冒険者の仕立て屋さん『外見偏差値カンストオーバーの彼女は、今日も愛の言葉を真に受てくれない』

ヤナギメリア

文字の大きさ
上 下
8 / 11

第8話 であい【訓練&出会い回】

しおりを挟む
 ロング・ソードを向けて、憧れそのものに向き合う。彼の装備は相変わらず、道着同然のベストと分厚い脚絆。ぶっといアンクレットに、歴戦の手甲だけだ。
 いずれも最高位の魔術加工品。1つでも都に家が土地ごと余裕で建てられる。名の通った者にしか託されない。芸術品。

 鋼砕き。最強の称号を世にほしいままにする冒険者。それが竜の血脈を宿す者。クック・ヤン頭目の実力だった。
 意識が高揚し、喉が渇く、心臓の拍動が高鳴る。

「はあっ!」

 実力差は明白。小細工は無用。力を増す切り札のスクロールを意識だけで使用しつつ、最も鍛錬した一撃で攻める。渾身と勢い、速度の限りを載せた、全力を込めた突きを繰り出す。

「ふむ……」

 火花すらわずかに生み出さず、するりと手甲で受けられた。体勢を立て直しもう一度。磨り上げを狙っても同様だった。

「素直すぎる。固いぞ」
「おう……!」

 次は、磨り上げを狙うと見せかけて、膝で顎を狙う。初めて彼が当て身で反撃してきた。衝撃で周囲の木々は、根本から吹き飛んで行く。

「悪くねえ。じゃこっちから行くぞ!」

 見ることすら叶わない拳と蹴りの応酬。剣を警棒のように構え、気配だけで捌き、押し合いに見せかけて間合いを取る。余波だけで岩が砕けていた。

「へぇ。間合い空けんの上手くなったな」
「あんだけあんたと殴り合いしてりゃな……!」

 3度目の突撃。素直に突くと見せかけて脱力し、腰の手斧で逆手に強襲。初めて肩の鱗に掠り、バカでかい砂塵と共に、僅かに火花が宙を舞った。

「やる!」
「ごっは…!?」

 見れば、身を捻っただけで、脇腹に翼がめり込んでいた。そうきたか。そのまま尻尾で鞭のように叩きつけられる。直前にピタリと止まった。

「ここまでだな。小屋吹っ飛ばすわけにいかねえし、飯食えなくなったら本も子もねえだろ?」
「うっす。あっした」
「あっした。また誤魔化しを上げたか?」
「俺の感覚だけで挑んだし、まだまださ」

 小屋からは離れていたが訓練の余波で、木々や岩は吹っ飛んでしまっていた。環境破壊は良くなかったな。

 頭目は依頼帰りにララン副頭目と帰る途中、崖が盛大に崩れているのを目撃し、鉄機兵の残骸と埋まっている鉄機兵を発見。俺達の痕跡を追って、この小屋に立ち寄ってくれたらしい。
 すぐにただ事ではないと判断し、ラランさんが巡回兵に接触して、フリッグス軍もすぐ来るようだ。

