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-第7夜- 白煙の中で斬り裂く者

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 僕も母もカリンもサリー達に好き放題されて疲れ切った状態でとても動けなかった。その時だった。彼女達がこの場に現れたのは。サテライトと名乗った赤装束の少女とその隣にいた男のイアンだった。それだけじゃない。僕に事情聴取をした聖職者や他にも多くの聖職者がいる。勢揃いだ。

 予想外の出来事にサリー達は驚きの声をあげる。勿論、僕自身も驚いている凄く。

 (助けに来てくれた。でも、どうして?なんでここが)

「お楽しみの所、悪かったわね」

 先頭に立つ赤装束の彼女が言った。その一言でふと我に帰る。今の僕の乱れた着衣この姿が一気に恥ずかしくなってきた。身体が顔が。耳が赤く熱い。母や妹は意識が朦朧もうろうとしているせいか、そんな様子ではないようだ。

「教会の聖職者プリーストか。何故、この場所が分かった?」

 サリーが僕の訊きたかった事を代弁してくれた。

「獣臭い匂いと血の匂い。彼がそれを教えてくれた。その少年、カルムがね」

 サテライトがそう答える。

(え?僕は何も……)

 彼女の返事を聞いてサリーは椅子に座る僕の方へと視線を落とし、睨み付けた。だが勿論、僕は何もしていない。そんな怖い顔で睨まれても困る。

「カルム、貴様ぁ」

 突然、人が変わったように(人じゃないけど)怒りの表情を露わにするサリー。その手から鋭い爪を生やし、僕の首筋へと当てる。ツーっと血が垂れて来るのが分かる。

「見ろ!聖職者。ここにはこの少年、カルムを含め、その母と妹が居る。3人の人質がな!」

 彼女の言葉と共に他の人狼も一斉にその爪を見せる。奴らは夜じゃないと狼にはなれないが、爪を出す事と牙を剥く事ぐらいは陽が出ていても出来るらしい。それに奴らは昼や夕方でも十分に強い。人ならざる力で人間を圧倒するのだ。

「父親に関しては殺しちまったが、犠牲が一人で済んだだけ感謝するんだな」

「人質を解放しろ。要求があるんだろ?なんだ言ってみろ」

 偉そうな中年の男性がそう言った。

「ふん、察しが早くて助かるよ。そうだ私たちは貴様らと交渉をする為に人質を取ったんだ。勿論、要求は街の閉鎖を解く事。つまり私たち全員をこの街から安全に出せと言う事だ」

「そんな要求に応じると思ったか?我々、聖導教会は人狼からの如何なる交渉にも応じない。目標をただ殲滅するだけに我々は存在している」

 イアンさんが力強く言い放った。

「いいのか?それなら人質を皆、殺す」

 サリーの声は表情は本気そのものだった。縛り付けていたロープを外し、僕を立たせると首筋に当てながら、ゆっくりと前へ足を一歩進めた。母やカリンも同じように立たされて首筋に爪を当てられいる。

「人狼。これが最後の忠告だ。人質を解放し、投降しろ。さすれば命までは取らん」

 今度はさっきより偉そうな中年の男性がそう言った。今いる聖職者らのボスなのだろうか?高位の聖職者であることは間違いない。

 対するサリーは「ふん、見え透いた嘘を。人間の言う事など当てにならん」と言った。

「そうか。交渉決裂という訳か」

「はん、はなから私たちを外へ出すつもりなんて無かった癖して、よくもそんな事を言えるな」

 訪れた沈黙、人狼らは僕らを人質に取ったまま、ゆっくりと横へ流れるように歩く。教会の人々は武器を取り出し、戦闘態勢へと入っている。彼らの使う武器は確か、“神器”と呼ばれる特集な武器で、それぞれの武器に“神”や“修道女シスターの祈り”が込められていると言われているんだ。

 (教会の人達は僕らが居るのに戦うって言うのか?これじゃあ僕らは巻き添いに……まさか!?)

 昔、何処かで聞いた事がある。聖導教会の聖職者は人狼の殲滅を最優先し、人命は二の次だと。

 つまり、今、彼らは僕ら家族ごと攻撃をし、人狼を一斉に殲滅しようとしているのだ。

 (やだ……死にたくない、死にたくないよぉ)

 きっと、この場にいる2人も思ったであろう。

 臨戦態勢に入った神器を手にした者達。彼らは一斉に動き始めた。

 (来る!!!!)

