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第一部 星誕

第三話 命あれども心なきが如く

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 何という酷い有様なのか。
 犀星の目に映る、果たして部屋と呼べるかもわからぬ空間、軋んで傾いた寝台も、ボロボロに敗れた掛布や敷布、そして、体格に合わない、短い二着の着物と、三着の肌襦袢。どれにも、丁寧にほつれを修繕した跡があり、髪をとく櫛も、何本も歯が折れ、結い上げるための組紐すら擦り切れて、数本を束ねて使っているようだ。中には、植物の蔓を乾燥させて補強したものもある。
 履き物は体に合わないものが、壁際に丁寧に並べてあったが、使っている形跡はない。素足でいることが多いようだ。
 唯一、見慣れたものといえば、部屋の隅の床に置かれた、小さな文机と、硯に墨と小筆だけである。
 門番をどやしつけていた涼景を大声で呼び寄せ、玲陽を抱いたまま、犀星は部屋の入り口で立ち尽くした。
「こりゃ酷ぇな」
 足元の木片を蹴り飛ばして、涼景が唸った。
「都の死刑囚牢だって、ここまでじゃない」
「他に、まともな部屋があるかもしれない」
「建物の状態から見て、ここが一番、まともな部屋だろうな。穴は空いているが、辛うじて雨風は……」
 と、天井を見れば、明らかに雨漏りの跡が真っ黒いしみとなって残っていた。
「外よりはましだ」
 涼景は汚れた寝台の敷布を剥がすと、自分の着物を脱いで、ささくれだった硬い木の板に敷いた。
「陽を寝かせろ」
「あ、ああ」
 犀星はゆっくりと玲陽の体を寝台に下ろす。
「襦袢を脱がせろ」
「え?」
 素肌を人目に晒すことは、それだけで恥である。犀星が戸惑っていると、涼景は自分で玲陽の濡れた襦袢を素早く脱がせた。
「涼景!」
「こんなもの着ていたら、体を冷やすだけだ。星、お前も脱げ」
「え?」
「凍えた人間を温めるのは、人肌が一番なんだ。それとも、俺がやるか?」
「やめろ!」
 思わず二人の間に割って入り、犀星は急いで着物を脱ぎ捨てた。
「俺がやる」
 そう言って、玲陽の裸の体に目を落とした犀星は、その有様に、顔を歪めた。
 先ほど、濡れた襦袢越しに見えた傷は、全身に及んでいる。
 大小古今さまざまな打撲の痕と、獣の咬み傷や刀傷、縛り上げられた鬱血など、顔以外に無傷な肌を探すことはできなかった。
「玲陽を、温めてやれ」
 動揺している犀星を促して、涼景はその背中を押した。
 冷たく、冷え切った玲陽の体に自分の体を重ね、体勢を変えてできるだけ密着するよう、犀星は静かに、しかし力強く懐かしい人を抱きしめた。まるで、氷のように冷たい。青く色褪せた玲陽の唇がかすかに震えた。
 涼景が犀星の脱いだ着物を、二人の上にかけながら、
「辛くなったら言え。俺が代わる」
「嫌だ」
「お前だって、体温を奪われて弱るんだ。二人で温めた方がいい」
「誰にも、触れさせない」
 そう、つぶやいた犀星の言葉には、玲陽を介抱する者としての想い以上に、強い決意がある。涼景には、それが何であるか、よくわかっていた。
 目を閉じ、体だけではなく、心も温めようとするように、犀星は玲陽の頬に顔をよせ、髪を撫でる。
 その様子を涼景はどこか寂しげに、そして辛そうに見つめた。
 犀星と涼景が出会ってから、十年が経っている。
 ちょうど、犀星が都に来てすぐに、二人は顔を合わせていた。正確には、涼景の方が、犀星に興味を持って近づいたのだ。
 自分が都に入った頃、入れ替わるように、生まれたばかりの赤子であった犀星は故郷へ帰った。そのためか縁を感じ、涼景は何かにつけ、気にかけていた。十五年後、都で出会ったとき、まるで昔から知っていたような親しみすら覚えた。勿論、犀星がそれを知ることはない。
 玲陽に対する、犀星の深く熱い想いが、単なる幼馴染への友情を超えたものであることに、涼景は誰よりも早く気づいていた。おそらく、犀星本人よりも、早く、確信していた。
 その二人の再会のために、彼もまた、力を尽くしてきたつもりだった。自分が、実妹である燕春を慕うように、決して世には出せぬ恋焦がれの苦しみを、犀星もまた、抱えているのだ。
 涼景が、周囲敵ばかりの宮中で、何かと犀星を助けてきたのも、そんな涼景の人柄によるのだろう。
 元々、軍人となるべく育てられはしたが、万事に長けていた涼景は一通りの医術も学んでいる。奇しくも、今回はそれが役に立つことになってしまったのだが。