「そんな訳で、飯食ったら手伝うぞ。残骸だって一攫千金のブツだから、欠片も残さずだ」
「そうよー、宝の山よ」

 茂みから出てきた、日に焼けたような真っ赤な髪を覗かせた人物は、ラランさんだった。

「おう。速かったな、ララン」
「そりゃ速くするわよ。軍の人たち、もう向かってるわよ」
「だそうだ。俺達も行こう」

 埋まっている緑の鉄機兵の所に戻ってきた。もうフリッグス軍は、発掘作業を開始しているようだ。クリスが発掘計画の段取りを確認して、俺達も手伝いに入った。

 万一にも鉄機兵が倒れ込んで、怪我人が出ないように計画的に魔法で補強したり、土や岩をのけて行く。胸部が露出して、先に歪んでいた部品を取り外そうと提案された。

「よーし。じゃあバールで扉開けるぞ。せーの!」
「どうした。クリス?」
「いや。ゼロロクにしては……?」
「うわっ、冷ってえ!?」

 クリスがじっと眺める中、左胸付近の装甲扉が外されて水没していたのか、中から大量の水が飛び出てきた。

「え……!?」

 操縦席の内部が露わになった。そこに、頭目に似た姿の大柄な少女が、ぐったりとして座り込んでいた。





 驚くべき事に彼女は生きていた。呼吸もしていて血色もよく、俺達は彼女をすぐに安静にさせるため。かつ不測の事態に備えて、フリッグス軍に発掘作業を託し、兵士たち数名とフリッグスの施療院へと駆け込んだ。

 医師の見立てでは、特に健康を害している事も無いようだ。よく見ると彼女は身体こそ大きいが、まだ幼い顔立ちで、酒も飲めそうにない。年端も行かない少女だった。

「う……」

 医師たちにその場を任せようと退室しようとしたところ、彼女が目を覚ましてくれた。ぼんやりと焦点の合わない目で、こちらを見つめている。

「気が付きましたか? あなたは……きゃっ!?」
「バアンディン エディン バン!? スイルドゥウンディ!!?」
「お前!?」

 目を急に見開くと、近くにたまたまいた姫さんを羽交い締めにして、手の爪を首筋にあてがい始めた。
 人質だ。彼女は明らかに極度に怯えている。剣柄に手を掛けて、抜く。いや、抜かないべきか……?

「ララン。わかるか?」
「ダメ。私も知らない言葉だわ」
「お、落ち着いてください。誰もあなたを害しませんよ!?」
「…………ドゥディエグイム?」

 彼女がクック頭目を見つめて、何かを問いかけた。彼女と同じ尻尾や翼をまじまじと見つけている。おそらく種族の事だろうか。

「いかにも。俺の種族は見ての通り、お前と同族のドラクーンだ。ほれ、武器も持ってない。頼むから爪を降ろしてくれ」

 クック頭目が手を下ろす仕草を何度かすると、彼女にも伝わったのか、素直に従ってくれて、盛大に腹の虫が鳴った。彼女は顔を真っ赤にして姫さんを離した。

 食事を与えると泣きじゃくりながら、手掴みで慌てて食事をしていた。医師の見立てでは、相当な飢餓感と恐怖を体験してきたのではないかと説明された。

 ひとしきり彼女が満足するまで食事を与え、ラランさんが絵や手振りで意思疎通を図った。残念ながら詳細はわからなかったが、彼女は外国の兵士で、どこかで何かから、あのゼロロクで逃げ出してきたらしい。

「逃亡兵か。でもなんで死んでないんだ……?」
「だよなぁ、1000年や2000年前の話じゃ、あるめえし……」
「妙な液体」
「やっぱアレか。乾かなかったもんな。アレ……」

 クリスの言う通り。彼女が乗り込んでいた、ゼロロクの操縦席に満たされていた水のような液体は、奇妙な事にまったく乾かず、今は兵士たちが回収して瓶の中に注がれていた。

「……バアンディン ウス ンヌンディヤイムン? ウ バエムティ ティイ グイ アイトゥン……」
「心細いよね……ごめんね、なんにも分かってあげられなくて……」

 姫さんはさめざめと泣きじゃくり、震えるように身をかき抱く彼女をあやしてくれている。ラランさんが促すように頷いてくれた。あまり女の子の涙を見る物でもないだろう。俺達男3人は部屋から退室した。

「1人だけ逃された口だな。おそらく」
「わかるのか、頭目?」
「何度か見覚えはある。悪いが任せていいか。ラランもずっとは世話できん」
「分かった。姫さんと相談するよ」

 自由都市同盟領法、第13条。
 未知、或いは不明な意思疎通を試みてくると判断される知性体は、リインカーの可能性があるため、これを積極的に害してはならない。
 この刑法に当てはめれば、彼女は難民として適切に保護されるだろう。姫さんとの相談の結果、彼女は姫さんの自宅に身を寄せる事になった。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