「お前ら、人質を絶対に手放すな!!!手の空いてる者は交戦に入れ!!!なんとかして夜まで生き延びろよ!!!時はすぐそこまで来ている」

 サリーの指示で、展開される人狼達。母と妹を人質に取っている人狼は後ろへと下がっていた。そして、同じように僕もサリーに後ろへと連れて行かれる。

「サリー……辞めてよ、もう。諦めて」

「何言ってるの?諦められる訳ないでしょう?」

 入れ替わるように前へ行く手の空いた人狼達。聖職者らと向かい合い、互いに出を伺っている。

「お前ら、行けぇ!聖職者らをぶっ殺せぇ!」

 サリーの大きな一声で双方は動き始める。人数差では圧倒的に聖職者らの方が有利だが……。


 * * *


「イアン、を撃て」

「はっ」

 イアンはトルグレムの指示でを放った。教会の新神器である、“特殊ガス弾”と称されるモノだ。成分は何で出来ているか分からないが、人間には無害で“かつ”人狼には有効という優れ物だ。

 パァンと音を立て、人狼の群れの中央。誰も立っていない空間の床へと落ちた大きなガス弾は薄らと白い煙を立ち広げ、工場内へと広がっていった。

「総員、退却だ!一旦、外へ出ろ!!!」

 トルグレムの指示により、皆が外へと出た。外壁の窓からは白い煙が中へ充満したのがよく分かった。

「あれ?サテラは?」

「彼女なら、とっくに工場の屋根の上だ」

 イアンがその場を指し示した。

「あ、あいつ、いつの間に」

「煙がある程度引いたら、彼女が屋根の窓を破り、中へと降下。人質を取らぬ人狼を皆、殺してくれるそうだ。我々は残った3体の討伐と3人の人質救出をすればいい。実に楽な仕事だ」

「やはり、アイツの力は我々には必要のでしょうか?」

 メイルが敬語で課長に尋ねる。

「あぁ、その通りだ。彼女の力は壊れている。桁違いだ……」

 二人の会話を聞いていたイアンは思った。『サテライト=ヴィル・アストレア、君は一体、何者なんだ?』と。

「そろそろ頃合いか」

「みたいですね」

 次の瞬間、聞こえたのはパリィィンと大きく硝子が割れる音だった。その方向を見ると、既に赤い装束の少女の姿は何処にも無かった。


 * * *


 広がる謎の白い煙にパニくる中、やっとそれがうっすらと引いてきたのが分かった。だが、次の衝撃音が僕らを驚かせたんだ。割れた硝子の音と共に何かが上から落ちて来たのが分かった。僕以上に焦る人狼達。次々とその姿が白薄の中で倒されていくのが分かった。

「な、なんなんだヨォ、これはヨォ、ゲホゲホッ、ゲホゲホッ」

 咳き込むサリーや他の人狼達。先程の煙の弾丸の影響だろうか?だが僕や家族は特に変わった様子は無さそうだ。

 (人狼だけに効く煙なのか?)

 謎の煙を吸い、咳き込み思うように動けない彼女らを次々と何が斬り裂いて行く。悲鳴と共に倒れる存在。飛び散る血液。その姿は煙が完全に消えた時に現れた。そう、まるで霧払いをし終えたかのように。彼女が2本の銀色の刃を手にして立っていたのだ。

「サテラ……イト?」

 赤装束に身を包む彼女は颯爽としてたった一人で姿を表したのだ。床には7体程の人狼の姿が。既に亡くなっているようだ。ピクリとも動かない状態で横たわっている。

「人質を取っているのは3体だから、残りの3体は私が倒していいってことね」

 そう言うと彼女は目に止まらぬ速さで床を駆け抜け、流れるようにして、2本の剣で人狼を倒して行った。最初の1体は上半身と下半身を切断し、2体目は首をねた。最後の1体は片手で心臓部を貫いた。剣を抜かれ、彼女に倒れるようにして脚を崩す人狼。そのまま床で活動を停止した。

「つ、強い……こんなに強かったんだ、」

 サリーは僕を睨み付ける。自分を含めて、残りが3人しか居なくなった事に焦りと怒りを感じているのがよく分かる。

「お、お前……一体……」

「そんな事どうでもいいでしょ?人質居たら、私、手出せないから。だから、早く解放して、ね?」

 彼女は「分かるでしょ?」と言わんばかりの言い方でサリーを威圧する。

「はっ、こっちには人質が……ガバッ、ゲホゲゲホゲホッ」

 残りの2人も激しく咳込んでいた。

「な、なんだよこれ、ゴホゴホッ」

「わ、私が知る訳ないでしょ、ケホッケホッケホッ」

「結構、効き目が合ったみたいだね」

「な、何ィ?ゴホゴホッ」

「それ、人間には無害で人狼にだけは有効な成分が含まれているらしいよ。咳だけじゃなくて、身体の方も来ているんじゃない?痺れの方が」

「そ、それがどうしたって言うんだ?ゴホゴホッ」

 往生際が悪いサリーはこの後に及んで、まだ諦めようとしないみたいだ。

「これが本当に最後の確認。人質の3人を解放して、大人しく投降する?さすれば教会は命までは取らないと思うけど?」

「くっ、だ、誰が人間なんかに……ゴホゴホッ」

「周りが見えてないね。もう、こんなに囲まれているのに」

「はっ?」

 すると、ぞろぞろと四方八方から教会の聖職者らが現れ、僕らを即座に囲った。どうやら、先程来た出入口以外にも裏口などの複数の入口から入って来たらしい。

「ね?もう、逃げ場は無いの。 さん」

 彼女はニカッと不敵に微笑んだ。
 

 

 

 
 

 

 
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