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空の雲〜天界の天使の物語シリーズ〜

空の雲 14.ビハール本日の担当は……

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 翌日、ビハールはエドウィンと元雲絵師の天使たちと話をしたおかげか、心は落ち着きいつも通りに仕事場へと向かうことができた。

 昨日は少しでも理想の雲が描きたくて、エドウィンと一緒に描いていた頃を思い出しながら筆を運んでの失敗だった。

 決められた範囲もないような場所で、道端やいろんな所の壁に踊るようにして描き込んでいた時のように────

 その方がスピードも上がり、理想の空が描けるし、それが自分の『得意な描き方』なのだろうと思う。

 けれど、エドウィンのようにはできないなとも思っていた。

 得意なように、踊りながら描いていたら、それこそまた我を忘れてバケツに筆を当ててしまったり、蹴り飛ばしてしまったりしてしまうかもしれない。

 そう考えると、とても『得意な描き方の練習をしていこう』とは思えなかった。

「思うように、描くのはまたしばらく先だな……」

 今日はとにかく、再び分量と時間に気をつけて描こうと心に決めたところで、ビハールは天候通達所へと到着した。

 ザワザワと、雲絵師達が担当を記す大きな掲示板の前に集まっている。

 掲示板には、名前順にネームプレートが貼られ、その下に本日の担当の時間と部屋がわかるように書き込まれている。

 他の天使達より頭一つ分大きいビハールは、何名かにぶつかりそうになり「すみません」と言いながら担当のへやを確認する。

「今日の担当は六回……?」

 午前の部、一、三、四番目担当で、昼休憩。そして午後は二、四、七番目。

「午前の担当は十七階のFルームか……一番目は三十パーセントの曇り。そして三、四と連番…………」

 まさか失敗した次の日に、ベテランでも結構大変だという噂の連番を任せられるとは思っていなかったけれど、連番の空は雲の割合が三十と四十%となっており、百%の曇りが二回続くよりはマシだろう、と思うこととした。

「……よし……!」

 気合いを入れて、ペンキと筆を取りに行き、それらを持って担当の部屋へと向かう。

 ビハールが向かうは通達所のすぐ横に浮かぶ卵型の建物。

 その内部中央には大きな時計が浮かび、どの角度から見ても時間がわかるようになっていて、その時計を囲むように卵型の壁に沿って扉が付いている。

 入り口は時計の真下の穴。一番下の階をゼロ階と呼び、そこは休憩所となっていて仮眠室も完備されている。

 一階から二十四階まであり、ビハールは十七階のFの扉へと飛んで向かった。

 部屋の空の色は、その土地の時間によって色が変わる。青い空に描く時はまだ良いのだけれど、夜の空となると少し難しい。何せ部屋全体も暗くなり、頼りにできるのは月明かりと星明かりのみだから。

 試用期間には、その日の一番目の担当に夜が来ることはないと言われていたけれど、ビハールが部屋に入るとそこは星空輝く夜の部屋だった。

「え……夜……?」
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