「何か、温かい飲み物を用意してくる。星、任せたぞ」
「ああ」
 まるで、泣き声を押し殺すような犀星の返答に、涼景の胸はさらに締め付けられた。
 彼は、幾つもの戦場を知っている。自ら、命の危機を感じたこともあれば、数えきれない者の返り血を浴びたこともある。戦地によっては、まともな陣営を構えることもできず、このような崩れかけた廃墟で寝起きしたこともある。
 その涼景から見ても、屋敷の様子は酷いものだった。
 水源は、唯一、玲陽が浴びていた滝だけで、井戸は見つからなかった。
 だいぶ日が高くなってきていたが、秋の風は冷たい。
 涼景は古びた手桶を見つけ出すと、滝へと向かった。
 膝まである池は、常に水が流れており、足を取られて歩くのも困難だ。滝の水で手桶を洗い、試しに一口飲んでみたが、思った通り、冷たく冷えていた。この水を、玲陽は浴びていたのか。高い山麓からの湧水は、どれだけ、あの痩せ衰えた青年を傷つけただろう。
 さらにあたりを物色して、涼景は妙なことに気づいた。
 ひび割れた水瓶や、調理台のある角の部屋は、厨房だったはずだ。しかし、そこには火の気もなく、最近、煮炊きした痕跡もなかった。薪も炭も、釜もない。これでは、料理どころか、湯を沸かすこともできない。
「あいつ、何を食べていたんだ?」
 誰かが、食事を運んでいたのだろうか。先ほどの門番から聞いた簡単な事情によれば、毎日、玲陽の義理の兄や、その知り合いらしき男が数名、拷問のために訪れる他は、誰も出入りしないという。その兄たちも、食糧を運んでくるわけではないようだった。時折、酒を手にしてくることもあったが、それだけである。
 涼景は再び庭に戻り、手入れされた庭を調べた。
 秋だというのに、食用の実を結ぶ植物は見当たらない。毒性のあるものは生息していないにしても、これらの草をそのまま食していたとしたら…
「よく、生きてたな」
 まさに、水や霞を食べて生きるという仙人のような暮らしか?
 だが、玲陽のやつれ具合は尋常ではない。
 世の中には、植物しか口にしないという者もいるが、そこには栄養のある種子や果実も含まれるため、玲陽のように体を痛めている様子はない。では、やはり誰かが食事を差し入れているのだろうか。玲本家には、玲陽の生みの親である、玲芳がいる。まさか、実の子をこのような境遇に落としながら、何もしないということも考えにくい。しかし、実兄であり、現在の夫である玲格は、鬼人の異名を持つ、情け容赦のない男である。実妹の玲芳を妻に迎えたのは、父親の知れない玲陽を産んだ妹を嫁に出すことを一族の恥としたからであったが、それでも、普通の神経でできることではない。さらに聞くところによれば、玲芳との間に、一女をもうけているという。
 いかなる事情があれ、兄妹婚が容認される社会ではなかった。だからこそ、どれほど愛そうとも、自分もまた、妹への想いに苦しんでいる涼景である。
 自分のこと、玲陽のこと、そして、これからのことを、庭に突っ立って、涼景が考えこんでいた頃、かび臭い匂いの立ち込めた一室の寝台では、静かに犀星が涙を流していた。
 玲陽が目覚める気配はない。
 犀星はそっと、玲陽の胸に手のひらを当てた。
 幼い頃、共に入浴したり、川で泳いだり、互いの裸体を見てはいたが、それは所詮、子供の頃の話である。
 こうして成人した相手と、突然肌を重ねるなど、考えてもいないことであった。
 玲陽の胸は、静かに、かすかに鼓動を打っていた。今にも消えてしまいはしないか。そんな不安に怯えながら、犀星は我知らず、肋骨を指先でたどった。一本ずつ、浮き出たその骨は、薄い皮膚一枚下に感じられた。
 玲陽は決して、体格がいい方ではなかった。犀星も筋肉質ではなかったが、その彼よりも、なお、華奢で少女のような面影さえあった。だが、実際には、二人でよく剣術の勝負をしたものだ。犀遠が厳しく二人を鍛えてくれたが、その腕前は互角だった。疲れ切ると、最後には二人で地面に寝転んで語り合った。泥にまみれても、草つゆに着物を汚しても、二人とも、一向に気にしなかった。ただ、互いの存在が、そばにいることが、全てだった。
 犀星は、母を知らない。誰かに甘えることを知らず、いつも自分の周りを警戒する癖があった。だからこそ、自分を強く信じ、信念を貫く強情なまでの意志を備えていた。我が身は我が身で守らねばならない。それが、幼い頃からの、犀星の生き方だ。
