力の欠片のペンダント

河原由虎

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第14話 力になりたい

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 さすがに狭い筆箱の中は、きゅうくつだったようで、シオンはおもいきり伸びをしながら言いました。

「ところで。人間て……変なやり方で勉強してるんだな」
「変なやり方?」
「あぁ。あんな沢山の者に一度に教えていて、大丈夫なのか?」
「大丈夫って……何が?」

 シオンが何を考えているのかわからなかった華奈は、そのまま聞き返しました。

「全員が理解できているのか? それぞれの、能力の差を考えていないんじゃないか?」
「…………!」

 華奈は、シオンに言われて驚きました。なぜなら、自分はただ学校に通っているだけで、他の子がどういう状態かだなんて考えたことがなかったからです。
 学校に通う全員の事を考えているシオンのその疑問は、華奈には思いもよらなかったことで。でもよく考えてみれば、確かに不自然に感じることでした。

「理解力に差があるからこそ……上を目指して頑張ろうと思える人もいるかもしれないけど……。
 全員が大丈夫か、って言われると……中には大丈夫じゃない人もいるかもしれないよね……」
「だろ? あと、生まれた月で無理やり学年とやらを決めるのもオカシイ!」

 なんだか、言いたい放題の事を言っているな、とも思って華奈は苦笑しました。ですが、シオンの言葉は何故か心に残ります。

「なぁ……例えばだぞ。さっきのテストで、わからない問題があるとして、それを解るようにしてやるのは『良い行い』だと思うか……?」

 突然の質問に、華奈は少しとまどいながら答えます。

「それは……答えをそのまま教えるのはダメだけど」
「もちろんだ。それじゃ勉強の意味がない」
「……答えを出せるように導くのは……良いことだと思うわ」

 ただ、それをどのようにして導くのか、華奈には全く想像ができなかったのだけれど。

「でも…………今日はもうテスト……ないわ」

 ようやく、この小さな体でもできそうな事を見つけたのにと、がっくり肩を落とすシオンに。華奈は、給食の時に取っておいたパンの欠片とブドウを二粒、わたしました。

 昨晩聞いた話によると。シオンにとっての食事は、太陽の光、森や海などの自然界に存在する目に見えないエネルギーで、何かを直接食べる必要はないそうです。けれど、興味があるようで、これはなんだ? どういう味なんだ? と、絵を描いたりして、華奈に質問してきました。

「食べなくてもいいのに、どうして聞いてくるの?」と聞いたら、栄養にはならないけれど、チャンスがあったら食べてみたいとシオンは言いました。なので、華奈はコッソリそれを給食袋に入れ、机の中にしまっておいたのです。

 シオンはそれらを興味深げに見つめると、喜んで、美味しそうに食べました。
 残念ながらその日は『良い行い』をするチャンスは見つけられず終わってしまいました。ですが、また明日頑張って探そうと約束をして、二人は眠りにつきました。

◇◆
 次の日の朝、目を覚ました華奈はすぐにシオンを起こして大きさを確認しました。

「昨日より、数センチは大きくなってる……!」

 シオンに机の上で立ってもらうと、大きくなっていることがすぐにわかり、華奈は言います。

「数センチか……」

 シオンはむずかしい顔をしてつぶやきます。
 何もしなくても、数センチ分は力が戻るとわかりましたが、それではとても、期限までに元の大きさに戻ることはできないでしょう。そう華奈も気づいて、しょんぼりとしてしまいます。

「問題はないさ。権利なんかもらえなくても、自分のやりたい仕事は自力でもぎ取ってやる! 今はとにかく出来ることをやるぞ」

 華奈をはげますためか、はたまた、本気でそう思っているからなのかわかりませんが、シオンは元気な声で言いました。

 ですが『お兄さんお姉さんの力になりたい』と言っていたシオンの言葉が、華奈の頭と心に残っています。明るく話すシオンの横で、もっと何か協力できないかと、華奈は悩みました。
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