【一旦完結】回想モブ転生~ヒロインの過去回想に登場するモブに転生した~

ファスナー

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過去回想に映りこむモブ編

第39話 想定内の結果

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目の前に現れた悪魔パルバフェットを見て天使オエエルは固まった。

「おや?あなたですか。」
悪魔パルバフェットは天使オエエルを確認して肩を竦める。

エドワードはパルバフェットのそばに寄り耳打ちをする。
するとパルバフェットは盛大に噴き出し膝から崩れ落ちた。

「大変失礼致しました。」
ひと通り笑い終えるとパルバフェットはキリッとした表情になり、深々と謝罪をする。

だが、オエエルは無言のままプルプルと肩を震わせていた。
顔は真っ赤になり今にも泣きだしそうになっている。

けれどそれは自業自得というもの。先ほどまで勝ち誇ってイキッていたのだから。

ただ、ざまぁしたら即ざまぁで返されたという事実に、周囲からは同情の視線が集まっていた。


その一方で、ダリウス達はセーバスと戦っていた。

ダリウスはセーバスに接近してメイスを切上げる。
だが、セーバスは横飛びして躱しながらダリウスの胸めがけて短剣を投擲した。

キンッ
ダリウスはバックステップで後ろに後退しながらメイスを振り下ろして短剣を打ち落とした。

「やっぱりだ。君からはなんともは歪な感じがするね。武器の扱いは未熟なのに時々達人のような動きを見せる。実に興味深い。」

「さあな。自分じゃわからねぇよ。」

「それにしても、あれが悪魔か。
 どうやって召喚したのかなぁ?君は知ってる?」

「は?何の話だ?」

「あれだよ。悪魔の召喚。
 さっき僕の天使が伝えてたと思うけど、今この場所で召喚魔法は使えないんだ。
 僕の天使がそう言う風に設定したからね。
 なのになんで彼は悪魔を召喚できたのかなぁ?ってね。」

召喚が出来ないように設定したはずなのに召喚が出来てしまっている。
その事実はセーバスの興味を掻き立てた。


セーバスの話を聞きダリウスは理解した。
エドワードはきっと抜け道を見つけてそこを突いたのだろう。

「はっ、理由は分からねーが、エドならやるだろうよ。
 アイツが言うには魔法は自由なんだと、よ。」
メイスを右薙ぎに振るいながら、ダリウスは昔の事を思いだして笑みをこぼした。

あれは本を読んでいるエドワードを見つけた時のこと。
エドワードが読んでいたのは研究者が執筆した魔法の解説本。
ダリウスが見たのは初級魔法のそれも自分達が習得済みの魔法を解説したページだった。

「もう習得した魔法の解説なんて読んでどうするんだ?」
疑問に思ったダリウスは聞いた。

「だからこそだよ。
 それをちゃんと把握すると可能性が広がるのさ。」
エドワードの答えに首を傾げるダリウス。

「僕達はまだ体が小さいだろ。
 それに知識も体力も経験も何もかもが足りないじゃないか。
 そんな僕達が戦いに巻き込まれたら、例えば盗賊に襲われたらどうする?」

「そんなの魔法でゴリ押しだろ。
 魔力トレーニングのおかげで魔力量はめっちゃ増えてるし」

「うん、正解。
 自分の長所を活かすことで活路を見出すのは正しいね。
 じゃあ、条件追加。
 相手も同等かそれ以上の魔力を持ってたら。
 ゴリ押しが通じなかったら、どうする?」

「むむっ。そんときは、隙をついて逃げる。」
ダリウスは自信なさげに答えた。

「その通り。逃げるしかない。
 だけどどうやって隙を作るかが問題だ。
 さっきも言ったけど、知識も体力も経験も僕達は足りない。」

「…、降参。正解は?」
ダリウスは少し考えて肩を竦めた。

「これは僕の考えだから正解とは限らないけどね。
 相手を出し抜けるとしたら、奇想天外な発想力だと思う。」

「発想力?」

「そう。魔法ってのは自由なんだ。
 だけど人間の頭の中にある常識が枷を嵌めてしまう。
 これはできるけど、これはダメってね。
 でも本当だろうか?
 
 直接的でなくても間接的になら出来ることってあると思うんだ。
 
 例えば、人間は鳥のように空は飛べないでしょ。
 でも、<身体強化>の魔法を使って高くジャンプしたあと、風魔法で風を発生させれば遠くまで移動することはできる。
 やり方は違っても空中を移動するという目的は達成できるよね。
 だから、僕達が知ってる魔法で何が出来るかって考えてると思いもよらない活用法を見いだせると思うんだ。」

その後、ダリウスはエドワードが言った言葉の意味を理解することとなった。
エドワードは魔法の使い方が違った。

例えば、障壁は相手の魔法を防ぐために発動するのが普通だ。
だけどエドワードは相手の魔法を利用して反撃するために発動する。
それができるのも、通常は自分の目の前に出現させる障壁を相手の側に設置する技術を身に着けたからだ。

