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‐第3夜‐ 唯一の目撃者

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「いや、実は目撃者は既にいるんだ」

「え?」

 それもっと早く言ってよ。

「なら目撃者に早く会わせ…」

「それがな……」

 私に言葉を被せたメイルは事件目撃者の少年の事を教えてくれた。だが少年は狼の後ろ姿しか見ていないと言う。つまり、人間体が全く不明という事だ。だが目撃証言から狼が一体は確実にこの街にいる事が分かったのだ。

「なるほどね」

「既に警務局と協力し、市内まで閉鎖している。つまりこの街は二重に閉鎖されたということだ。これで一先ずは安心だろう」

「住民はどうする?まさか夜は一歩も家から出るな……なんて言うんじゃないんだろうな?」

 私は恐れていた。このまま狼が姿を現さない事を。閉鎖するならするでもっと徹底的にすべきだった。人手不足など論外にも程がある。確実に一体を炙り出すには“犠牲”が必要だ。

「市民の命の方が優先だ。2週間で既に12名の命が奪われているんだ。これ以上犠牲者を増やす訳にはいかぬだろう?」

「確かにそうだ。これ以上、聖職者プリーストの無能さを世間に露呈させる訳にはいかないからな。それに人件費と税金の無駄にもなる」

「随分と大した事を言うが、お前一人で何が出来るんだ?」

「さぁ?なんでも出来るかもしれないし……何も出来ないかもしれない。いつだって結果は後にしか分からない」

「そういう事を言っているんじゃないっ!」

 少し怒り気味のメイルをほっとき、私は同僚から捜査資料を数枚貰い。それから目撃者の住所を聞きいて、ホテルを後にする事にした。

「メイル。気持ちは分かるがあまりカッカするな。身体に良くない」

 そう言い残した。

 ホテルの外には同僚のイアン・トルコスが立っていた。

「どうした?イアン」

「相変わらず無愛想な奴だな。赤ずきん。久しぶりに顔を合わせたんだ。少しは嬉しそうにしろよ」

「悪いけど、これから目撃者に話を聞きに行く所だから」

 ホテル出入り口から少しした所にある短い石段を駆け下り、彼とすれ違う。

「待てよっ」

 イアンは私の腕を掴んだ。

「何?」

「俺も同行してやる」

「保護者でも気取ってるの?」

「同僚だろ?なんか問題あるか?」

「ない」

 こうして彼と共に目撃者の家を訪れる事となった。

「あの家がそうか」

「みたいね」

 私とイアンは目撃者の家へと入る。そこでは一人のおばあさんが出迎えてくれた。彼の部屋は2階だと教えてくれた。

「で、君が人狼を目撃した子かい?」

 イアンは彼の部屋でそう尋ねる。ベッドの上で寝そべる少年。この子が唯一の目撃者であった。

「君じゃない。ちゃんとした名前がある」

「じゃあ、なんて言うんだい?教えてくれ」

 イアンの問い掛けに彼はそっぽを向く。全く、子供の扱いを分かっていない。

「人に名前を尋ねる時はまず自分からだろう。同僚が失礼な事をして済まなかった。私はサテライト=ヴィル・アストレア。教会本部の聖職者プリースト

 私は視線でお前もしろとイアンに訴える。彼はその意図に気付いたのか挨拶を始めた。

「同じく教会本部のイアン・トルコスだ。今回は人狼を目撃したという君に話を聞きに来た。是非、教えて欲しい」

 少年はベッドで身体を起こし、床に足を着けて座ると「カルム・トリー。それが僕の名前。何を話せばいい?」と答えた。

「そうか、カルムって言うのか。カルム、まず君が見た人狼について教えてくれ」

 
 


 


 

 
 

 
 
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