上 下
35 / 56
過去回想に映りこむモブ編

第33話 第2の分岐点

しおりを挟む
side:エドワード

世渡 流のプレイしたゲーム「レインボーワールド」。
そのゲームに出てくるヒロインは様々だが、共通している点がある。
家族や友人、従者や主人など立場や規模の違いはあるが、と言う点だ。

とある雑誌に載っていたレインボーワールド製作サイドのインタビューでもそのことに言及されている。

記者:魅力的なヒロインが多いですが、彼女達って過去に暗い背景を持つ人多いですね。過酷な運命を背負っているというか、過去回想で思わず胸が苦しくなるキャラもいましたよ。

製作:そうなんですよ。ヒロイン達は過酷な運命を背負ってるんです(笑)。ヒロインを魅力的にするには奥行きが必要だって思ったんですよ。

記者:奥行きですか?

製作:はい。どんなに美人なキャラでも普通の人だと物語的には魅力は弱いですよね。それだとただの美人なモブキャラと変わらないんで。
なので個性を与えるわけですけど、ただ取って付けただけだと違和感しかないですよね。
例えばヒロインの一人である先輩キャラのリコリア。彼女は元々ヒロインじゃなかったんです。主人公をフォローするお助けキャラでした。

記者:そうだったんですか。お助けキャラからヒロインて大抜擢じゃないですか。

制作:確かに。実は彼女、システム開発の人気が高くてシナリオ作れーって抗議されまして。
記者:(笑)

制作:ただ、彼女平凡なパラメータなんですよ。そつなくなんでも出来るけど突出してない。平均点なんです。

記者:それはヒロインとして弱いですね。

制作:でしょう。なのでキャラ付けの為に過去設定を新しく付け加えたんですよ。

記者:ああ、なるほど。それが奥行きということなんですね。

制作:その通りです。それで手っ取り早いのがヒロインの近しい人が死ぬ設定だったんです。だから過去回想ではよく人が死にます。ただ、詳細に書いてないです。一応あるんですがそっちがメインじゃないんで省いてるんです。

記者:鬼畜じゃないですか。モブキャラにだって人生があるんですよ。

製作:あはは、すいません。ヒロインの為に犠牲になりました。


僕もその記事を読んで製作サイドは鬼畜だなーなんて思ったものだ。

先輩キャラのリコリアの場合は確か、過去に信頼していたメイドが原因不明の病に倒れてやがて亡くなったという話だった気がする。

昨日、僕はそのリコリア先輩達と出会った。
そして今、その彼女が目の前にいる。レインが明日確認したいと言ったからだ。
あ、ちなみに給仕業務バイトは今日休みだ。
なんでも昨日業務に就いた人は一部の人を除き翌日休みになるようシフト調整してくれたらしい。

「どうですか?」
リコリアさんが聞いてくる。
レイン以外のヒロインと交流出来るのは感慨深いなぁ。なんて思いながらも真顔で接する。僕は紳士だからねって痛い痛い。
なんで無言でつねってくるんですかね、レインさん。

「なんか邪な感情が出てた。」
レインは僕の心を読んだかのような返答をしてきた。エスパーかな。

「で、どうだったの?」
レインに促されて僕はリコリアさんに向かって話す。

「〈鑑定〉の結果、セルビーさんはいたって健康です。ただ、昨日〈鑑定〉した時と違う点がありました。
 それは魔力総量です。昨日<鑑定>で確認した時は410あったものが今は370に減っています。」

僕の言葉にレインとヘカテがやっぱりというような顔をした。
一方で、リコリアさんとセルビーさんはよく分からないのか首を傾げている。

「この魔力総量というのはその人が体内に持てる魔力の値です。普通に魔力量と呼ぶものはこれを指します。
貴族の方ならご存じだと思いますが、基本的に増えることはあっても減ることはありません。」

「減らないはずの魔力量が減った。鑑定の儀で計測した時には500を超えていたはずなのに、それが今は370しかない。ひょっとして私の魔力はこのまま減っていくのか?」
セルビーさんもリコリアさんも不安そうな顔をしている。
だが、僕は何も言えないでいた。