 反して、玲陽は父を知らない子であった。母に尋ねても、身に覚えがない、という。父親が不明で生まれる子は数知れずいるだろうが、犀陽のように、父親が存在せずに生まれた子はどれほどいるのだろう。自分は人間なのか、という根本的な疑問、実の母親の愛さえ素直に受け止められず、誰にも心を開くことなく、いつも微笑み、嫌われまいと自分の心を封印してしまったのが、玲陽である。
 だが、その二つの魂は、確かに惹かれ合った。
 犀星が生まれた、四十九日後、玲陽は生まれた。
 わずか一月半の差であったが、玲陽は犀星を兄として心深く慕った。
 犀星もまた、一族に忌み子として避けられ、冷たい仕打ちを受ける玲陽を守りたいと願った。
 二人は、一つの時間を過ごした。
 自分にないものを、相手は全て持っていた。
 犀星の勇気を、玲陽は学んだ。玲陽の深い慈愛を、犀星は覚えた。
 十五歳を迎えるまでは、彼らは毎日、共に生きてきた……
「陽」
 堪えられない何かに、押し出されるように、犀星の喉から、その名がこぼれ落ちた。
 長い間、声にすることさえ、できなかった名だった。
 十年前、自分が置き去りにしてしまった自分の分身、いや、魂そのものの名だ。
「すまない」
 どれほど謝罪を口にしても、償いきれるものではない。
 あの頃、玲陽は、美しい艶やかな黒髪をしていた。犀星は自分の奇妙な髪色が気に入らず、玲陽の髪に憧れた。
 また、玲陽の漆黒の瞳も、犀星にはあまりに美しく感じられた。
 黒い髪と瞳、真珠のごとき光沢のある白い肌、誰に対しても、何に対しても、愛情を持って尽くす玲陽の姿は、たとえそれが、寂しさの裏返しであったとしても、犀星には何よりも尊く、美しかった。この人のために、生きようと決意し、犀星は多感な少年時代を、玲陽に全てささげてきた。
 犀星のその真実の想いは、玲陽の心を開かせた。
 母にすら遠慮がちに接し、目をそらしてしまう玲陽が、犀星だけは真っ直ぐに見つめた。そして、作り物ではない、本心からの笑顔を、惜しげもなく向けた。鋭く、強く、自信に溢れた犀星の碧玉の瞳は、犀陽の誇りであり、正しく自分を導いてくれる星(ほし)に相違ない。
 あの頃、まだ若すぎた二人には、その感情がなんであるか、わからなかったのだろう。
 仲の良い友人か、複雑な事情を抱えた従兄弟か、共に育った幼馴染か。
 そのどれもが当てはまると同時に、核心を得てはいないことを、大人になるにつれて、犀星は思い知った。
 そしてその感情を表す言葉を、自分が知らないことにも、気付かされた。
 初めて、心に生まれた感情の嵐。消えることなく、日々募るばかりで、やり場のない怒りや虚しさ、寂寥感に気が狂いそうになった時、その感情に名をくれたのが、意外にも、涼景だった……
 子どもの頃のこと、都で過ごした十年間のこと、そして、今、この瞬間のこと。
 バラバラだった記憶が全て現実であることを、腕の中にしっかりと抱きしめた玲陽の体が、確かに告げている。
「二度と、放さない」
 自分でも不思議と、そんな言葉が犀星の口をついた。そして、言ってしまってから、それが自分の全てであることに気づく。
 そうだ、玲陽と離れていた時間、自分の心は死んでいたのだ。
 そしてそれは、玲陽も同じだったのだろう……
 自分には、涼景がいた。東雨もそばにいてくれた。一人ではなかった。
 だが、玲陽は、たった一人、この地で地獄を、煉獄を見ていた。
 変わり果てようとも、その姿は、犀星には愛しくてたまらない存在に他ならなかった。
 よく、生きていてくれた。
『星…兄様』
 玲陽は、確かに自分をそう、呼んだ。
 それが、自分が何より欲していたものだ。
 どんな宝より、地位や権力より、たった一人の人が、自分だけを呼ぶその言葉。
 これが、これだけが、犀星の望みだった。
「二度と、放さないから」
 再び、彼は言った。
 今度は、自らの意思で、力のこもった声で、はっきりと……
「……約束、ですよ」
 かすかに、この世のものとは思えないほど澄んだ声が、犀星の耳元で煌めいた。
 喉が潰れたように呼吸が止まり、犀星は何も言えなかった。
 答える代わりに、ただ、強く強く、玲陽を抱きしめる。
 犀星が力を込めれば、容易に砕けてしまいそうなほど、玲陽の体は細り、病んでいた。全身の傷も、さぞや痛んだことだろう。
 それでも玲陽は、声一つ上げることなく、黙ったまま、その細い腕を精一杯に伸ばして、犀星の背中を抱き寄せる。
