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第二部 第二章 追跡者

65・魔王城跡地にて

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 野営で一晩過ごした、私たちは魔族領の魔王城跡地に居ました。
 周りを湖に囲まれた、何もない――本当に何もない所でした。
 巨大な湖の中央に浮かぶ小さな孤島に、私たちはただ、立ち尽くしていたのです。

「ここが、魔王城があった場所……」
「魔王はまだ……誕生していなかったので……四天王の一人が魔力で建てた……城でした」

 四天王ヴィーダ。
 次期魔王と称され、実際に魔王の因子を持っていたヴィーダは、サーラに瞬殺されてしまい、その魔王因子をサーラが取り込むきっかけとなった魔族軍の幹部だそうです。
 ヴィーダを倒してからのその後は、魔王になりかけていたサーラがその魔力で、魔王城を維持していたと言うのです。

「なつかしいなの」
「そうですね、ニナ」

 ニナとフォウの二人はかつてこの場所に、アランと共に乗り込んで魔王になりかけたサーラと対峙したのでした。
 そしてここは、私の知る魔王アランが誕生した場所でもあるのです。

「ここが魔族領なのね。次からは私でも転移出来るようになったから、もう戻りましょうか」

 昨日までの状態だと、魔族領に転移出来るのはサーラだけだったので、一度その地に足を踏み入れて私も転移出来るようにしておこうと、昨晩の野営の時に天使たちと相談して決定したのでした。

「近くに魔族の気配も無いですし、とりあえずの危険は無さそうですよ。もう少し偵察しておきます? リーダーのサオリが決めてください」
「え? うーん、どうしようか」

 カーマイルに言われて、迷いました。
 転移可能な場所を広げるのはいいのですが、フォレスがまだ目覚めていない状態で魔族と会敵かいてきするのは避けたい所です。
 ただの魔族ならまだしも、それが魔王だったり、もしくは魔王を呼ばれでもしたら最悪です。

「サオリ様、今の所魔王の居所は分かりません。少し探索しておきますか?」

 フォウがそう言うのなら、それでもいいかな。
 でもちょっと、その前に――

「ちょっと待ってね」

 私はある事を思いついて、ショルダーバッグからスマホを取り出しました。
 スマホで多く使われる事のある機能――『検索』を試してみようと思ったのです。
 なにせこれは、神様の手が入った特別製のはずですから、ただの検索機能ではないかも知れません。

「検索、検索っと」

 検索をするためのアプリはどれでしょう。
 私がいつも使っていたツールは、どれも消去されていました。
 そのかわりに、見た事もない知らないアイコンがいくつか表示されています。

「どれだろう……」

 髭を生やした、お爺さんの顔のアイコンがあります。
 これは神様でしょうか。
 とりあえす押してみましょう。――ポチっとな。

「なんじゃ?」
「うわ!」

 スマホのスピーカーから、神様の声が聞こえてきました。
 これって……通話機能!?

「ちょっとサオリ! それはいったい誰の声ですか!? まさか……」

 カーマイルの驚いた声に振り向いて、私は答えました。

「か、神様が出た……」
「おい、何か用かの? 忙しいんじゃ、手短にせい」

「神様ですって!? どういう事ですか?」と、目を丸くしているカーマイルを置き去りにして、私は神様の急かす声を響かせている、スマホに向き直りました。
 まさか、この世界で通信出来るだなんて。

「神様? サオリです……ちょっと聞きたい事がありまして」
「サオリなのは分かっておる。何の用じゃ?」

 やはりこのスマホはこの世界で、唯一無二のアイテムなのでしょう。
 でもまさか、神様とのホットラインになっているとは思いませんでした。 
 
「これに検索機能ってありますか?」
「あるぞ」
「どこです?」
「ちゃんと『けんさく』って書いてあろうが。よく見んか、ワシは忙しいんじゃ」
 
 そんなアイコンありましたっけ……?

