空の雲〜天界の天使の物語シリーズ〜

河原由虎

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空の雲〜天界の天使の物語シリーズ〜

空の雲 20.ビハールの奇策

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「皆! 僕のやり方が真似できるならやってみて!」

 ビハールは全員の目の前で、白いペンキと黒いペンキを交互に、弧を描くようにぶち撒けた。

「──⁉︎──」
「お前何やって──⁉︎」

 全員が目を見張る中、ビハールはぶち撒けた白と黒のペンキをその場で混ぜながら見事な雷雲を描き上げていく。

「先輩! 先輩ならこの嵐雲と嵐雲の隙間を埋めていけるでしょう⁈ お願いしても良いですか⁉︎」

 この部屋の担当だった天使にビハールは呼びかけた。

「お……おぉ! 任せとけ!」

「乾くまでに描かないといけないけど……手分けしてこうやって描いていったら多分七十に近いとこまでいけます! お願いします!」

 ビハールの声に数人いた天使たちは、すぐさま別の方向から同じように作業を開始した。

 数分して、自分の担当を終えて話を聞きつけたエドウィンがやってきて、その光景を目にすることとなる。

「俺も手伝うぞ! お前らすごいじゃないか、間に合うぞ? これ!」

 雲絵師数人で取り掛かった空は、部屋の片隅の夕暮れの晴れ間から嵐へと続く暗い空────

「……できた……!」

「あぁ……!」

「おい、決定部署の! 時間は⁉︎」

 ぼーっと突っ立ってその様子を伺っていた決定部署の天使は、エドウィンの問いにはっとして扉を開けた。

 空調設備は常に快適温度を保つようになっている部屋だったが、全員が汗だくになっていて、開けられた扉から空気が入ってくると、妙に涼しく気持ちよく感じられる。

 中央の時計を確認した天使は、驚愕の表情で言った。

「……修了時刻まで残り二分です……!」

その言葉を聞き、そこにいた全員が歓喜の声を上げた。

 ある者は飛び跳ね、ある者たちは抱き合い、またある者たちは手を握り、互いにやり遂げた喜びを祝福し合った。

 エドウィンに抱きつかれよろけているビハールの元に、その部屋担当の先輩天使がやってきて、言った。

「ビハール! お前のおかげでマイナス点にならずに済んだよ……ありがとう!」

「そんな……僕のおかげじゃないですよ……!
 ここにいる全員のおかげです……!」

「みんなも……本当にありがとう……!」

 その様子を見ていた計画部署の者は

「雲絵師の皆さん! 本当に申し訳なかった! 助かったよ、ありがとう!」

 そう言うと、残りの処理をしにいきます、と大急ぎで部屋から出ていった。

 そうこうしているうちに、あっという間に次の時間がきて、皆で描き上げた嵐の空は消えて星空の輝く夜の空へと変化する。

 そこの担当だった天使は、助けてもらった分次の空を手伝ってから上がるよ、と言って彼はそこに残り、他は全員グッタリとしながらもやり遂げた解放感を胸にその部屋を後にした。
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