上 下
40 / 40

‐第40夜‐ 話し合い

しおりを挟む
 階段を降りている途中にレーネがこんな事を言ってきた。

「そういえば先輩、今日は髪の毛結んでるんですね?先輩のそんな姿を拝見するの何気に初めてかもです」

「気分だよ、気分。結びたくなったんだ」

 そう雑に返すと美容師が意外にも鋭い所を突いてくる。

「そういえばレーネは昨日からずっとアンタのこと“先輩”、“先輩”って慕ってるようだけど、あんたら一体何者なんだ?旅人の様な格好にも見えるが……それにしては少し、壁というかハッキリとした上下関係の様なものを感じられる。職場の先輩・後輩ってことか?」

 (美容師こいつっ、なんでそんなことを……。あまり賢くないような雰囲気をかもし出しているが、意外と知的なのか?)

 なんて誤魔化すべきかと考える間も無くフェイリが美容師に説明してくれた。

「そ、そういえば昔、私の村に訪れた時に調査員だって仰っておられましたよ?その時はサテラさん一人でしたけど……」

「えっ、そうだったの?え、何、調査員って!?何の調査してるの!?この2人」

 美容師がこのモードになると非常にやりにくい。面倒だ。レーネも私と同じことを考えているのか険しい表情をしながら沈黙を貫いている。

 (困ってるなレーネ……)

 何か助け舟でも出してやろうかと思った矢先、またしても彼女がこの窮地を救ってくれた。

「あっ、あぁ、それはですね! 美容師さん……こ、この2人は風土の調査を主にしていらして……」

「ほぉ~、そうなのか?」

 シェイリの説明に美容師は完全に納得してくれた訳では無かったけど、多少の疑念は晴れたようだ。

 1階と2階の階段の踊り場に入った時、姿が視界に入った。は1階の階段近くの廊下で一度、止まるとこちらを……いや私の方を見てニカァとした気持ちの悪い薄ら笑みを浮かべやがった。

 私を含め、一同は皆、奴から放たれる異様な圧気オーラに踊り場から動けなかったが、そいつがその場から歩き出したと同時に私達もまた硬直から開放された。

「な、なんか今の人……凄かったですね、オーラ……。私、足がすくんじゃいましたよ……」

「あ、あぁ、そうだなシェイリ。私もだ……なんなんだ?奴は一体、なんかまるで“心の中”を覗かれていたような……いや、なんていうか心そのものを舐め回されたような気分だったよ……」

 聖職者プリーストでは無い彼女らも素人ながら、奴から得体の知れない“何か”を感じ取っていたようだ。

 レーネはと言うと私の隣で小刻みに身体を震わせていた。僅かに開いていた口から、彼女が何かを私に言いたげな事は察しが付いた。

 (レーネ……何も無いといいが……)

 私は奴のことを知っている。奴の正体を……奴の能力ちからを……。故に私は恐れていたのだ。と……。

 1階の廊下へと出た私達はそのまま、例のリビングへと向かって行く。

 リビングの扉近くまで来ると屋敷のメイドが2人立っていた。

「おはようございます。もう皆様、リビングにおられますよ」

 金髪のツインテールのメイドが扉を開けてくれた。見た感じ随分と若いメイドだ。成人しているかしていないか、それぐらいの年齢と思われる。どうやら、ここの屋敷の主は守備範囲が広いようだ。
 
その証拠に様々な種類タイプの女性がこの屋敷にいる。

 まるで女性の容姿に偏りが無い。

 (もう一人の方は少し大人しそうな年齢としは私と大差無いぐらいかしら?これで成人済なら相当な若顔わね)

 私は姫カットの彼女を見ながらそう心の中で呟いた。もう一人のメイドは声を掛けてくれた金髪ツインテのメイドとは対象的な雰囲気をしている。無口で少し表情が暗い。ただ静かにその場に突っ立ている。

 (まぁ自分が勤めてる屋敷で2人も人が死んでるし、これが当然の反応と言えば当然の反応だ。むしろ金髪の方がおかしい。このツインテは一体、どういう精神メンタルをしているのだ?)

 そんな事を考えながら私は中へと入った。

「おはようよ。昨夜はよく眠れたかな?さぞ怖かったろう。もし今夜も不安なら私の部屋へ来るが良い。この私が君を手ほどきで安心させ快適な眠りと至福を提供する事を約束するよ」

 下に来て早々、オーウェン・ワグナーバカ当主はこの私を遠回しに誘ってきた訳だが……これには流石に引いたのか、他の女性陣は皆、引いていた。レーネ私の相方を除いて。

 私はと言うと、即興で演じてみせたこの作り笑顔で彼に愛想良く「おはようございます、オーウェン」と挨拶をするとその後も引き続きわざとらしく「当主のお誘い、大変痛み入ります……が、失礼と承知をした上で御遠慮させて頂きます。生憎あいにく、私は男性をすぐには信用出来ない身ゆえ……」とキッパリと言ってやった。我ながら清々しい断り方だ。よくもまぁ、こんなにもスラスラとベラベラと綺麗な言葉が私の口から出て来たと思うよ。それにもどれも美しい言葉の羅列だ。

