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過去回想に映りこむモブ編
第34話 イーレ村の噂ー始まり
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side:冒険者ジャック
くそっ。失敗した。
やっぱり自分の勘を信じてやめておけばよかった。
「ちっ」
思わず舌打ちをしてしまう。魔法で傷つけられた右肩が痛い。
しかし、それよりも今は逃げなくては。
「ふはははっ。逃げろ逃げろ。」
上機嫌な男の高笑いが森にこだまする。男には一本の角が生えていた。魔人である。
厄介な奴と遭遇してしまったと男は自分の不運を嘆く。
男は冒険者になって10余年の中堅冒険者。依頼を受けて薬草を摘んだり魔獣討伐をおこなったりして生計を立てている。
男はパーティを組んだりソロで活動したりとまちまちだが、今回はソロでの活動だった。
冒険者達には暗黙のルールがある。
その1つが魔人を見つけたら即時撤退する事だ。
男が魔人を見つけたのは森の奥に入って30分ほど経過した頃。
50m先に気配を見つけ、警戒しながら探っていたところ魔人と判明した。
思えば今日は森に入るころから違和感を覚えていた。
馴染の森が妙に静かだったのだ。
その時点で引き返せばよかったのだが、日銭を稼がなければ暮らしていけない。
なので、違和感がありつつも森の奥へと進んでいった。
あの時に自分の勘を信じていれば。
男は自分の不運を嘆く。だが、嘆いていても状況は好転しない。
それどころか悪化の一途をたどっていた。
魔人を発見した直後に即時撤退を判断するが、既に遅かった。
男は既に魔人に捕捉されてしまっていたのだ。
「<風刃>」
魔人が放った不可視の刃が男に飛んでくる。
男は嫌な予感を察知し左に避ける。
しかし避けきれず男の右肩に被弾する。
「ほう、一撃で殺せると思ったのだが、やるじゃないか。
久々に楽しませてくれよ?」
魔人は<風刃>を複数発動。
逃げに徹した男は森をジグザグに逃げることで魔人の攻撃を躱していく。
驚きつつも魔人はテンションがじょじょに上がっていく。
「ふはははっ。逃げろ逃げろ。」
撒いたか?
どうやら魔人は自分の姿を見失ったらしく、遠くで俺を探す声が聞こえる。
男は息を殺してじっと待つ。
「おやっ、かくれんぼかい?僕も混ぜてくれよ。」
突如、背後から声が掛かり思わず飛びのいた。
振り向くと、さっきまでとは違う魔人がシニカルな笑みを浮かべていた。
すぐに高笑いしていた魔人も合流してきた。
このままじゃマズい。
頭ではそう分かっているのに、金縛りにあったように身体が動かない。
恐怖に支配されながらも、俺は今日死ぬ運命なのだと理解した。
「おお、魔人じゃん。
やべー、初めて見た。テンション上がるわー。」
そんな絶体絶命の状況で、場違いなどこか楽しそうな声が響いた。
少年?いや、青年か?
声のする方向を見ると、10代中ごろの青年が立っていた。
青年は魔人達の前だというのに、緊張を感じた様子もなく飄々としている。
「「何者だ?」」
魔人達は今日初めて警戒心を露わにした。
「ん、俺か?俺はイーレ村のユーリカ。
シスターから薬草を取ってきてくれって言われたやってきたんだ。
お前達は魔人でいいんだよな?初めて見たからちょっと自信なくてさー。」
ユーリカと名乗った青年はどこかワクワクしている。
イーレ村というのはどこだろうか。聞いたことが無い。
「俺はブラン。こっちのはサジェット。お前の言う通り俺達は魔人だ。
お前、なかなか強そうだし俺達と遊ぼうぜ。こっちの男よりは楽しめそうだ。」
「おー、やっぱり好戦的だなー。
いいけど、ルールはどうする?
戦闘不能にしたら?あと敗北宣言とか?」
青年の言葉に俺も魔人達も一瞬キョトンとなる。そして魔人達はゲラゲラと笑いだす。
「何言ってんだ、お前。殺し合いに決まってるだろ。」
「えっ、そうなの?
