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第3話 しろいぬの【伏線?回】
しおりを挟む「まあ、いろいろあって……正直に言うと、わたしが大きな不祥事をやらかしちゃって……家出……っていうか、姉さんともどもクリューガー家を追放されちゃったの」
ミクが悲しそうに語る。
「本当にやむをえない理由だったの。でも、実家が世間体を気にして……それぐらい大変な出来事が起きたのよ。両親も、本音ではそうしたくなかったみたい。それに、工房としても優秀な技術者であるミクを失ったのは、凄く痛手だったの。そこで、こっそりだけどこのイフカの街で、ミクはクリューガー家から秘密裏に支援を受けて、研究・開発を続けているわ。この街の魔導アイテムショップなら、クリューガー家関連の商人が出入りしてもおかしくないでしょう? 実際、クリューガーブランドの商品を扱う店は他にもいくつもあるわけだし、隠れ蓑としても最適……これ、ライナス君だから話せる秘密だからね。絶対に他の人に言っちゃダメよ」
メルが詳細を説明し、その内容をライナスは素直に信じた。
「なるほど……いろいろ事情があるんですね……僕も、実家を飛び出して来たっていうのは同じですし」
「……ライ君も? どうして?」
ミクが意外そうに聞いてきた。
「一つは、行方不明になった父を捜すこと。もう一つは、それが原因で収入源が途絶えているので、僕も強くなって、このイフカのような場所を拠点として、ハンターとして稼ぎたいっていう思いがあったこと……祖父からは、『おまえにまでもしものことがあったら、アインハルト家は潰れてしまう』ってたしなめられましたが」
「……なるほど、お互い複雑な事情があるのね……うん? アインハルトって、なんか聞いたことがあるような気がする……」
ミクはなにかを思い出そうとしていたが、
「いや、一騎士の家系だから、そんなに名が知られたものではないよ……それより、その『黒蜥蜴』、本当に僕が使わせてもらってもいいのかな?」
本音では、試作品と言うことで少し不安はあったのだが、クリューガーの製品、しかも「+3」レベルならば、無料で貸してもらえるのは本来あり得ないぐらいの幸運だ。
まあ、実際はそこまでの性能ではなく、まがい物かもしれないが、普通にインナーとして使えれば問題は無い。
「もちろん! ……あ、でも、残り一つしか無いから、大事に使ってね」
「えっ、一つ?」
「そっ、私が着てる分だけ。後で渡すから、着てみてね!」
「いや、でも……サイズとか、かなり違うんじゃ……」
身長で言えば、1.5メールそこそこのミクに対し、ライナスは1.8メール以上ある。
体重ならば、倍……下手をすれば2.5倍ぐらいの差がありそうだ。
しかし、そんな小柄なミクの体格に、「黒蜥蜴」は適合していた。
「あ、これは充魔石の魔力が発動したら、収縮してピタッと体型に合うようになっているだけ。本当はブカブカなの。ライくんだと、ちょっと小さいかもしれないけど、すごく伸縮性があって丈夫だから、全然平気よ……じゃあ、早速着替えてくるね!」
ミクはそう言うと、また店の奥に引っ込んだ。
「……ミクがあんなにはしゃいで、嬉しそうにしているのは久しぶり。よっぽど貴方のこと、気に入ったのね」
メルが目を細めて、ライナスに語りかけた。
「いえ、そんな……」
「……ミクのこと、どう思う?」
「えっ、どういうって……その、元気で明るい店員さんだなって思います。あと、話が上手だな、とも。本当に、あの『黒蜥蜴』、凄そうに聞こえましたから」
「ああ、そっちね。『黒蜥蜴』の性能が高いのは本当だけど、もっと凄いのはミクの才能なんだけどね……今のクリューガーでも随一の技術者。そうは見えないと思うけど……あの子、私のせいで、大変な目に遭っちゃったから、幸せになって欲しいな、とは思っているの。このお店に来るのは、厳ついハンターか、一癖も二癖もある冒険者が多くて、ライナス君みたいな爽やかな青年はいなかったから、喜んでいるのかも。だから、仲良くしてあげてね」
「あ、はい、また時々お邪魔しようとは思っています」
メルの茶化しに、ライナスは当たり障りのない言葉を返した……つもりだったが、顔が熱かったので、赤くなっていたかもしれないな、と思っていた。
「おまたせーっ!」
作業服に着替えてきたミクは、今まで着込んでいた「黒蜥蜴」を、カウンターの上に置いた。
「じゃあ、早速説明するね……このベルトのバックル部分に充魔石『ウルグラ』と、複合魔水晶が入ってるの。なんと、バックルの上から魔石を当てるだけで充魔石にチャージできます! それで、この下部のつまみをスライドすることで、魔力による保護の解除、有効化が切り替えられます! あと、充魔残量はバックルのこの黄色い水晶で確認できて、これが灰色になってきたらかなり消耗していて、真っ黒になったら魔力切れで機能が果たせなくなります。あ、それとオプションの手袋とソックスも、上下のインナーに一部でも触れていれば同様の保護が有効になるの。手袋の内側にも、充魔残量を示す小さな水晶がついています。魔力発動中はインナーの脱ぎ着も、オプションの脱着もできないから気をつけてね。あと、フード部分があるんだけど、この肩口の紐を引っ張ればすぐに頭部を保護できて、口元も首元から引っ張って装着すれば……」
