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空の雲〜天界の天使の物語シリーズ〜
空の雲 25.魂の記憶
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神様の言葉にその場の空気が変わった。
皆自分が天使であるという誇りは持っている。日々の作業で忘れかけていたそのそれを、神様の言葉がその場の者達に思い出させたのだ。
「では…………今回のことはどちらも足りぬところがあったとして、誰もお咎め無しで良いかな?」
「それは……こちらとしては大変ありがたく恐縮なのですが…………
良いのですか? 本日一番大変であったのはそちらの雲絵師の天使達なのでは……?」
計画部署の上天使の一人がそう言うと、雲絵師部署の神様は答えた。
「日々の確執があったことは昔から把握しておる。
仲が良すぎても、悪くても、組織というものはうまく回らん。大切なのは分かり合えずとも認め合い、共にやっていくこと。
こちらの天使達がどのように思ってやり過ごしてきたかもわしは知っておる。
そしてそれが必ずしも正しい事ではない、ということも、な」
別に見られているわけではないのだが、雲絵師の天使達はほとんどの者がドキリとして神様から目を離した。
「今回のことを記録には残し、以後同じことが起こらぬようにして、咎めはなしとさせてもらいたい。
代わりというわけでもないのじゃが……これを機に、また少しづつで良いから歩み寄ることはできぬかのぅ?」
その長い白い流れるような眉毛に隠れている目は、計画部署の天使達に向けられた。
疲労の色が濃く見受けられる天使達は、近くの者達と目を合わせてから、神様を見た。
「善処しましょう」
計画部署の上天使が、部署を代表するようにして神様にそう伝えると、神様は雲絵師の天使達を見て言った。
「お主らも、じゃ」
天使達は、複雑な表情をしながらもうなづき、それを見た神様は天使達全員に仕事を一つ通達する。
「雲絵師の天使達よ。この度のミス、お主らならどう回避するかを考え、全員レポートとして出すのじゃ。
内容は自由。何か今とは違う意見も大歓迎。
ただし、自分の今回の行動の、何が悪かったのかも必ず書くのじゃ。
同じことを繰り返さないために、の」
神様が二回拍手をし両手を上に上げると、白い一枚の紙が雲絵師天使達の元にフワリと現れる。
「紙が足りない者はこちらに用意しておくので、取りにきなさい」
そう言って、両手の上に現れた紙の束を近くにあったテーブルの上に置くと、
「ではの。決定部署の……そちらの神に、よろしく言うといてくれ」
決定部署の上天使達に向けてそう言うと、また静かに通達所から出ていった。
◇◆
「あ…………ありがとうな…………」
ホワイトボードを綺麗にしたりして片付けをすすめているビハールとエドウィンの元に、あの天使がやってきた。
昨日ビハールに水をかけた天使が。
「……どういたしまして……」
きっと自分なんかに助けられたくはなかっただろうと思って、ビハールは控えめにそう答えた。
「な、お前名前は? 数字の書き方とか、お前のビハールへの突っかかり具合とか見てると、多分俺たちの魂は同郷だったと思うんだよ。もしかしたら知り合いだったのかもしれないぜー?
