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第一部 第三章 魔王と勇者

37・その扉の向こうに

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 ランドルフ曰く、カーマイルがお店番をしてくれるのなら、魔法学院へ通うのもいいのではないか。
 魔法はともかく、この世界の事を色々と勉強できるのではないか。――と言うのです。

 確かに魔王アランの討伐を目的としているのならば、近くに居て観察し、傾向と対策を練るのもいいかとは思いますけれども、実際の所、私には魔王を何とかしてやろうなどとは考えていないのです。

 何とか出来るとも思っておりません。

 ただ、王都の街や魔法学院に興味はあります。
 ずっとお店コンビニに居るのも飽きますものね。

「じゃあちょっと通ってみようかな? ランドルフ」
「ああ、転移魔法があるから、通学の距離と時間は関係ないし、楽そうだね」

 お店のカウンターの前で、紙コップのコーヒーを飲みながら、ランドルフは言います。

「もし魔王の詳しい情報が手に入ったら、俺に教えてくれるかい? サオリが勇者にならなくても何とかなるように、こっちも考えるから」
「私が勇者になってもどうにもなりませんけどね。分かったわ、ランドルフ。一応調べるようにはするね」

 学院へ通えば遠くから観察する事も出来ますし、同じ学院の生徒から話を聞く事も出来ます。
 魔王の存在は、この世界の危機ですからね。私も少しくらいの協力はしようとは思います。

 直接討伐というのは、ご遠慮願いたいですけど。

「この歳で学校かあ、そういえば制服ってあるのかしら」

 まさかセーラー服はないでしょうけど、もしかしたら魔法使いのような恰好をさせられるのでしょうか。

「学院に決まった制服はないと思ったよ。ただ上級の魔法使いは揃ってローブ姿だったような気もするけど」

 ランドルフは騎士の養成学校だったらしいので、魔法学院には詳しくないようです。

「ラフィーも一緒だし、何とかなるでしょう。私、学院に行きますね」
「ああ、頑張って。サオリ」

 という事で私とラフィーは、魔法学院の生徒となる事にしました。



  ◇  ◇  ◇



「来てくれたのですね。嬉しいです。あなたたちはこの学院の宝ですわ」

 一日空けて学院を訪問すると、オルリード学院長は歓迎してくれました。
 ラフィーが燃やしてしまった校舎は既に、何事もなかったかのように修復されています。

「校舎を焦がしてしまって申し訳ありませんでした。直っているようで良かったです」
「気にしないで下さい。私もいいものを見せてもらいましたから」

 ニコニコと優しい笑顔を浮かべたオルリード学院長は、一枚の紙を差し出してきました。

「はい、こちらにサインして下さいね。当学院の入学手続きになりますので。色々と細かい説明も書いてありますけど、特Sクラスのあなたたちは基本的に自由にして下さって結構です」
「自由ですか?」

「はい。講義を受けるも受けないも、登校するもしないも、学院の施設利用も研究も、自由にして下さい」

 それは学院内で動きやすそうですね。
 魔法に関する授業に少しは興味もあるので、最初は受けてみたいとは思いますけど。

 私とラフィーはろくに読みもせず、サインを済ませます。

「ではさっそく、特Sクラスへご案内しますわ」
「ちなみにその、特Sクラスというのは、どういったクラスなのですか?」

 他がどのように、クラス分けされているのかも分かっていない私は訊ねます。
 
「特Sは特Sですよ。つまり特別なSクラス。この学院の最上級クラスはSクラスになります、その更に特別に上のクラスが特Sクラスです」
「はぁ……」

 よく分かりません。

 この学院で一番上と言われても、それが何を差すのか……まあ魔法学院ですから、魔力とか使える魔法によるクラス分けなのでしょうけど。
 ……私がそこに紛れ込んでもいいのでしょうか。

「本当に特別なクラスなので、特別な人しか入れません。現在の特Sクラスはあなたたちを除けば五人です」

 さすがに特別な人は少ないようです。
 
「あなたたちを加えて七人、そしてその中で男性は一人だけです。ちなみにその男の子は特別の中でも特別な方……というか、特殊なので、あまり関わらない方がいいかもしれません」

 ――魔王。

 それしか思いつきません。
 魔王として他の生徒に周知されているのかは分かりませんが、ランドルフが知り得た情報です。
 この学院が魔王を入学させるのに、特別なクラスに入れないわけがありません。

「そういえばラフィーさんの瞳……」
「はい?」

「いえ、瞳の輝き方が、十字じゃないですか。特Sクラスにも二人、そういう瞳の女の子が居るのですよ。しかも……どことなく、ラフィーさんと似ていますね。訊いた事はないのですが、もしかしたら同じ種族の方なのかしら」

 それは……天使だ。
 魔王アランの傍には、二人の天使が居るはずです。

「ラフィーは~第三てん――」

 慌ててラフィーの口を塞ぎました。
 学院長が魔王側の天使の存在を知らないのだとしたら、こちらから暴露する必要もありません。

「で、では学院長、教室に案内していただけますか」
「はい、そうですね。そろそろ行きましょうか」

 少しだけ怪訝そうな表情を浮かべた学院長でしたが、すぐにもとの笑顔に戻り、ニコニコと院長室の扉へと移動します。
 
 口は災いの元、余計な事は言わないに越したことはありません。

 私とラフィーは、オルリード学院長の後ろを付いて行きます。

 院長室を出て長い廊下をしばらく歩くと、直角に右に曲がり、ラフィーが焦がしてしまった校舎へと続く渡り廊下を抜けます。
 どうやらラフィーが燃やした校舎は別棟で、一般の生徒とは建物自体が分けられているようです。

「こちら側は特別棟になります。さっきまで歩いていた渡り廊下の向こうは一般棟。食堂はどちらにもありますけど、特別棟は出される食事も特別ですよ」
「こーな?」

 食べ物の話になるとすぐに食いつくラフィーですが、私としては特別でもそうでないものも、どちらも体験してみたいと思います。
 何故なら私がこの世界の知識を積めば積むだけ、それだけ発注可能商品が増えるのですから。

 ラフィーもきっと、その方が満足するでしょう。

 渡り廊下を抜けてから更に、奥へ奥へと歩いて行くと、一際豪華な扉が現れました。

「どこまでも特別仕様なのですね……」

 王宮へと出向いた時に見たような、絢爛豪華さを誇る扉が、私たちを迎えました。

「ここが特Sクラスの教室です」

 オルリード学院長が宣言すると、扉に掌をあてました。
 一瞬だけ掌が光り、ギギギと扉が観音開きに自動で開き始めます。

「この扉は常時鍵が掛かっています。クラスの者にしか開ける事は出来ません。あなたたちは先ほどサインをした事で既に解錠する事が出来るように登録されています」
「そう……ですか」

 これは魔力は関係ないのでしょうか。
 もし少しでも魔力を必要とするのなら、私には開ける事は出来ないでしょう。
  
 まあ、いつでもラフィーが傍に居るので、困る事もないでしょうけれども。

「さあ、お入り下さい。あなたたちのクラスです」

 最初は遠くから観察する予定でしたが、おそらくこのクラスに魔王は居る事でしょう。
 
 この扉の向こうに、魔王と天使たちが居る。
 そう思うと、少し緊張してきました。

「ラフィー、行くわよ」
「こーな」

 私たちは新たな一歩を、踏み出しました。


  
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