 自分より、ずっと逞しくなったその体は、彼が都でどれだけ戦い続け、己を危険に晒してきた結果であることを、物語っていた。辺境の地で幽閉された身とはいえ、命を狙われることはなく飼い殺されていた自分には、想像もつかない苦難が、犀星の身には起きていたのだろう。
 十年前、身を裂かれる思いで都へ連れ去られたあと、犀星は、毎日のように命を狙われ、眠れぬ夜を過ごしたに違いない。玲陽を連れていく、と叫んだ犀星の言葉をはっきりと断ったのは、玲陽自身である。
 もし、自分が共に都へ行ったならば、間違いなく、犀星に負担をかけてしまうことを、玲陽は察していた。親王の従兄弟、まだ幼く、剣術もままならず、己の身も自在に守ることができない自分が、どれだけ、足手まといになるか、玲陽は、それだけを考え、後を追いたい気持ちを振り切った。
 あの時、犀星は泣きそうな声で自分を呼んでいた。出立のぎりぎりまで、自分を探し、必ず守るから一緒に来てくれと、繰り返した。
 必ず守る。
 犀星のその言葉は真実だっただろう。
 そして、犀星は自分を守り、命を落としただろう。
 玲陽が何より望まない、未来。
 犀星なき世界に、自分もまた、存在する理由はない。
 悲鳴にも似た、自分を呼ぶ声が遠ざかるのを、玲陽は膝を抱えて、蔵の中に隠れたまま聞いていた。
 涙が、止まらなかったのを、今でも鮮明に覚えている。
 よく、生きて帰ってくれました。
 玲陽は目を閉じたまま、犀星のうなじに顔を埋めた。
 感じる、喉元の血管の脈動。
 確かに、生きている暖かい体。
 それが、彼の全てなのだ。
 そして、その命が、今、こうして自分の腕の中にある。玲陽は、何もかも、忘れていた。
 幼かった時のこと、十年間の兄たちによる仕打ち、何度も襲ってきた、自ら命を絶ちたい衝動。
 それら全ては、この、今、という瞬間が消し去った。そして、新しい時間が始まるのだ。

 命あれども、心なきが如く。

 重なり合う心を自らの中に受け入れて、二人は互いの髪を撫で、頬を撫でて、微笑んだ。
 交わり合う視線が、互いを絡め取り、どちらからともなく、自然と唇を寄せようとしたとき、
「悪い。待たせたな。湯を沸かすのも一苦労だった」
 火おこしから初めて、煮詰めた薬水を手にした涼景が入ってくる。
 犀星は、顔を上げると、玲陽の胸に甘えながら、とろんとしたまなこで涼景を見た。
 その、どこか恨めしげな目に、涼景は明らかに、自分が邪魔者だと感じたらしい。
「ああ、そうかよ」
 全てを察して、涼景は無遠慮に二人に近づくと、犀星にはお構いなしで、逞しい腕を差し入れ、玲陽の上半身を抱き起こした。
「玲光理(こうり)どの。お互い、とんでもない姿での対面となったが、勘弁してくれ。燕仙水(せんすい)だ」
 涼景は、はだけた襦袢一枚、玲陽に至っては素肌を晒している。
「事情は察しがつきます、仙水様」
 静かに、玲陽は涼景に拝礼した。
「あなたが、助けてくださったのですね。私も……そして、兄様のことも、ずっと」
「恩は返してもらうぞ」
「涼景!」
 犀星は恨みがましい声を出した。それが、涼景なりの親しみを込めた挨拶だと知ってはいても、玲陽にぶつけられると、なぜか不安になる。
 犀星の心配をよそに、玲陽の方は、落ち着いて答えた。
「燕仙水様。暁将軍としてのお噂はお伺いしております。そのあなたが、兄様をお守り下さいましたこと、この玲光理、心より感謝申し上げます。あなた様からのご恩、とてもお返しし切れるものではないでしょうが……」
「案ずるな。俺が押し売りする恩は安いんだ」
 涼景は薬湯を差し出した。
「こいつを飲めば、帳消しになる」
 一瞬で、涼景の懐の深さを悟ったのだろう。玲陽は素直に木椀を受け取ると、疑うことなく飲み干した。
 心配そうに玲陽を支えていた犀星に、涼景がにやりと笑って、
「星、お前がどうして、ここまでこいつにこだわったのか、得心がいった」
「なんだ?」
「二度と手放すな。その時は、俺が貰い受ける」
「ふざけるな! 殺されたいか!」
「兄様」
 思わず激昂した犀星に、穏やかに玲陽が声をかけた。呼ばれて、反射的に振り返る。
「お帰りを、お待ちしておりました」
 犀星の頬に流れ落ちた一雫の涙の意味は、彼自身にもわからない。
 そして、玲陽の頬に、十年ぶりに優しい笑みが浮かんでいたことに、玲陽自身もやはり気づいてはいなかった。
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