そういうならまぁいいか。分かったよ。」
「よし。決まりな。じゃあ、俺からい――。」
ブランという魔人の話が途中で中断する。
俺とサジェットとよばれた魔人はブランの様子がおかしいことに訝しんだ。
直後に理由がわかった。
ブランが後ろ向きに倒れると、首と胴体が別れたのだ。
あり得ないことだった。
魔人は人間以上の頭脳と身体能力、魔力を持つ上位の存在。
冒険者ギルドでは魔人と遭遇したら死を覚悟しろと教えられる。
S級の冒険者がチームを組んでやっと魔人と対抗できるほどに差がある。
そんな存在を容易く屠る人間がいることは衝撃だった。
「あれー?」
だが、ブランを秒で倒したユーリカという青年は、おかしいなというように首を傾げている。
その一方、残った魔人サジェットから殺気が溢れ出た。
「不意打ちとは卑怯な奴だな、君は。
それにブランを倒したからと言って調子に乗ってもらっては困るな。あんな弱い奴を倒した位で魔人に対抗できるなんて勘違いしてもらいたくないな。僕は彼の数倍強いからね。君たち人間に魔人の恐ろしさを改めて教えてあげるよ。」
そう言うなり、サジェットは<身体強化>を発動する。
気づけばユーリカの背後にサジェットがいた。
奴はすでに剣を振りかぶっていた。
「じゃあな、人間。」
後ろだ、気を付けろ。
俺が声を出そうとした時、ユーリカは既に動いていた。
「お前がな。」
ユーリカは振り向きざまに回し蹴りを放ち、振り下ろそうとしたサジェットの剣を折った。
「馬鹿な…。」
折れて宙を舞う剣を呆然としているサジェットの顔をユーリカの拳が襲う。
殴られて吹っ飛んでいったサジェットに追撃を与えようとユーリカが動くが、途中で停止。
バックステップで後ろに下がる。
ガガガッと何かが地面に刺さる音が響いた。
先ほどまでユーリカがいた場所を見ると<石弾>が突き刺さっている。
もしそのまま突っ込んでいたらユーリカに当たっていただろう。
「へぇ、言うだけあって少しはやるじゃないか。」
ユーリカはニヤリと笑う。
「舐めるなよ。少しはやるようだが、これで終わりだ。<風刃>、<火弾>」
「複数属性の並列処理《パラレル》だと!?」
俺は魔人の攻撃に思わず声を上げた。複数属性を同時になんて普通はできない。
「<風壁>展開」
ユーリカは風魔法の障壁で防ぐつもりだ。だが、風魔法は魔力喰らいで効果が高いとはいえない魔法。
何故それを選択したのか疑問に思っていると答えはすぐにでた。
「ぎゃあああ」
断末魔のような悲鳴をあげているのはサジェットだった。
しかも自分の放った<火弾>によって怪我を負っている。
ユーリカが展開した<風壁>はサジェットの<風刃>を受けて1枚目が割れて相殺。1枚目の後ろに設置していた2枚目の<風壁>によって<火弾>を受け止めて反射。
サジェットは跳ね返されて戻ってきた<火弾>に被弾したというわけだ。
特筆すべきは<風壁>の発動した位置。
通常、障壁は自身の近くに発動する。勝手に側に作られ位置を変えるなんてできないからだ。
だが、どうやってかは分からないが、サジェットの近くに展開した。しかも不可視の障壁をだ。
障壁があることを知らないサジェットは見事に罠に引っかかったという訳だ。
そしてユーリカはサジェットの隙を見逃さなかった。
先ほどのお返しとばかりにサジェットの背後に移動し、剣で一刀両断してしまった。
ユーリカの圧勝であった。
***
「ありがとう、助かったよ。俺はクリード=ジャック。
一応家名持ちだが実家は貧乏男爵家の三男だからほぼ平民だ。
気にせずジャックと呼んでくれ。貴族的なマナーも知らないしな。」
「俺はユーリカ。ジャックさんよろしく」
「それにしても君は強いねー。
普通は魔人と遭遇したら即逃げろと言われる存在だ。」
「そうなんですか。自分じゃわかんないですね。村じゃまだまだ弱い部類なので」
ユーリカ君の言葉に俺は絶句した。話の感じから謙遜している感じではない。
本当に村の中では弱い部類なのだと思っているようだ。
「ち、ちなみに君はどこの村出身なんだい?」
「イーレ村っす。ここライラの街からだと南に100kmいった所にあるんですけど、知らないっすか?」