「ではその検索で、特定の人物は探せま――」
「時間切れじゃ、余程の事が無い限り掛けてくるでないぞ。心得ておけ、バカチンが」
「ば、バカチン!?」

 その言葉を最後に、プツっと通信を切られてしまいました。
 なんだか忙しそうな様子でしたが、一応検索機能がある事は聞けました。

「ちょっとサオリ! 今のはいったい何だったのですか!?」
「何って普通に会話してたのよ。これがスマホの本来の機能よ。神様にしか繋がらないみたいだけど」
 
 サーラも興味津々な様子で近寄ってきて、スマホを眺めています。 

「凄い……ですね。……魔法でも、同じような事……出来ない……でしょうか」
「サーラなら出来ちゃうんじゃない? うん、そんな気がする」

 サーラほどの大魔法使いなら、いずれ通信魔法とか開発してしまいそうです。
 もしかしたら、サーラと同じレベルの魔法使い同士なら、可能なのではないでしょうか。
 この世界の通信手段で、魔法を使った伝書鳩みたいなものは見た事はありますけれど、その時は鳩がしゃべって伝言を伝えていました。

「それよりも、検索はどれかな……」

 スマホの画面のアイコンを一つずつ見て行くと、怪しいものがありました。

 『健作くん』

「どこの健作君よ……」

 そのアイコンにタッチしてみると、専用のブラウザが開き、文字が入力できるフォームが出てきました。
 どうやら検索アプリはこれみたいです。

「しかし健作くんって……神様は漢字が苦手なのね」

 とは言え、読みは合っているので、よく異世界の国の言語で再現出来たものだと、感心しました。
 さすがは神様と言った所でしょうか。

「では、さっそく」

 久しぶりの操作でも、スムーズに文字が打てました。
 検索――『魔王』
 けれども、入力した瞬間、画面が真っ暗になってしまいました。

「バグ? 何も表示しないんだけど」

 戻るボタンで検索画面に戻しました。
 今度は『魔族』と入力します。
 私は何か新しい情報が得られたらラッキー、という程度の期待しかしていませんでした。
 なので、このアプリが壊れていたり、意味の無いものだったりしても「あの神様ジジイ」とちょっと悪態をついて終わりです。

 画面はまたしても真っ暗になりましたが、今度はポツンポツンと小さな光点が、数か所で浮かんでいます。

「これって、もしかして」
「魔族の所在を示しているのでは……」
 
 横から覗いていたフォウが呟きました。
 検索した対象の情報を文字で教えてくれるわけでもなく、何か別のアプリが機能したのでしょうか。
 見た感じ、センサーのような? ――そうだとしても、どういう見方をすればいいのかも分かりません。
 これがセンサーだとして、光点の示す位置は? 方角は?

「ちょっとお借りしてもよろしいですか?」

 フォウにスマホを渡すと、何やら掲げたり向きを変えたりしていましたが、やがて――

「これ、向きを変えると光点も移動しますので、光点の実際の位置は変わっていません。つまり、方角は分かります」
 
 フォウがある方向に指を差しました。

「この光点が魔族なのだとしたら、あちらの方向に居るという事です」
「そうなの!?」
「ただ、距離が分かりませんし、魔族が単体なのか複数なのかも分かりません」

 これは、検証しておいた方がいいのではないでしょうか。
 もしこのアプリがセンサーとして使えるのだとしたら、この先ものすごく役に立ちそうです。

「ちょっとお待ちください」

 フォウがそう言うと、両手を組んで祈るようなポーズで目を閉じました。
 ほんの数秒だけ、そうした後――

「わたくしの魔力感知には、魔族は引っかかりません」
「と、言うと?」
「つまり半径五キロ圏内には魔族は居ません。その光点は五キロ以上先のものです」
「なるほど」

 私はこの世界での距離の単位を、聞いた事がないので知りません。
 ですが謎翻訳機能のおかげで、私には『キロ』と聞こえるのですが、元の『キロ』の単位を知らなければ翻訳しようがないのに、いったいどうやって『キロ』に置き換えたのか、本当に謎です。

 それにしてもこのアプリ、距離の表示は出ないものなのでしょうか。
 私が操作方法を知らないだけなのではないでしょうか。

「では、行ってみますか? サオリ」
 
 カーマイルに言われるまでもなく、私はその気になっていました。

「フォウのポケットに船はあるのかしら?」
「ございます」
「では、この湖を抜けて光点を目指してみましょう。このアプリがどれだけ使えるものなのか、検証するわよ」

 もし、この光点の場所に魔族が存在していれば、それはフォウの魔法以上の性能がこのアプリにはある、という事です。

 ポケットに船が収まっているという事に突っ込む事も忘れて、私たちはもう少しここで探索をしてみる事にしたのです。
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