「そういえば昨日、似た症例があると言ってましたがその人は?」
リコリアは昨日の言葉を思い出し、縋るようにレインの方に向いた。

「ああ、彼は生きてますよ。死にかけましたけどね。
 ただ、魔力使えなくなりました。」
ホッとしたのも束の間、リコリア達はレインの後半の言葉に固まった。

貴族と一般人の違いは魔力量だと言われている。それは彼らのアイデンティティなのだから。

魔力が無くなるということは貴族である証のひとつを失うということ。
爵位によっては家から籍を抜くことになる。

「わ、私はどうなるのでしょう?」
セルビーは震える声でお嬢様に尋ねるが答えは返ってこない。

「ちゃんとした方に診てもらったほうが良いですよ。僕はあくまで〈鑑定〉でセルビーさんを診ただけですから。」

「ええ、セルビーのことは教会にも診てもらうつもりです。」
そう言い残して、リコリアさんとセルビーさんは帰っていった。

この世界では回復や治療に関することは教会が管轄している。
だが、僕が<鑑定>でセルビーさんを診ている以上、普通の検査ではこれ以上の情報は掴めないだろう。
教会の方で、今回のような症例が過去にあれば参考になるかもしれないが、イーレ村の書庫にはそう言った情報は無かった。
まぁ都会であればイーレ村よりも情報があるかもしれないが。

ただ、ニジゲンのシナリオ通りであればおそらくセルビーさんは
ゲーム中では病死と書かれていたが、貴族の家系なら表向きの発表と真実が異なる事は往々にしてある。それが本当とは限らない。

イーレ村の襲撃事件の時もそうだったけど、ゲームの情報は概要レベルしか書かれていない。蓋を開けてみれば違うなんてことはあり得そうだ。

さて、ここで僕はどうするべきだろうか?
セルビーさんは今、死亡フラグが立っている。そのことが分かるのはニジゲンの知識を持つ僕だけだ。

僕たちイーレ村の人間はシナリオから逸脱している。下手に関わらずにいれば死亡フラグが立つ可能性は低い。心情的に罪悪感は残るけど。

一方で関わった場合、僕達に死亡フラグが立つ可能性が上がる。それにセルビーさんの死亡フラグを回避できるかは分からない。メリットがあるとすれば、貴族との縁ができるくらいのリスクだらけの選択肢。

「何を迷ってる?どうせ答えは決まってるんだろ?」
その言葉に僕はドキッとした。
ダリウスはたまに核心を突く発言をする。それが僕の決断を後押ししてくれる。

だから、僕はヒロイン達に関わることを決断した。

 ***

とある教会の懺悔室。そこに一人の男が座っていた。
そこに新たな男が入って隣に座る。

「報告します。研究していた毒の件ですが、治験は無事開始できました。
 被験者には息のかかった者を派遣して経過観察を行います。」

「そうか。実行者は?」

「は、闇ギルドを通じて雇い入れた5名の内、4名は既に対処済みです。
 残り1名については現在音信不通になっています。引き続き捜索を続けます。」

「頼んだぞ。私はこのことを主人あるじ様に報告しておく。」
「はっ」
「「すべては天たる神の御心のままに」」

彼らはそう言うと懺悔室を出て行った。
懺悔室を照らす蝋燭の火が怪しく揺れていた。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

殿下には既に奥様がいらっしゃる様なので私は消える事にします

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のアナスタシアは、毒を盛られて3年間眠り続けていた。そして3年後目を覚ますと、婚約者で王太子のルイスは親友のマルモットと結婚していた。さらに自分を毒殺した犯人は、家族以上に信頼していた、専属メイドのリーナだと聞かされる。 真実を知ったアナスタシアは、深いショックを受ける。追い打ちをかける様に、家族からは役立たずと罵られ、ルイスからは側室として迎える準備をしていると告げられた。 そして輿入れ前日、マルモットから恐ろしい真実を聞かされたアナスタシアは、生きる希望を失い、着の身着のまま屋敷から逃げ出したのだが… 7万文字くらいのお話です。 よろしくお願いいたしますm(__)m

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【完結】捨てられ正妃は思い出す。

なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」    そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。  人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。  正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。  人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。  再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。  デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。  確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。 ––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––  他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。  前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。  彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。  

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

処理中です...