普通とは違う活用法に気づくエドワードなら召喚禁止されている状況からでも打破する方法を思いついても不思議ではない。



「へー、ますます彼に興味が出てきたよ。」
セーバスはダリウスの攻撃をよけず、むしろ前に詰め寄って短剣でメイスを受けた。
メイスが十分な威力を発揮する前に受けられたことでつばぜり合いの状況になる。

「チッ」
セーバスの後方にいるシドーから舌打ちが聞こえた。
セーバスがダリウスの攻撃を躱すために後ろに避けてきたところを潰すつもりで狙っていた。
しかし、セーバスがダリウスの攻撃を受けたことで計画が崩れてしまった。

「ダメだよ、シドーさん。
 獲物を狙ってるときに殺気が一瞬でも漏れたらバレるよ。」
セーバスの言葉にダリウスはあの夜の事がダブった。


「うん。大体分かったかな。
 君たち2人は実に興味深い。
 ここで潰すには惜しいな。だからさ。」
セーバスはそう言うとダリウスと距離を取る。
次の瞬間、ダリウスの視界からセーバスが消えた。


「ここで退散させてもらうね。
 帰るよ、オエエル。」
そう言って、セーバスはオエエルの頭にポンと手を乗せる。
顔を上げたオエエルは紅潮しながら、コクンと頷いた。

オエエルが手をかざすと彼らの足元に魔法陣が現れ、発光とともに彼らの姿が薄くなっていった。
あれは転移の魔法だ。
既に魔法陣が発動しており彼らの妨害は不可能だった。

「これからって時に水を差して悪いけど僕たちはこれで失礼するよ。
 あ、そうそう実はシドーさんの件は優先事項じゃなかったんだ。
 実は任務はコレの確保。嘘ついてゴメンね。」
セーバスの手には例の青い液体が入った小瓶があった。

「ああ、いつの間に。」
してやられたと悔しそうなエドワード。

「そのかわり、シドーさんも君たちも狙われないように闇ギルドにはうまく報告しておくからさ。それで勘弁してよ。」
セーバスはバイバイと手を振った。


「おや?一戦も交えず帰られるのですか?」
一方で、パルバフェットがオエエルを挑発する。

「うっさいわね。
 さっきうちの坊やが言ってたでしょう?
 物事には優先事項があるのよ。
 今すぐぶっ殺してやりたいところだけど、私《わたくし》様はすぐ戦闘したがる野蛮人《あんた》とは違うの。
 次に会ったときにはぶっ殺してあげる。」
オエエルはパルバフェットを睨みつけ、そして消えていった。


  ***

闇ギルドに隣接するバーは今日も荒くれ者達で賑わっていた。
そこに入ってきたのは黒い外套に身を包んだ男。
見るからに怪しい風貌だが誰もそれを言及する者はいない。暗黙の了解があるのだ。

男はカウンターの端に座っている青年の隣に腰掛けた。

「お疲れ様です。」
青年は爽やかな笑顔で挨拶をする。

「ほんとだぜ。」
そう言って、男は注文したエールを一気に煽る。

「それで、あれは本当に必要だったんですかぃ?」
男は青年に尋ねる。

「ん?あれってあの三文芝居のこと?
 それなら事前に言ったじゃない。必要だって。」

男は無言で訝しい視線を向ける。

「その疑いの目はなんです?
 闇ギルドはグレーな依頼も引き受ける非合法な組織ですからね。
 人によっては単なる犯罪者集団にしか見えません。
 そんな人間が入り込むには、信用が足りません。
 なので、闇ギルドと決別しているポーズが必要です。」

「だから刺客が俺を襲った。彼らの目の前で。」

「そうそう。分かってるじゃない、おかげで信用されたでしょう?」

「天使様の登場はやり過ぎでしたけどね。」

「あー、あれねぇ。」
青年はアハハッと笑うがどこか歯切れの悪かった。

「天使ちゃんからの要望だったんだよね。
 彼らとは一度屋上のテラスで戦ったらしいじゃない?
 でも、悪魔の邪魔が入って楽しめなかったらしくって。
 それでリベンジの機会を狙ってたんだって。
 私も行くって駄々こねられちゃった。」

「いや、過剰戦力でしょうよ。
 下手したら全員死んでますよ?」

「そんなことしないよ。多分。
 天使ちゃんは言うことちゃんと聞いてくれるよ?」

「いや、それってあんただけだから。
 許可しないで下さいよ。こっちは死んだと思ったんですから。」

「いいじゃない。絶対そっちの方が面白いし。」

「でたよ、この人はいっつもそうだぁ。
 面白いで人を振り回すのやめてくださいよー。」
男は今にも泣きそうだった。

「まぁまぁ。丸く収まったんだからいいじゃない。
 茶番に付き合うならどこかに楽しみ見出したいじゃない?」

「俺はあんたに付き合わされた彼らが可哀そうで仕方ねぇよ。」

「ねぇ、人を敬うってこと知ってる?
 まぁ気分いいから許してあげるけどね。」

「あー、少年2人やたらと気に入ってましたもんね。
 前途有望な若者たちだ。潰さないでくださいよ。」

「大丈夫じゃないかな。彼らなら乗り越えてくれるよ。」
青年はカラカラと笑って席を立った。
一人残された男はこれから起きるであろう面倒事を想像してため息をつくのだった。
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