コレを期にすこーしお近づきになってみない? 俺たち」
綺麗にしたボードを前に、エドウィンはビハールとその天使の間に立って言った。
「魂の記憶……か……」
ビハールを見てそう呟くと、
「……天使になった限りには、そんなモノ関係なく皆等しくその素養を持っているハズなんだよな……
けどオレは何かが少し足りなかったらしい…………」
「そういったものさえも、全て神様の思し召す通りに……だろ?」
その言葉からエドウィンは、彼を認めているのだとわかる。
「僕も……君とこれから少しでも仲良くなれたら嬉しいな……」
ビハールも、自分の心に素直に、そう告げてみた。
すると彼は苦笑してその後少し晴れたような表情で言った。
「そうだな……オレの名前は────」
◇◆
それから──。
計画部署と雲絵師部署は少しづつ歩み寄ることになる。
エドウィン、ビハール、そして計画部署の、彼らが同時に中天使の仕事に就くまではまだしばらくの時間を要するが、その話はまた別の機会に…………。
皆自分が天使であるという誇りは持っている。日々の作業で忘れかけていたそのそれを、神様の言葉がその場の者達に思い出させたのだ。
「では…………今回のことはどちらも足りぬところがあったとして、誰もお咎め無しで良いかな?」
「それは……こちらとしては大変ありがたく恐縮なのですが…………
良いのですか? 本日一番大変であったのはそちらの雲絵師の天使達なのでは……?」
計画部署の上天使の一人がそう言うと、雲絵師部署の神様は答えた。
「日々の確執があったことは昔から把握しておる。
仲が良すぎても、悪くても、組織というものはうまく回らん。大切なのは分かり合えずとも認め合い、共にやっていくこと。
こちらの天使達がどのように思ってやり過ごしてきたかもわしは知っておる。
そしてそれが必ずしも正しい事ではない、ということも、な」
別に見られているわけではないのだが、雲絵師の天使達はほとんどの者がドキリとして神様から目を離した。
「今回のことを記録には残し、以後同じことが起こらぬようにして、咎めはなしとさせてもらいたい。
代わりというわけでもないのじゃが……これを機に、また少しづつで良いから歩み寄ることはできぬかのぅ?」
その長い白い流れるような眉毛に隠れている目は、計画部署の天使達に向けられた。
疲労の色が濃く見受けられる天使達は、近くの者達と目を合わせてから、神様を見た。
「善処しましょう」
計画部署の上天使が、部署を代表するようにして神様にそう伝えると、神様は雲絵師の天使達を見て言った。
「お主らも、じゃ」
天使達は、複雑な表情をしながらもうなづき、それを見た神様は天使達全員に仕事を一つ通達する。
「雲絵師の天使達よ。この度のミス、お主らならどう回避するかを考え、全員レポートとして出すのじゃ。
内容は自由。何か今とは違う意見も大歓迎。
ただし、自分の今回の行動の、何が悪かったのかも必ず書くのじゃ。
同じことを繰り返さないために、の」
神様が二回拍手をし両手を上に上げると、白い一枚の紙が雲絵師天使達の元にフワリと現れる。
「紙が足りない者はこちらに用意しておくので、取りにきなさい」
そう言って、両手の上に現れた紙の束を近くにあったテーブルの上に置くと、
「ではの。決定部署の……そちらの神に、よろしく言うといてくれ」
決定部署の上天使達に向けてそう言うと、また静かに通達所から出ていった。
◇◆
「あ…………ありがとうな…………」
ホワイトボードを綺麗にしたりして片付けをすすめているビハールとエドウィンの元に、あの天使がやってきた。
昨日ビハールに水をかけた天使が。
「……どういたしまして……」
きっと自分なんかに助けられたくはなかっただろうと思って、ビハールは控えめにそう答えた。
「な、お前名前は? 数字の書き方とか、お前のビハールへの突っかかり具合とか見てると、多分俺たちの魂は同郷だったと思うんだよ。もしかしたら知り合いだったのかもしれないぜー?
コレを期にすこーしお近づきになってみない? 俺たち」
綺麗にしたボードを前に、エドウィンはビハールとその天使の間に立って言った。
「魂の記憶……か……」
ビハールを見てそう呟くと、
「……天使になった限りには、そんなモノ関係なく皆等しくその素養を持っているハズなんだよな……
けどオレは何かが少し足りなかったらしい…………」
「そういったものさえも、全て神様の思し召す通りに……だろ?」
その言葉からエドウィンは、彼を認めているのだとわかる。
「僕も……君とこれから少しでも仲良くなれたら嬉しいな……」
ビハールも、自分の心に素直に、そう告げてみた。
すると彼は苦笑してその後少し晴れたような表情で言った。
「そうだな……オレの名前は────」
◇◆
それから──。
計画部署と雲絵師部署は少しづつ歩み寄ることになる。
エドウィン、ビハール、そして計画部署の、彼らが同時に中天使の仕事に就くまではまだしばらくの時間を要するが、その話はまた別の機会に…………。
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