「イーレ村というは聞いたことないな。」
あれ?ちょっと待て。
そこは未開の地と呼ばれるカナン帝国が開拓中の場所じゃないか。
なら、俺たちが知らない無名の超人が居てもおかしくはない。
妙に納得すると共に冷や汗が出た。
「そういえば、よく俺を見つけられたね?」
話題を変えようと別の質問をぶつけた。
森の奥に入って魔人を見つけた後、なるべくバレないように気配を消していたからだ。
冒険者として長年過ごしていると気配を消すのが上手くなる。
俺もかなり上手いほうだと自負していた。まぁ、魔人たちに即バレしたけど。
俺の質問にユーリカ君はなぜか照れ始めた。
「実は…」
土地勘になれてないユーリカ君は魔人と出会う前の森で探索している俺を見つけたらしい。所作からベテラン冒険者と思い、声を掛けるタイミングを計って、後を尾けていたら、俺が運悪く魔人と相対してしまったと。
ただ、魔人を初めてみたことでテンションが上がっちゃって気づいたら声をかけていたと言うことらしい。
うん、なんかおかしい。
魔人は畏怖される存在だから。憧れの人的な立ち位置の存在じゃないからね。
まぁ、魔人を圧倒してたし彼からしたら脅威にならないんだろうけど。
なぜここにいるのかと問うと、なんでも村のシスターからの依頼だという。
ライラの森に多く生えている特殊な薬草と魔石を入手するのが目的らしい。
「薬草なら俺が持ってるから、少しならお礼代わりにやるよ。流石に全部は勘弁してくれよ。生活できなくなるから。あと、魔石は魔人から取ればいいんじゃないか。」
「ありがとうございます。これで帰れそうだ。よかったぁ。」
ユーリカはなんか感激の涙を浮かべて、薬草と魔石を持って帰った。
その日からイーレ村がヤバいという噂が少しずつ出始めるのである。
***
「依頼の品、持ってきました。」
「あら、ご苦労さま。そこに置いといて。」
ユーリカに返事をするのはイーレ村で孤児院を営むシスターマリア。
孤児院ではポーションなどの回復薬を作っており、その素材集めを依頼していたのだ。
今日はこれから回復薬つくりをしようとしていた矢先、訪問客がいた。
「お久しぶりです。シスターマリア」
そう、声を掛けたのはエドワードだった。
くそっ。失敗した。
やっぱり自分の勘を信じてやめておけばよかった。
「ちっ」
思わず舌打ちをしてしまう。魔法で傷つけられた右肩が痛い。
しかし、それよりも今は逃げなくては。
「ふはははっ。逃げろ逃げろ。」
上機嫌な男の高笑いが森にこだまする。男には一本の角が生えていた。魔人である。
厄介な奴と遭遇してしまったと男は自分の不運を嘆く。
男は冒険者になって10余年の中堅冒険者。依頼を受けて薬草を摘んだり魔獣討伐をおこなったりして生計を立てている。
男はパーティを組んだりソロで活動したりとまちまちだが、今回はソロでの活動だった。
冒険者達には暗黙のルールがある。
その1つが魔人を見つけたら即時撤退する事だ。
男が魔人を見つけたのは森の奥に入って30分ほど経過した頃。
50m先に気配を見つけ、警戒しながら探っていたところ魔人と判明した。
思えば今日は森に入るころから違和感を覚えていた。
馴染の森が妙に静かだったのだ。
その時点で引き返せばよかったのだが、日銭を稼がなければ暮らしていけない。
なので、違和感がありつつも森の奥へと進んでいった。
あの時に自分の勘を信じていれば。
男は自分の不運を嘆く。だが、嘆いていても状況は好転しない。
それどころか悪化の一途をたどっていた。
魔人を発見した直後に即時撤退を判断するが、既に遅かった。
男は既に魔人に捕捉されてしまっていたのだ。
「<風刃>」
魔人が放った不可視の刃が男に飛んでくる。
男は嫌な予感を察知し左に避ける。
しかし避けきれず男の右肩に被弾する。
「ほう、一撃で殺せると思ったのだが、やるじゃないか。
久々に楽しませてくれよ?」
魔人は<風刃>を複数発動。
逃げに徹した男は森をジグザグに逃げることで魔人の攻撃を躱していく。
驚きつつも魔人はテンションがじょじょに上がっていく。
「ふはははっ。逃げろ逃げろ。」
撒いたか?
