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第17話 少しだけお手伝い
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「味方というか……持っていったのが彼女たちでなかったら、どうするつもりなのか……謝るのかな? と思って」
それは、いつもの自分とはものすごくかけはなれた言動で。ここまでを皆の前で言っただけでも、心臓が飛び出てきそうなほど華奈は緊張していました。けれど、まっすぐと四人を見つめ続けます。
華奈の言葉を聞いた絢音は、ぐっと口を固く結び、悔しいような、悲しいような表情で、だまってしまいます。
「……じゃあ、どうしたらいいのよ?」
だまってしまった絢音を見て、隣に立つ髪が短く背の高い、沙耶(さや)が、絢音よりは落ち着いた声で言いました。
「……一番いいのは、先生に相談することだと思うけど……」
華奈がそう言うと、グループの他の子たちもだまってしまいました。おそらく、先生から、持ってきたらダメと言われていたことを、彼女たちもちゃんと覚えているから。
先生に相談することで、まずそのことを怒られる。そう考えた彼女たちは、返事をすることができなくなってしまったのです。
すると、周りの子たちの視線が、華奈からグループの子たちの方へと移っていきました。彼女たちが華奈の言葉を聞いて、どうするのか、興味が湧いてきたのでしょう。
『華菜、今だな?』
(うん!)
誰もが口をつぐみ、静まり返る。華奈とシオンが待っていたのは、この瞬間でした。
シオンによると、怒っている子たちの『心の声』が大きすぎて、他の子の『声』が聞こえなかったそうです。そのままでは、誰が鏡を持っているのかわからない、と。そこで、シオンは華奈に「ほんの少しの間でいいから、怒るのをやめさせてくれないか?」と頼んだのでした。
そこで華奈が思いついたのは、みんなが注目している中で「先生に相談したらどうか」と、言うことでした。そうすることで、怒っている子たちの心の声が、一度は静かになるはず、と。
『よし、見つけた!』
シオンが鏡を持つ子を見つけたようです。
『少しだけ、手助けする。力もわたしてやるから、あとは自分で頑張るんだぞ──』
誰かに語りかけるような、優しいシオンの声が華菜に聞こえてきました。すると、筆箱がだんだんと温かくなってきます。
ペンダントが温かくなってきた時と同じ……シオンの力って、とても温かくて、優しいのね。
華奈は、心地よいその力を感じながら、そっと目を閉じました。すると──
「あ……!」
しんとしている中、誰かの声が聞こえました。シオンが力で声を出させたようです。
華奈が急いで目を開けると、みんなが同じ方向を見ていて、誰が声を上げたのか、すぐにわかりました。それは、休み時間に教室で本を読んでいた男の子のうちの一人でした。
声など出すつもりはなかったのに、という顔で、男の子はあわてて両手で口を押えます。
全員の視線がその子に集まり、中には口をパクパクさせている子が何人かいました。けれど、誰も声を出すことはありません。きっと、これもまたシオンの力で、声を出せないようにしているのでしょう。
まわりを見回した男の子は、みんなが自分の方を見ていることに気づいたようです。ふるえる両手を下ろして、何回か大きく息をしました。そして、視線を床に落としたまま、小さな声で話しはじめます。
「あのー……ですね……」
シオンのわたした力が、話しはじめる勇気となったのでしょう、そう華奈は思いました。
男の子は覚悟を決めたのか、両手をギュッとにぎりしめ、たぶん彼の精一杯の大きな声で話し始めました。
「昼休みが始まってしばらくしてから、ですね……何かを取りに戻った男子たちが、そこらの机にぶつかったりして、ぐちゃぐちゃに動かしながらまた外へ行ったんですよ……。それを元に戻している時、コレが落ちているのを見つけて……」
男の子は、ポケットからそれを取り出して女の子たちに見せました。
それは、無くなったとさわがれていた鏡。絢音が何か言いたそうに口をパクパクさせているけれど、彼女も声が出せないようです。それに、動くこともできないようで、おどろいた顔をしてから、男の子をにらみつけました。
やはりシオンが力を使い、そうさせているようで、筆箱はほんのりと温かいままです。
男の子はにらまれ、怯えたようにビクリとしました。ですが、絢音が何も言わずに自分を見ているので、何があったのか、ちゃんと話を続けることができました。
「この間した席替えで、君がどこの席か覚えていなくて、どの机から落ちたのかわからなかったんです……。
でも、先生に持ってきたらダメと注意されていたのを覚えていたので……先生にわたすより、直接君にわたした方が良いかと思って…………」
男の子の話はそれで終わったようでした。すると、動けるようになった絢音が、怒っているような足音をさせてその子の目の前へ立ち、両手を腰に当てます。
「あんた……! なんでもっとそれを早く言わなかったのよ……!」
「す……すみません……! 本に夢中になっていて、君たちが戻ってきたことに気付かず……!
あっという間に皆が集まってきて、言い出しにくくなってしまって…………」
頭を下げてそれを差し出す男の子の手から、奪い取るように受け取った絢音は、そっぽを向いて言いました。
「一応……お礼は言っておくわ。先生にわたさないでいてくれて……ありがとう」
(そういうことだったのね……!)