楽しそうに説明するミクと、それを真剣に聞き入るライナスの様子を、メルは、笑顔で見つめていた。
ミクが悲しそうに語る。
「本当にやむをえない理由だったの。でも、実家が世間体を気にして……それぐらい大変な出来事が起きたのよ。両親も、本音ではそうしたくなかったみたい。それに、工房としても優秀な技術者であるミクを失ったのは、凄く痛手だったの。そこで、こっそりだけどこのイフカの街で、ミクはクリューガー家から秘密裏に支援を受けて、研究・開発を続けているわ。この街の魔導アイテムショップなら、クリューガー家関連の商人が出入りしてもおかしくないでしょう? 実際、クリューガーブランドの商品を扱う店は他にもいくつもあるわけだし、隠れ蓑としても最適……これ、ライナス君だから話せる秘密だからね。絶対に他の人に言っちゃダメよ」
メルが詳細を説明し、その内容をライナスは素直に信じた。
「なるほど……いろいろ事情があるんですね……僕も、実家を飛び出して来たっていうのは同じですし」
「……ライ君も? どうして?」
ミクが意外そうに聞いてきた。
「一つは、行方不明になった父を捜すこと。もう一つは、それが原因で収入源が途絶えているので、僕も強くなって、このイフカのような場所を拠点として、ハンターとして稼ぎたいっていう思いがあったこと……祖父からは、『おまえにまでもしものことがあったら、アインハルト家は潰れてしまう』ってたしなめられましたが」
「……なるほど、お互い複雑な事情があるのね……うん? アインハルトって、なんか聞いたことがあるような気がする……」
ミクはなにかを思い出そうとしていたが、
「いや、一騎士の家系だから、そんなに名が知られたものではないよ……それより、その『黒蜥蜴』、本当に僕が使わせてもらってもいいのかな?」
本音では、試作品と言うことで少し不安はあったのだが、クリューガーの製品、しかも「+3」レベルならば、無料で貸してもらえるのは本来あり得ないぐらいの幸運だ。
まあ、実際はそこまでの性能ではなく、まがい物かもしれないが、普通にインナーとして使えれば問題は無い。
「もちろん! ……あ、でも、残り一つしか無いから、大事に使ってね」
「えっ、一つ?」
「そっ、私が着てる分だけ。後で渡すから、着てみてね!」
「いや、でも……サイズとか、かなり違うんじゃ……」
身長で言えば、1.5メールそこそこのミクに対し、ライナスは1.8メール以上ある。
体重ならば、倍……下手をすれば2.5倍ぐらいの差がありそうだ。
しかし、そんな小柄なミクの体格に、「黒蜥蜴」は適合していた。
「あ、これは充魔石の魔力が発動したら、収縮してピタッと体型に合うようになっているだけ。本当はブカブカなの。ライくんだと、ちょっと小さいかもしれないけど、すごく伸縮性があって丈夫だから、全然平気よ……じゃあ、早速着替えてくるね!」
ミクはそう言うと、また店の奥に引っ込んだ。
「……ミクがあんなにはしゃいで、嬉しそうにしているのは久しぶり。よっぽど貴方のこと、気に入ったのね」
メルが目を細めて、ライナスに語りかけた。
「いえ、そんな……」
「……ミクのこと、どう思う?」
「えっ、どういうって……その、元気で明るい店員さんだなって思います。あと、話が上手だな、とも。本当に、あの『黒蜥蜴』、凄そうに聞こえましたから」
「ああ、そっちね。『黒蜥蜴』の性能が高いのは本当だけど、もっと凄いのはミクの才能なんだけどね……今のクリューガーでも随一の技術者。そうは見えないと思うけど……あの子、私のせいで、大変な目に遭っちゃったから、幸せになって欲しいな、とは思っているの。このお店に来るのは、厳ついハンターか、一癖も二癖もある冒険者が多くて、ライナス君みたいな爽やかな青年はいなかったから、喜んでいるのかも。だから、仲良くしてあげてね」
「あ、はい、また時々お邪魔しようとは思っています」
メルの茶化しに、ライナスは当たり障りのない言葉を返した……つもりだったが、顔が熱かったので、赤くなっていたかもしれないな、と思っていた。
「おまたせーっ!」
作業服に着替えてきたミクは、今まで着込んでいた「黒蜥蜴」を、カウンターの上に置いた。
「じゃあ、早速説明するね……このベルトのバックル部分に充魔石『ウルグラ』と、複合魔水晶が入ってるの。なんと、バックルの上から魔石を当てるだけで充魔石にチャージできます! それで、この下部のつまみをスライドすることで、魔力による保護の解除、有効化が切り替えられます! あと、充魔残量はバックルのこの黄色い水晶で確認できて、これが灰色になってきたらかなり消耗していて、真っ黒になったら魔力切れで機能が果たせなくなります。あ、それとオプションの手袋とソックスも、上下のインナーに一部でも触れていれば同様の保護が有効になるの。手袋の内側にも、充魔残量を示す小さな水晶がついています。魔力発動中はインナーの脱ぎ着も、オプションの脱着もできないから気をつけてね。あと、フード部分があるんだけど、この肩口の紐を引っ張ればすぐに頭部を保護できて、口元も首元から引っ張って装着すれば……」
楽しそうに説明するミクと、それを真剣に聞き入るライナスの様子を、メルは、笑顔で見つめていた。
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