どうやら魔人は自分の姿を見失ったらしく、遠くで俺を探す声が聞こえる。
男は息を殺してじっと待つ。
「おやっ、かくれんぼかい?僕も混ぜてくれよ。」
突如、背後から声が掛かり思わず飛びのいた。
振り向くと、さっきまでとは違う魔人がシニカルな笑みを浮かべていた。
すぐに高笑いしていた魔人も合流してきた。
このままじゃマズい。
頭ではそう分かっているのに、金縛りにあったように身体が動かない。
恐怖に支配されながらも、俺は今日死ぬ運命なのだと理解した。
「おお、魔人じゃん。
やべー、初めて見た。テンション上がるわー。」
そんな絶体絶命の状況で、場違いなどこか楽しそうな声が響いた。
少年?いや、青年か?
声のする方向を見ると、10代中ごろの青年が立っていた。
青年は魔人達の前だというのに、緊張を感じた様子もなく飄々としている。
「「何者だ?」」
魔人達は今日初めて警戒心を露わにした。
「ん、俺か?俺はイーレ村のユーリカ。
シスターから薬草を取ってきてくれって言われたやってきたんだ。
お前達は魔人でいいんだよな?初めて見たからちょっと自信なくてさー。」
ユーリカと名乗った青年はどこかワクワクしている。
イーレ村というのはどこだろうか。聞いたことが無い。
「俺はブラン。こっちのはサジェット。お前の言う通り俺達は魔人だ。
お前、なかなか強そうだし俺達と遊ぼうぜ。こっちの男よりは楽しめそうだ。」
「おー、やっぱり好戦的だなー。
いいけど、ルールはどうする?
戦闘不能にしたら?あと敗北宣言とか?」
青年の言葉に俺も魔人達も一瞬キョトンとなる。そして魔人達はゲラゲラと笑いだす。
「何言ってんだ、お前。殺し合いに決まってるだろ。」
「えっ、そうなの?
そういうならまぁいいか。分かったよ。」
「よし。決まりな。じゃあ、俺からい――。」
ブランという魔人の話が途中で中断する。
俺とサジェットとよばれた魔人はブランの様子がおかしいことに訝しんだ。
直後に理由がわかった。
ブランが後ろ向きに倒れると、首と胴体が別れたのだ。
あり得ないことだった。
魔人は人間以上の頭脳と身体能力、魔力を持つ上位の存在。
冒険者ギルドでは魔人と遭遇したら死を覚悟しろと教えられる。
S級の冒険者がチームを組んでやっと魔人と対抗できるほどに差がある。
そんな存在を容易く屠る人間がいることは衝撃だった。
「あれー?」
だが、ブランを秒で倒したユーリカという青年は、おかしいなというように首を傾げている。
その一方、残った魔人サジェットから殺気が溢れ出た。
「不意打ちとは卑怯な奴だな、君は。
それにブランを倒したからと言って調子に乗ってもらっては困るな。あんな弱い奴を倒した位で魔人に対抗できるなんて勘違いしてもらいたくないな。僕は彼の数倍強いからね。君たち人間に魔人の恐ろしさを改めて教えてあげるよ。」
そう言うなり、サジェットは<身体強化>を発動する。
気づけばユーリカの背後にサジェットがいた。
奴はすでに剣を振りかぶっていた。
「じゃあな、人間。」
後ろだ、気を付けろ。
俺が声を出そうとした時、ユーリカは既に動いていた。
「お前がな。」
ユーリカは振り向きざまに回し蹴りを放ち、振り下ろそうとしたサジェットの剣を折った。
「馬鹿な…。」
折れて宙を舞う剣を呆然としているサジェットの顔をユーリカの拳が襲う。
殴られて吹っ飛んでいったサジェットに追撃を与えようとユーリカが動くが、途中で停止。
バックステップで後ろに下がる。
ガガガッと何かが地面に刺さる音が響いた。
先ほどまでユーリカがいた場所を見ると<石弾>が突き刺さっている。
もしそのまま突っ込んでいたらユーリカに当たっていただろう。
「へぇ、言うだけあって少しはやるじゃないか。」
ユーリカはニヤリと笑う。
「舐めるなよ。少しはやるようだが、これで終わりだ。<風刃>、<火弾>」
「複数属性の並列処理《パラレル》だと!?」
俺は魔人の攻撃に思わず声を上げた。複数属性を同時になんて普通はできない。
「<風壁>展開」
ユーリカは風魔法の障壁で防ぐつもりだ。だが、風魔法は魔力喰らいで効果が高いとはいえない魔法。
