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第1部分 それに触るな
しおりを挟む「それに触るな!」
そう叫んだ直後、瞬時に響き渡った轟音は、研究室の全てを破壊し尽くしたことだろう。自分も、その原因となった監査の人間も勿論────
時は少し戻り、その日の午前────
俺の勤める研究所では、所員たちが慌ただしく作業をしていた。
翌日に控えた建物外で行われる実験の為、朝から機材の整理と移動に追われているのだ。
一本角の鬼は知力に長ける。
そんな迷信じみた言い伝えだが、自分は確かにそうだったらしく、最先端と言われる研究所にて二十三という若さで所長の助手を勤めていた。
「……!……」
しまった。引っかかった……。
少し段差のある場所で、長いコードを取り外し。面倒だからと持って飛び降りたため、長い三つ編みが機材の一つに引っかかってしまった。
切ることすら面倒臭く、腰まで伸びた深緑色の髪は、綺麗な色だと言いながら愛しい彼女が三つ編みにしてくれていたもの。自分ではひっつめるのが精一杯で、三つ編みなどできない。
このごった返している機材整理の途中で、三つ編みが解けるのはさけたい。そう思って、なんとか取ろうと段差の上の方を見ると──
「何遊んでんだ、ビロード」
ちょうどそこを通りかかった、ワイルドな紳士と呼ばれる所長が引っ掛かっていた髪を外してくれた。
「ありがとうございます所長。
実験の用意も大事なんですが、例の監査。今日ですよね?」
所長は二本角の青鬼で歳は五十くらい。物凄く頭が良く、並みいる優秀な所員達を押し除け、若くしてここの所長になったという逸話持ちだ。
「あぁ、そうだったな。ったくめんどくせぇ……」
そう言うと、段差の上の方にあるデスクにて、書類に何かを書き込みはじめた。
「人間が触れたらまずい機材とか、立ち入り禁止区域に持って行きますか?」
「……必要ないだろう。奴等も勝手にあれこれ触るほどアホじゃぁないはずだ」
俺たち鬼は、きっと人間に対して一様に思うところがある。
金のバングルで勝手に制限される己の力、狭い居住範囲、制限の多さ。
だがそのどれも、これまでの歴史にて得てきた、二つの種族が共に、平穏に生きるための物である。
鬼は人より危険で脅威のある力を持つ一族だから──
「そうですよね……では予定通り明日の機材だけ入り口付近に移動させます」
「頼んだ」
それでも所長は、人間に対してどこか信用しているような、尊重しているような風に感じる事がある。
「今日の作業が終わったら、前日祭の約束、忘れないでくださいよ?」
「あぁ、もちろんだ!」
ようやく許可の降りた実験日。その前日に監査が来るというのも、自分達の研究を頓挫させたい人間達の悪あがきな気がしてならない。
けれど、こちらはやれる事をやるだけだ。
そう気持ちを切り替えて、俺は作業へと戻った。
そして、しばらくすると──
「ビロードさん、監査の人が来ました!」
所員の一人が慌てた様子で俺を呼びに来た。
俺を呼びに来るという事は、所長が見当たらなかったという事……!
「所長は⁉︎」
「ちょっと席を外すと言って研究所外に出てます!」
研究所の奥の方にいた俺がその知らせを受けた時にはもう、監査の人間が我が物顔で研究所内を進んできていた。
そして駆けつけた時にはすでに、鬼以外が触れたらいけない機材のある部屋にそいつらはいて──
「全く、人間でも研究者とやらは訳のわからん物を作り出すが、鬼の物は殊更訳がわからんな」
そう言って監査の人間が手を伸ばした先には件の機材────
「それに触るな!」
そう叫んだ直後、瞬時に響き渡った轟音は、研究室の全てを破壊し尽くしたことだろう。自分も、その原因となった監査の人間も勿論────
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