上 下
13 / 40

-第13夜- 拠点へ

しおりを挟む
 人狼がこの街に居るのはほぼ間違いがない。だがこの街の警務局はなかなかの腐れ具合だ。捜査状況を聞いたが殆ど進展はしていないそうだ。資料も一通り、目を通したが無いに等しい。つまりは私が警務局に立ち寄ったのは限りなく無に等しかったのだ。

 (にしても、何故、街を閉鎖しないんだ?人狼が街の外へ逃げないという確信があるからか?それとも……)

「はいどうぞ~」

「どうも」

 私は女店員がクレープを受け取った。考えるより先に食事だ。ここ最近、任務の連続で疲れが溜まりに溜まっていた。そんな時はこの甘いクレープで疲れを取ろうって事だ。

 パクリと一口、続いて二口、止まらず三口、堪らず四口、こうして抑えれずに五口、六口と無我夢中で食べてしまった。

 イチゴのクレープを堪能した後、私は街の住民に聞き込み調査を行った。正直、一人でこの作業をしていると思うと馬鹿らしく思って来る。

 こんな時にこそ、イアンらの応援が欲しいものだ。

「一先ずは今夜の宿泊先を見つけなければ。それと本部への連絡を」

 宿泊先として訪れたホテルの中に入り、エントランスで電話を借りた。

「トルグレムか?私だ」

『おぉ、“赤ずきん”か。立て続けに任務を押し付けて済まないな』

「問題ない。それに今に始まった事じゃないしな。所でそっちの方はどうだ?」

『今、我々特務課は最近、勢力を拡大している“オルドレイド”と名乗る組織的人狼の一掃に向けて準備をしている所だ』

「何?“オルドレイド”だと?」

『あぁ。悪いな、お前が一番好きそうな事を俺らがやる事になってしまってな』

 こっちは単独で群れの人狼の拠点を調査してると言うのに……ズルい奴らだトルグレム達は。羨ましいものだ。

「……別に構わない。その代わり狼の拠点を見つけても連絡はしない。私、一人で奴らを一掃するからな」

 それだけを言い残して私は銅色の受話器を戻した。

 (早く見つけなくては)

 泊まる部屋の鍵の受け取りを済ました私は再び、地道な目撃情報を収集する。その道中で有益な情報を得る事が出来た。

「それで、その場所は何処に?」

「そ、それは……」

「知ってるなら早く教えてくれ。出来れば近くまで案内して欲しい」

「……」

 私に情報提供をしてくれた彼は何処か様子がおかしい。奴らの拠点を知っているという割にはそれをすぐに教えない。それだけじゃない、何処か怯えているようにも思える。何か後ろめたい事でもあるのだろうか?

「大丈夫、安心して。万が一の時は私が守るから」

 私の一言で安心したのか、彼はそれらしき拠点へと導いてくれた。道中、私は問う。

「その拠点はいつ頃?」

「2日前くらい。夜遅くまで飲み屋で飲んでて、それで酔ってふらついてた帰りに、それらしき影を見て、そのまま後をついていったら…」

「そう。でも、何故それを局や教会には?」

「局は話した所でまともには取り合ってくれない」

「そうかもね」

 彼の言う通りだ。この街の警務局は腐っている。ここまで治安を維持出来ているのが奇跡というくらいだ。

「聖導教会は駄目なんだ…」

「?」

 彼はそう言うなり、裾に隠れていた手首に入った刻印タトゥーを見せてくれた。それは反教会同盟アンチキエーザの証を示すものであった。

「そういう事ね」

「はい……祖父代からそうで。だから、今、貴女と僕がこうして歩いている事すら本当は許されない行為なんです」

「そうね。なら、場所だけ教えてもらえるかしら?」

「分かりました」

 彼は少し間を置いてから、そう言った。小さくなっていく彼の背中を見ながら私は一人呟く。

「まだ、過去の産物あの文化が残っていたか……」

 外は既に暗くなりつつある。時間がない、急がなければ。

「さっさと、一掃してやる」

 この時、私は遠くで私の背中を心配そうに見つめる彼の表情に気付かなかった。



 


 


 
 

 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...