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空の雲〜天界の天使の物語シリーズ〜
空の雲 7.天使の羽は力の源
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「……本当にすみませんでした……!」
手を掴んだまま真剣な顔をして謝るビハールに、気圧されたかのように突然手を振り払い、その天使は言った。
「次……失敗したらお前の背から羽を一枚もらうからな!」
天使の羽は力の源。
受け取った者は良い運を手に入れ、渡した者は運気や生命力が下がると言われている天使の羽。
余程のことがない限り羽は抜け落ちるものではなく、意図的に抜く場合には、瞬間気絶してしまう程に痛いし身体に負担がかかるのだとも言われている。
「そ……それはっ……僕の一存では決められないですよ…………」
昔、羽を与えすぎて消滅してしまった上天使がいたらしく、その事態を重く見た天使を統括する者たちが『私的な羽の譲渡を禁ずる』とのルールを設けたのだそうだ。
「部署の部屋に飾ってやる! そうしたらお前がまた何か失敗しても、うちの連中が迷惑を被ることも少しは減るだろう……!」
「……!……」
彼は自分のためだけではなく、そういうことを言い出したのだと分かると、ビハールは何も言えなくなってしまう。
その時──
「なーにやってんだ、お前ら! 羽のやり取りは公に禁止されてるだろー?」
ビハールの背後、計画部署の連中がたむろしているそのまた向こう側から、エドウィンが仕事を終えてやってきた。
「どいたどいた、俺達はもう一仕事行かなきゃならないんだから! な、ビハール!」
連中を遠慮なく押し退け、嬉しそうに駆け寄ってくるエドウィンだったが、水浸しのビハールを見てその表情が暗く変わった。
「お前……水かけられたのか……?」
ビハールは一度目を伏せて小さく頷くが、すぐにエドウィンの目を見て言った。
「……僕が自分で被ったのと同じだよ!
僕があんな失敗しなければ彼等だってこんなことしなかっただろ?
だからこれは僕が自分から被った水なんだ……!」
その言葉を聞いて、そこにいた全員が目を丸くしてビハールを見た。
「お前…………」
しょうがないな、もぅ……と小さな声でつぶやいたエドウィンは、計画部署の連中を一瞥した。
「お前らも……ここ天界の水は聖なる水、地上では滅多に手に入らない貴重なものなんだから、こんな勿体ねぇことするな」
そしてパチンと右手の指を鳴らすと──どこからか風がやってきて、螺旋状にビハールを包み込む。
それは柔らかくふんわりと良い香りがする春の風のようで……風が去るとそこに残ったのは、すっかり乾いて花のような良い香りのするビハールだった。
「……すごい……! これって中天使の力だよね……⁉︎
エドウィンいつのまにこんなことが……?」
「みんなのおかげだよ。みんなが俺を頼って仕上げを任せてきてくれたから……沢山の空の仕上げを手伝うことでランクが上がったんだ」
そう言って苦笑すると、くるりと計画部署の連中の方を見て、エドウィンは言った。
「まぁ、アレだ。俺だって初めの年、散々だったのは皆知ってるだろ? もう少し、待ってやってくれないかな。俺が補償するぜ?
コイツは俺より凄くなるって!」
エドウィンがそういうなら……と口々に言って計画部署の天使達は昼食を取りに行ったり席に着いたりしていった。
「ふー……。連中もなぁ、もう少し気長に見てくれると助かるんだがな。
あっちの部署とこっちの部署、やることが違って練習勉強の仕方も違う。成長の速度だって個人で違うんだからさ」
両手を腰に当て、少し呆れながら言う。
「ところでもう食べ終わったのか? よかったらデザートでもつまんでけ! 奢ってやるから!
糖分もしっかり補給して午後の担当の時間に備えないとな!」
「……本当にすみませんでした……!」
手を掴んだまま真剣な顔をして謝るビハールに、気圧されたかのように突然手を振り払い、その天使は言った。
「次……失敗したらお前の背から羽を一枚もらうからな!」
天使の羽は力の源。
受け取った者は良い運を手に入れ、渡した者は運気や生命力が下がると言われている天使の羽。
余程のことがない限り羽は抜け落ちるものではなく、意図的に抜く場合には、瞬間気絶してしまう程に痛いし身体に負担がかかるのだとも言われている。
「そ……それはっ……僕の一存では決められないですよ…………」
昔、羽を与えすぎて消滅してしまった上天使がいたらしく、その事態を重く見た天使を統括する者たちが『私的な羽の譲渡を禁ずる』とのルールを設けたのだそうだ。
「部署の部屋に飾ってやる! そうしたらお前がまた何か失敗しても、うちの連中が迷惑を被ることも少しは減るだろう……!」
「……!……」
彼は自分のためだけではなく、そういうことを言い出したのだと分かると、ビハールは何も言えなくなってしまう。
その時──
「なーにやってんだ、お前ら! 羽のやり取りは公に禁止されてるだろー?」
ビハールの背後、計画部署の連中がたむろしているそのまた向こう側から、エドウィンが仕事を終えてやってきた。
「どいたどいた、俺達はもう一仕事行かなきゃならないんだから! な、ビハール!」
連中を遠慮なく押し退け、嬉しそうに駆け寄ってくるエドウィンだったが、水浸しのビハールを見てその表情が暗く変わった。
「お前……水かけられたのか……?」
ビハールは一度目を伏せて小さく頷くが、すぐにエドウィンの目を見て言った。
「……僕が自分で被ったのと同じだよ!
僕があんな失敗しなければ彼等だってこんなことしなかっただろ?
だからこれは僕が自分から被った水なんだ……!」
その言葉を聞いて、そこにいた全員が目を丸くしてビハールを見た。
「お前…………」
しょうがないな、もぅ……と小さな声でつぶやいたエドウィンは、計画部署の連中を一瞥した。
「お前らも……ここ天界の水は聖なる水、地上では滅多に手に入らない貴重なものなんだから、こんな勿体ねぇことするな」
そしてパチンと右手の指を鳴らすと──どこからか風がやってきて、螺旋状にビハールを包み込む。
それは柔らかくふんわりと良い香りがする春の風のようで……風が去るとそこに残ったのは、すっかり乾いて花のような良い香りのするビハールだった。
「……すごい……! これって中天使の力だよね……⁉︎
エドウィンいつのまにこんなことが……?」
「みんなのおかげだよ。みんなが俺を頼って仕上げを任せてきてくれたから……沢山の空の仕上げを手伝うことでランクが上がったんだ」
そう言って苦笑すると、くるりと計画部署の連中の方を見て、エドウィンは言った。
「まぁ、アレだ。俺だって初めの年、散々だったのは皆知ってるだろ? もう少し、待ってやってくれないかな。俺が補償するぜ?
コイツは俺より凄くなるって!」
エドウィンがそういうなら……と口々に言って計画部署の天使達は昼食を取りに行ったり席に着いたりしていった。
「ふー……。連中もなぁ、もう少し気長に見てくれると助かるんだがな。
あっちの部署とこっちの部署、やることが違って練習勉強の仕方も違う。成長の速度だって個人で違うんだからさ」
両手を腰に当て、少し呆れながら言う。
「ところでもう食べ終わったのか? よかったらデザートでもつまんでけ! 奢ってやるから!
糖分もしっかり補給して午後の担当の時間に備えないとな!」
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