何故それを選択したのか疑問に思っていると答えはすぐにでた。
「ぎゃあああ」
断末魔のような悲鳴をあげているのはサジェットだった。
しかも自分の放った<火弾>によって怪我を負っている。
ユーリカが展開した<風壁>はサジェットの<風刃>を受けて1枚目が割れて相殺。1枚目の後ろに設置していた2枚目の<風壁>によって<火弾>を受け止めて反射。
サジェットは跳ね返されて戻ってきた<火弾>に被弾したというわけだ。
特筆すべきは<風壁>の発動した位置。
通常、障壁は自身の近くに発動する。勝手に側に作られ位置を変えるなんてできないからだ。
だが、どうやってかは分からないが、サジェットの近くに展開した。しかも不可視の障壁をだ。
障壁があることを知らないサジェットは見事に罠に引っかかったという訳だ。
そしてユーリカはサジェットの隙を見逃さなかった。
先ほどのお返しとばかりにサジェットの背後に移動し、剣で一刀両断してしまった。
ユーリカの圧勝であった。
***
「ありがとう、助かったよ。俺はクリード=ジャック。
一応家名持ちだが実家は貧乏男爵家の三男だからほぼ平民だ。
気にせずジャックと呼んでくれ。貴族的なマナーも知らないしな。」
「俺はユーリカ。ジャックさんよろしく」
「それにしても君は強いねー。
普通は魔人と遭遇したら即逃げろと言われる存在だ。」
「そうなんですか。自分じゃわかんないですね。村じゃまだまだ弱い部類なので」
ユーリカ君の言葉に俺は絶句した。話の感じから謙遜している感じではない。
本当に村の中では弱い部類なのだと思っているようだ。
「ち、ちなみに君はどこの村出身なんだい?」
「イーレ村っす。ここライラの街からだと南に100kmいった所にあるんですけど、知らないっすか?」
「イーレ村というは聞いたことないな。」
あれ?ちょっと待て。
そこは未開の地と呼ばれるカナン帝国が開拓中の場所じゃないか。
なら、俺たちが知らない無名の超人が居てもおかしくはない。
妙に納得すると共に冷や汗が出た。
「そういえば、よく俺を見つけられたね?」
話題を変えようと別の質問をぶつけた。
森の奥に入って魔人を見つけた後、なるべくバレないように気配を消していたからだ。
冒険者として長年過ごしていると気配を消すのが上手くなる。
俺もかなり上手いほうだと自負していた。まぁ、魔人たちに即バレしたけど。
俺の質問にユーリカ君はなぜか照れ始めた。
「実は…」
土地勘になれてないユーリカ君は魔人と出会う前の森で探索している俺を見つけたらしい。所作からベテラン冒険者と思い、声を掛けるタイミングを計って、後を尾けていたら、俺が運悪く魔人と相対してしまったと。
ただ、魔人を初めてみたことでテンションが上がっちゃって気づいたら声をかけていたと言うことらしい。
うん、なんかおかしい。
魔人は畏怖される存在だから。憧れの人的な立ち位置の存在じゃないからね。
まぁ、魔人を圧倒してたし彼からしたら脅威にならないんだろうけど。
なぜここにいるのかと問うと、なんでも村のシスターからの依頼だという。
ライラの森に多く生えている特殊な薬草と魔石を入手するのが目的らしい。
「薬草なら俺が持ってるから、少しならお礼代わりにやるよ。流石に全部は勘弁してくれよ。生活できなくなるから。あと、魔石は魔人から取ればいいんじゃないか。」
「ありがとうございます。これで帰れそうだ。よかったぁ。」
ユーリカはなんか感激の涙を浮かべて、薬草と魔石を持って帰った。
その日からイーレ村がヤバいという噂が少しずつ出始めるのである。
***
「依頼の品、持ってきました。」
「あら、ご苦労さま。そこに置いといて。」
ユーリカに返事をするのはイーレ村で孤児院を営むシスターマリア。
孤児院ではポーションなどの回復薬を作っており、その素材集めを依頼していたのだ。
今日はこれから回復薬つくりをしようとしていた矢先、訪問客がいた。
「お久しぶりです。シスターマリア」
そう、声を掛けたのはエドワードだった。
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