 これには流石の当主も引きった様な表情かおをして、「おや、そうかい。それは残念だ。では後ほど会おう、我が愛しき赤衣の美少女よ」とこの場を去って行った。

 去り行く彼の背中に飛ばすように美容師はすぐにこう言った。

 「あの当主ってさ、なんかシンプルにキモイよな、マジで」

 シェイリもこれには苦笑いを浮かべ、私も「あぁ、そうだな」と返した。

 するとレーネが「あのっ」と何かを聞きたそうな顔をしていて擦り寄って来る。

「ん?どうした?」

「あっ、いや、その……大したことじゃないんですけど、先輩っ!あの、なんでそんなに先輩を含め皆さんは嫌悪の感情をそんなに顔に露わにしてらっしゃるのでしょうか?」

「えっ、?」

「はあっ!?」

 シェイリ、美容師の反応は至極当然だった。と言うより、レーネこいつがあまりにも物事を知らな過ぎる。いや、純粋過ぎると言うべきなのだろうか?

 まぁ、でも先程の私とあいつとのやり取りを聞いて本当に意味が分からないなら、それはそれで別になんの問題も無い。ただこいつが世間を、いやこの世界の仕組みを知らな過ぎたというだけなのだから……。

「話の意味が分からないなら今はそれでいい。知らない知らないで、な。いづれ分かるさレーネ。まだ知らないだけさ。お前が別にその事を知らなくても今は何も不都合は無い」

 レーネはキョトンとした表情かおで「うーん、よく分からないですけど分かりました!先輩がそう仰るなら私は言う通りにします!これ以上何も訊きません!」

「あぁ、そうするがいいさ」

 こいつは本当に可愛い奴だ。私には勿体無いくらいの相方だと、この時ふと思ったよ。


 それから暫くしてこの屋敷内にいる殆どの者達がこの大広間へや(リビング)に集まって来た。

「これで全員揃った?」

「いえ、まだ何人か来てない人もいるようですけど……」

 美容師の問い掛けにレーネが少し不安そうな声で答えた。

「そういえば、例の大男はどうした?あと保安官みたいなファッションの人も見当たらないな」

 私の問いに答えはすぐに姿となって現れてくれた。

「ねっみぃよ、ったくあいつら夜遅くまで盛りやがってよ……。っつーか朝までじゃねーかよ」

 目の下の大きな涙袋はとても黒ずんでいて、瞼も酷く垂れ下がっていた。心しか髪も少しパサついているように見える。保安官は後頭部を左手でむしりながら、部屋の中へとやって来た。とても不機嫌そうだ。

「あんた、一睡もしないでずっと部屋の真ん前に突っ立ってたのか?」

「ったりめぇだろ、それが俺の仕事だからな。俺が起きてる間、あのバカップルは夜通しで朝まで。つまり奴らは白だ、1回も部屋から出ていない。また何人か目の前を通った巡回の奴がいたが誰一人として部屋に入ったり入ろうとはしなかったな」

 彼は大きな欠伸あくびをその手で覆いながら涙目を見せると「もう戻ってもいいか?俺の役目、終えただろ?」と言うとあるじオーウェンの許しを経てこの空間を後にした。

 彼の証言は捜査の貴重な材料となる事を私は信じ、その背中を沈黙しながら見送った。

 


 

 

 

 

 

 
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

湯豆腐
2020.03.13 湯豆腐

人狼ゲームは奥が深い...面白かったです!!
人狼さん素直で可愛い()
また読みたいです(/ω・\)チラッ

柿沼 ぜんざい
2020.03.13 柿沼 ぜんざい

貴方が初めて感想を送ってくれた方です。
記念すべき第一号です!ありがとうございます!
この物語はずっと前から構想を練っていたんですが何回も途中で書くの辞めちゃってて……でもこの感想を見て、もうちょっと頑張ってみようかなって思いました!本当にありがとうございます!文章を書くのが苦手で描写とか正直適当で想像しづらい点とか多いと思うけど、その分ストーリーで頑張ろうと思うので応援お願い致します。

そして、今回出て来た人狼は素直でしたが(サテラの美しさに敗けた所もあるけど)、今後は色々なタイプの人狼を出していきます!期待していて下さい!

ちなみにですが。今後の流れとしては、ー第16夜ーまでは主人公のサテラが単独で動き、向かった先に現れた人狼を倒していくって流れでやる予定でテンポよく進めていくつもりです。
ー第17夜ーからは連続ストーリーものとして幾つかの長編を描いていく予定です!

解除

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。