【鬼シリーズ:第二弾】青鬼のパンツ

河原由虎

文字の大きさ
上 下
9 / 10

09.やってやろうじゃないか

しおりを挟む
 迷う必要もない。俺は鬼だ。それも人に制御されることのない時代からやってきた、自由な鬼だ!

「ふんっ!」

 俺は徐に、事故で廃車確定の鉄の塊くるまに拳を打ち込んだ。

「あぁ~! イタタタ! おぉ⁉︎ ラッキー? 制御用腕輪が壊れたぁ」

 我ながら下手な演技ではあると思うが……勘弁しろ。俺に演技は無理だ!

 物凄い棒読みなセリフを吐き、俺は壊れた腕輪を周りにいた人間に見せびらかした。

 壊れた腕輪を引きちぎると、周りの人間は目に見えて青ざめ、引いた。
 ある者は、塩だか豆だかを撒いて、遠ざかっていく。

 時の鬼長が豆嫌いで『撒かれて逃げた』という迷信が未だに信じられてるのか⁉︎ 
 っていうか、何で豆なんか持ってんだよ!

「おぉ、ありがとうよ! 俺は豆が好物なんだ」

 別に好物ではないが。そいつらの態度が気に入らなかったんで少し意地悪をしてやる。
 そう思って、目の前でボリボリと撒かれた豆を食ってやった。

「……っと、豆なんか食ってる場合じゃねぇな。たんくろーりーに潰されてる車から運転手助けてくるから、怪我人運ぶ用意してろよ!」

 言って、俺はそちらに駆け出した。火の上がり始めた車を持ち前の跳躍力で飛び越え、押しつぶされている車まで辿り着く。

「大丈夫か! 今助けるぞ!」
「ぁあ……ありがたい! 足が挟まれて動けないんだ……!」

 俺はドアをこじ開け、曲がった車の中からその人間を助け出した。

「人間というのも不便なものだな、あんな椅子一つ素手で壊せないとは」

 椅子を細かく引きちぎったら余裕で隙間ができ、中年の小太りな男性運転手を助け出すのはとても簡単だった。

「はっはっは、そうだなぁ……!」

 人間も、助かって安心したのか、鬼の俺を恐れることもなく身を委ねている。

「さぁ、爆発が起こる前に救援隊の方へ行くぞ。痛いの、我慢しとけよ?」
「ああ、勿論だ。命があるだけ儲けもん、ってな……」

 意外と元気のいいおっさんだ。

「よし……!」

 おっさんを横抱きにして、ぐちゃぐちゃになった車の上を行こうとすると、何かの『気配』がした。

「この感じは……」

 先日行った事故現場で目の当たりにした爆発、それとよく似た感覚に、俺はマズイと思った。

 ふと見ると、救援隊のところに光る一本角! 鬼灯か!

「おっさん、緊急事態だ。怖かったら目をつぶれ! あとは流れに身を任せろ!」
「? 流れに身を……⁉︎」

 おっさんは、律儀に目を瞑った。

「鬼灯! 投げるぞ受け取れ‼︎」
「‼︎」

 鬼灯は意図を理解したのか、瞬時に身構えた。その眼は赤く輝いている。

 俺は迷わず投げ飛ばした。おっさんはまるで、祈るかのように手を合わせながら飛んでいく。

 そして、その判断は間違いでなかったとすぐに判明した。

 俺と鬼灯までにある車が爆発し、炎上し始めたのだ。爆発が爆発を呼び、すぐたんくろーりーまでくるだろう。
 そうすれば、鬼の俺は最悪巻き込まれても生きていれるかもしれない、だがあの人間は間違いなく死んでいた。

 次々と爆発が起こり、自分が助かるかどうかもわからない中、俺の心は昂揚感で一杯だった。

 この時代の管理された鬼達には不可能だったろうこの所業。
 おかしな話だ。人間たちは自分で自分の首も絞めているようなものではないか。

 『鬼も人も、幸せに』か──

 火の手が大きくなる中、俺は鬼灯の言葉を思い出していた。

 俺だけでもダメでアイツがその希望の種だって言うなら───

「やってやろうじゃないか! 白虎の毛皮でパンツ作り!」

 燃え盛る火を前にそう叫ぶと、背後でたんくろーりーが爆発したらしい。

 その瞬間、俺は緑色の光に包まれて────

 目が覚めた時には──落とし穴の底から星空が見えていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】悪役令嬢が可愛すぎる!!

佐倉穂波
ファンタジー
 ある日、自分が恋愛小説のヒロインに転生していることに気がついたアイラ。  学園に入学すると、悪役令嬢であるはずのプリシラが、小説とは全く違う性格をしており、「もしかして、同姓同名の子が居るのでは?」と思ったアイラだったが…….。 三話完結。 ヒロインが悪役令嬢を「可愛い!」と萌えているだけの物語。 2023.10.15 プリシラ視点投稿。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

処理中です...