華奈はドキドキしながら、そのやりとりを見守っていました。
鏡を持っていた男の子が、うたがわれていた子たちにも謝ると、続いて女子グループの子たちも謝りました。しぶしぶのような感じでしたが。
問題が解決して、その場にいたみんながほっとしたその時。「先生が来たぞ」という声が聞こえてきました。他のクラスから来ていた子たちは、自分たちの教室へ戻り、華奈のクラスの子たちもみんな自分の席について、何事もなかったかのように授業を受けました。
そしてそのでき事は、先生に知られることなく終わったのです。
それは、いつもの自分とはものすごくかけはなれた言動で。ここまでを皆の前で言っただけでも、心臓が飛び出てきそうなほど華奈は緊張していました。けれど、まっすぐと四人を見つめ続けます。
華奈の言葉を聞いた絢音は、ぐっと口を固く結び、悔しいような、悲しいような表情で、だまってしまいます。
「……じゃあ、どうしたらいいのよ?」
だまってしまった絢音を見て、隣に立つ髪が短く背の高い、沙耶(さや)が、絢音よりは落ち着いた声で言いました。
「……一番いいのは、先生に相談することだと思うけど……」
華奈がそう言うと、グループの他の子たちもだまってしまいました。おそらく、先生から、持ってきたらダメと言われていたことを、彼女たちもちゃんと覚えているから。
先生に相談することで、まずそのことを怒られる。そう考えた彼女たちは、返事をすることができなくなってしまったのです。
すると、周りの子たちの視線が、華奈からグループの子たちの方へと移っていきました。彼女たちが華奈の言葉を聞いて、どうするのか、興味が湧いてきたのでしょう。
『華菜、今だな?』
(うん!)
誰もが口をつぐみ、静まり返る。華奈とシオンが待っていたのは、この瞬間でした。
シオンによると、怒っている子たちの『心の声』が大きすぎて、他の子の『声』が聞こえなかったそうです。そのままでは、誰が鏡を持っているのかわからない、と。そこで、シオンは華奈に「ほんの少しの間でいいから、怒るのをやめさせてくれないか?」と頼んだのでした。
そこで華奈が思いついたのは、みんなが注目している中で「先生に相談したらどうか」と、言うことでした。そうすることで、怒っている子たちの心の声が、一度は静かになるはず、と。
『よし、見つけた!』
シオンが鏡を持つ子を見つけたようです。
『少しだけ、手助けする。力もわたしてやるから、あとは自分で頑張るんだぞ──』
誰かに語りかけるような、優しいシオンの声が華菜に聞こえてきました。すると、筆箱がだんだんと温かくなってきます。
ペンダントが温かくなってきた時と同じ……シオンの力って、とても温かくて、優しいのね。
華奈は、心地よいその力を感じながら、そっと目を閉じました。すると──
「あ……!」
しんとしている中、誰かの声が聞こえました。シオンが力で声を出させたようです。
華奈が急いで目を開けると、みんなが同じ方向を見ていて、誰が声を上げたのか、すぐにわかりました。それは、休み時間に教室で本を読んでいた男の子のうちの一人でした。
声など出すつもりはなかったのに、という顔で、男の子はあわてて両手で口を押えます。
全員の視線がその子に集まり、中には口をパクパクさせている子が何人かいました。けれど、誰も声を出すことはありません。きっと、これもまたシオンの力で、声を出せないようにしているのでしょう。
まわりを見回した男の子は、みんなが自分の方を見ていることに気づいたようです。ふるえる両手を下ろして、何回か大きく息をしました。そして、視線を床に落としたまま、小さな声で話しはじめます。
「あのー……ですね……」
シオンのわたした力が、話しはじめる勇気となったのでしょう、そう華奈は思いました。
男の子は覚悟を決めたのか、両手をギュッとにぎりしめ、たぶん彼の精一杯の大きな声で話し始めました。
「昼休みが始まってしばらくしてから、ですね……何かを取りに戻った男子たちが、そこらの机にぶつかったりして、ぐちゃぐちゃに動かしながらまた外へ行ったんですよ……。それを元に戻している時、コレが落ちているのを見つけて……」
男の子は、ポケットからそれを取り出して女の子たちに見せました。
それは、無くなったとさわがれていた鏡。絢音が何か言いたそうに口をパクパクさせているけれど、彼女も声が出せないようです。それに、動くこともできないようで、おどろいた顔をしてから、男の子をにらみつけました。
やはりシオンが力を使い、そうさせているようで、筆箱はほんのりと温かいままです。
男の子はにらまれ、怯えたようにビクリとしました。ですが、絢音が何も言わずに自分を見ているので、何があったのか、ちゃんと話を続けることができました。
「この間した席替えで、君がどこの席か覚えていなくて、どの机から落ちたのかわからなかったんです……。
でも、先生に持ってきたらダメと注意されていたのを覚えていたので……先生にわたすより、直接君にわたした方が良いかと思って…………」
男の子の話はそれで終わったようでした。すると、動けるようになった絢音が、怒っているような足音をさせてその子の目の前へ立ち、両手を腰に当てます。
「あんた……! なんでもっとそれを早く言わなかったのよ……!」
「す……すみません……! 本に夢中になっていて、君たちが戻ってきたことに気付かず……!
あっという間に皆が集まってきて、言い出しにくくなってしまって…………」
頭を下げてそれを差し出す男の子の手から、奪い取るように受け取った絢音は、そっぽを向いて言いました。
「一応……お礼は言っておくわ。先生にわたさないでいてくれて……ありがとう」
(そういうことだったのね……!)
華奈はドキドキしながら、そのやりとりを見守っていました。
鏡を持っていた男の子が、うたがわれていた子たちにも謝ると、続いて女子グループの子たちも謝りました。しぶしぶのような感じでしたが。
問題が解決して、その場にいたみんながほっとしたその時。「先生が来たぞ」という声が聞こえてきました。他のクラスから来ていた子たちは、自分たちの教室へ戻り、華奈のクラスの子たちもみんな自分の席について、何事もなかったかのように授業を受けました。
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