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02.何故、俺の名前を知っている

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人里ひとざとって……貴方……」

 女はそう言うと、目を丸くして俺をみた。

「その格好、それにその髪色……貴方……名前はもしかして、青…………?」

「何故俺の名を知っている⁉︎」

 俺はこんな女、見た記憶はない。美人は記憶しておく主義だが、彼女を見たことは、ない。

 女は驚愕の顔をした後、口を両手で押さえ震え出した。

「?」

 訳がわからずその様子を観察する。すると、上方から何かが落ちてくる気配を感じ、

「離れるぞ!」

 女を担ぎ上げ、俺はそこから離れた。すると、今まで立っていた場所に、大きな瓦礫の塊が落ちて砕け散った。

「あ……ありがとう……!」

 女を下ろして、飛び来た破片やまだ落ちてくる欠片を素手で払いのけていると、また、そこそこの大きさの瓦礫が落ちてくるのがわかる。

「ちっ!」

 瓦礫に向かって動こうとすると、女が俺の肩に手を置いた。そしてそれを起点として跳躍し、足で瓦礫を蹴り飛ばす。

「……!」

 俺はその光景に目を見張った。
 この身体能力……! 角がないので人間かと思っていたが……どこか馴染みのあるそのパワーに、今度は俺が驚いた顔をする。

「……お前も鬼か?」

 着地し、乱れた髪を整える女にそう問いかけると、

「おーい!」

 遠くから誰かの呼ぶ声が聞こえ、女は慌てて自分の白い上着を脱いだ。

「まずい、人が来る! コレを着て!」

 そしてそれを俺に押し付けてくる。

「なんでそんな物……!」

 そんな物着たくない、とモタモタしていると。無理やり着せられ、ボタンまでかけられた。

「貴方は喋らないで、コレもつけて!」

 グイグイと手首に何やら金色の腕輪をつけられる。

「女にグイグイ来られるのは嫌いじゃないが……コレはちょっと……」

 アクセサリーの類なんぞ、つけたことがなかった俺は、勝手につけられた腕輪を見て、ため息を吐く。
 力自慢だけな馬鹿どもの中には、戦利品だとか言ってじゃらじゃらつけている奴もいたりするが。

「おーい! 鬼灯!」
「浩二!」

 鬼灯と呼ばれた女は、やってきた黄色い髪の男を浩二と呼んだ。

「また崩れてきたみたいだが、大丈夫だったか⁈」
「見ればわかるでしょ! それより救援隊はまだなの⁈ どれだけの人が埋まってしまっているかわからないのに……!」

 どうやら、この下には『人』が埋まっているらしい。そういえば風に乗って微かに血の匂いがしてきている……。
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