【鬼シリーズ:第二弾】青鬼のパンツ

河原由虎

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06.何処のアホだ……そいつは……

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 ひとしきり笑い、落ち着いたらしい鬼灯は、ようやくこちらを向いて言った。

「間違いなく貴方だわ」

 何が。

「貴方の近くに『赤』という名の、二本角の鬼がいる?」

「赤……だと……⁉︎ 勝負だ! とか言いながら、力で敵わないからって、俺を落とし穴に落としたアノ小僧の事か⁉︎」

「多分……そう!」

 再び笑いを堪えて声を絞り出す鬼灯。

「数年前にね……来たのよ」

 鬼灯の話はこうだった。

 数年前やってきた赤は、二十前後の年齢で。鬼長となった俺と、勝負する直前に飛ばされてきたと言っていた、と。

「その時教えてくれたのよ、貴方のこと。尊敬してるし、追いつき追い越したい、っていう感じだったわね……」

 そう懐かしそうに、黒い飲み物を眺めながら言う。

 だが、俺はそんな未来、想像もできない。今の鬼長は、力だけのアホだが悪い奴ではないし、人間達とのやり取りも、まぁなんとかこなしている。
 奴が自力でまとめ上げた島の鬼達は皆、奴についていくだろう。

「ある日突然、白虎の毛皮でパンツ作るんだって言って、飛び出してったらしいわよ?」

「何処のアホだ……そいつは…………」

「長になる前か後か、わからないけど。貴方よ貴方」

「……冗談じゃないぞ、あんな災害級の化け物……。戦って勝って。あまつさえ、それでパンツ…………」

 呆然とする俺。

「まぁ、どういう経緯でそうなるのかは知らないけど……。
 貴方は確かに鬼長になる。そんな気がするわ」

 そう言って、こーひーを再び口に運ぶ。

「何故……そう思うんだ……?」

 鬼長になる、というのはともかく。白虎はありえないだろうと思い、俺は聞いた。何故なら何代も前の鬼長が、白虎と戦い酷い傷を負い、敬意を込めて聖獣と呼ぶようになったのだから。以来、時の鬼長や、力自慢の鬼達が挑みに行く事があったが、誰一人として帰ってきていない。

「えー。何となく、としか。後は、赤が言ってたから」

 そういった勘からくる曖昧な答え方は、力バカな一本角らしい……と思った。だが、鬼灯の目を見ると、何故か既視感を覚え、俺はじっとその目を見つめる。

「赤は、貴方を倒して鬼長になりたいそうよ」
「……だろうな。俺が長になったなら、あのバカは……。そりゃぁ執拗に勝負を挑んでくるだろうから──」
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