

「もし痴漢が出たら守ってくださいね…」
 と言うと彼はおどおどしながらもコクリとうなづいた。
 バスの停留所はすでに列ができ、これは座るのは無理そうに思えた。

「だから言ったのにいい…」
 チラリと前の男の子…小学生くらいの綺麗な顔の子が私達を見た。

「…………」
 直ぐに前を向いて黙った。
 ようやくバスが到着し私達は乗り込んだ。
 やはり混んでいる。通路側は何とか優平くんが私の後ろにピタリとついた。私は取っ手部分を握り座席の横の部分に身体をピタリとくっつけた。まぁ痴漢される割合はこれで減ったかな。

 前にはあの男の子がいたし。
 程なくしてバスは進み出した。
 これがバス…。
 ようやく乗れたけど、密集していてあんまりいいものじゃないなと思った。立ちっぱなしなのもつらい。座席に座ってる人なんか女の人は化粧をしてるお姉さんがいてほのかに化粧臭い。ルール違反では?他にもサラリーマンが疲れて座っていてお婆さんが立っているのに席は絶対に譲らなかった。私が座席にいたら譲るのに。

 と思ってたら反対側の青年が
「お婆さん良かったらどうぞ?」
 と自分の席を開けたが…お婆さんはあろうことに

「あ、すみませんね、でもいいんです。直ぐに降りますから…」
 と言い、断っていた!なんてことなの!
 青年は何とも言えなく愛想笑いで誤魔化していた。反対側のサラリーマンはそれを見ていてほら見たことかと言う顔をしていた。

 更に前の方では煩いくらい喋る女子高生がいた。かなりの音量でこちらまで聞こえる。

「で、前橋に告られたの?でなんて?てかあいつ臭くね?」

「え?そうなの?」

「そうだって!あいつ臭いの!あたし席隣であいつからしょっ中臭い臭いすんの!何だろうと思ってたら…あいつ弁当にくさや入れてたよ!!」

「ま、まじで!?あり得ない!」

「ね!?辞めときなって!!」
 それに後ろの方の学生の男の子は震え出した。まさか!!この子が前橋くんでは!?
 と察した。
 ようやくバスは止まり何人かは降りて何人かまた入れ替わりに入る。前橋くんらしき人は女子高生たちが降りて泣いていた。可哀想に。

 バスは揺れて私は前方に倒れそうになったけど優平くんが後ろから抱きとめて大丈夫だったが手が胸に当たり慌てて優平くんは離した。

 ようやく私達の降りる停留所で優平くんは

「降ります!!」
 と言い、私を押しやり何とかお金を箱に入れて脱出できた。

 はぁはぁ、バスって辛い!痴漢は何とか無かったけどこれは嫌な乗り物だわ。

「お疲れ様…優平くん…」

「お疲れ様…僕やっぱりバス苦手だよ…」

「はい…私も…」
 と言いながら2人で手を握り帰るが、私は気付いた。

「あーーーーーー!!!!」

「どっ、どうしたの!?鈴さん?」
 優平くんは何事かと聞いた。私は涙目になった。

「ううう…。バスに…傘忘れちゃった……」
 ぐすんぐすんと泣き出し優平くんはなだめた。

「仕方ないよ、また買いにいこうね?」

「でも、あれ一本しか無くて…」
 と泣いているとタッタっと音がして

「すみません、傘忘れてましたよ」
 と先程の男の子が私の傘を持ってきてくれた!!

「あっ!ありがとう!!!」

「ありがとう!」
 とお礼を言うと少年は

「いえいえ…では失礼します」
 と頭を下げて行ってしまった。

「良かったね鈴さん!」

「はい!!」
 私は傘を握りしめて笑顔になる。

 *

 傘を渡して塾に向かった。
 小学生の僕、宇城晃樹は思った。

 (鬼の娘…にあの男は…間違いない顔はあいつに似ていた。土御神聡明の…生まれ変わり…今度こそ二度と関わらないようにしよう…僕は普通の小学生…普通の小学生なんだ!!前世なんかもう知らない!!繰り返される戦いに運命の相手…嫌だ…僕は僕は…酒呑童子として生きたくない!!)

 全力で気配を消した。僕は人間だ。
 人間なんだ…。

 しかし何かが心をざわついた。

 (何故殺さない?奴を。我の宿敵!!)

 やめろ…鎮まれ!!
 僕は全力でその気持ちに蓋をした。
 何人も人や動物を殺して喰って成長した大昔の自分が記憶にある。そして力も持っている。興奮すると額から五本の角が現れ、15個の目が身体中に現れるのだ。それは人には視えない。人ならざる者か陰陽師の力を持つ者霊感などを持つ者に視えるのだ。だから僕は興奮せずになるべく心穏やかに過ごすことにしている。

 酒呑童子もその配下の鬼達も知らない!
 ぼ、僕は!!立派な公務員になって安定した生活を送りのんびりするんだ!!

 と塾に急いで誰かとぶつかった!!
 瞬間その人を見てドキリとした!!不味い!!

「いったーーい!!何すんのよ!」
 女子高生くらいのお姉さん…というか完全に茨城童子の生まれ変わりだ。くっ!!何でここで!?

「すみません!急いでで僕塾に遅れちゃう!!」
 と走った!!

「え?君………?」
 女子高生の視線が痛い。気付かれては無いはず!それに小学生なんだから!!
 この想いも直ぐに消してみせる!何度も愛し合った愛しい相手だが、もう繰り返すことはできない!
 因縁はここで断ち切る!

 *

「う…嘘だ…」
 走っていく美少年な小学生を見て愕然とした。
 あれはどう考えても…あいつじゃないか!?
 この高鳴る胸の鼓動が告げていた。
 直ぐに立って追いかけなければと思ったがあまりの事に思考が追いつかなかった。

「どうして…」
 もはやそれだけしか言えなかった。 
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