追い出された万能職に新しい人生が始まりました

東堂大稀(旧:To-do)
ファンタジー
「お前、クビな」 その一言で『万能職』の青年ロアは勇者パーティーから追い出された。 『万能職』は冒険者の最底辺職だ。 冒険者ギルドの区分では『万能職』と耳触りのいい呼び方をされているが、めったにそんな呼び方をしてもらえない職業だった。 『雑用係』『運び屋』『なんでも屋』『小間使い』『見習い』。 口汚い者たちなど『寄生虫」と呼んだり、あえて『万能様』と皮肉を効かせて呼んでいた。 要するにパーティーの戦闘以外の仕事をなんでもこなす、雑用専門の最下級職だった。 その底辺職を7年も勤めた彼は、追い出されたことによって新しい人生を始める……。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

悪役令嬢カテリーナでございます。

くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ…… 気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。 どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。 40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。 ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。 40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。

身体強化って、何気にチートじゃないですか!?

ルーグイウル
ファンタジー
 病弱で寝たきりの少年「立原隆人」はある日他界する。そんな彼の意志に残ったのは『もっと強い体が欲しい』。       そんな彼の意志と強靭な魂は世界の壁を越え異世界へとたどり着く。でも目覚めたのは真っ暗なダンジョンの奥地で…?  これは異世界で新たな肉体を得た立原隆人-リュートがパワーレベリングして得たぶっ飛んだレベルとチートっぽいスキルをひっさげアヴァロンを王道ルートまっしぐら、テンプレート通りに謳歌する物語。  初投稿作品です。つたない文章だと思いますが温かい目で見ていただけたらと思います。

勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる! ×ランクだと思ってたギフトは、オレだけ使える無敵の能力でした

赤白玉ゆずる
ファンタジー
【コミックス第1巻発売です!】 早ければ、電子書籍版は2/18から販売開始、紙書籍は2/19に店頭に並ぶことと思います。 皆様どうぞよろしくお願いいたします。 【10/23コミカライズ開始!】 『勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる!』のコミカライズが連載開始されました! 颯希先生が描いてくださるリュークやアニスたちが本当に素敵なので、是非ご覧になってくださいませ。 【第2巻が発売されました!】 今回も改稿や修正を頑張りましたので、皆様どうぞよろしくお願いいたします。 イラストは蓮禾先生が担当してくださいました。サクヤとポンタ超可愛いですよ。ゾンダールもシブカッコイイです! 素晴らしいイラストの数々が載っておりますので、是非見ていただけたら嬉しいです。 【ストーリー紹介】 幼い頃、孤児院から引き取られた主人公リュークは、養父となった侯爵から酷い扱いを受けていた。 そんなある日、リュークは『スマホ』という史上初の『Xランク』スキルを授かる。 養父は『Xランク』をただの『バツランク』だと馬鹿にし、リュークをきつくぶん殴ったうえ、親子の縁を切って家から追い出す。 だが本当は『Extraランク』という意味で、超絶ぶっちぎりの能力を持っていた。 『スマホ』の能力――それは鑑定、検索、マップ機能、動物の言葉が翻訳ができるほか、他人やモンスターの持つスキル・魔法などをコピーして取得が可能なうえ、写真に撮ったものを現物として出せたり、合成することで強力な魔導装備すら製作できる最凶のものだった。 貴族家から放り出されたリュークは、朱鷺色の髪をした天才美少女剣士アニスと出会う。 『剣姫』の二つ名を持つアニスは雲の上の存在だったが、『スマホ』の力でリュークは成り上がり、徐々にその関係は接近していく。 『スマホ』はリュークの成長とともにさらに進化し、最弱の男はいつしか世界最強の存在へ……。 どん底だった主人公が一発逆転する物語です。 ※別小説『ぶっ壊れ錬金術師(チート・アルケミスト)はいつか本気を出してみたい 魔導と科学を極めたら異世界最強になったので、自由気ままに生きていきます』も書いてますので、そちらもどうぞよろしくお願いいたします。

処理中です...