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過去回想のモブ編
第20話 襲撃ー対召喚獣戦4
しおりを挟む【貴様ぁ、許さんぞぉ】
自爆によるダメージからある程度回復した黒龍は、怒り狂った表情でダリウスを睨んだ。
しかし、ダリウスは冷静に黒龍を観察していた。
(まぁ、黒龍からすれば俺達は矮小な存在らしいからな。
そんな格下認定している奴らからコケにされればブチ切れるだろうな。
俺の知ったことじゃねーがな。
だから、そのまま冷静さを失っててくれよ。)
「それなら俺を倒してみな。
〈火弾〉、〈石弾〉、〈氷弾〉」
ダリウスは初級魔法を連続で発動させていく。
【牽制のつもりかのぅ、片腹痛いわ。〈圧風〉】
黒龍が〈圧風〉を発動させると、ダリウスの放った魔法は失速し黒龍に届く前に地面に落ちた。
「おっと」
ダリウスは急いでその場から離れ、〈圧風〉の影響範囲から脱した。
【むっ、〈圧風〉の間合いがバレたじゃと。
あじな真似をしよるわ。】
ダリウスが〈圧風〉の間合いを見切れるようになったのは魔力の流れが見えるようになったおかげだ。
1度目は初見だったので防ぎようが無かったが、今回は2度目。
しかも、その攻撃を可能性に考慮していたためにスムーズに避けることが出来た。
「はっはっ、1度通じたからって2度通じると思うなよ。」
ダリウスは大声で黒龍を煽る。
(よしよし、いいぞ。もっと怒れ。
こっちとしてもその方が誘導しやすい。)
【なら、これも躱してみよ。】
そう言って黒龍は右手を横薙ぎに振るうと不可視の斬撃が放たれた。
「それはもう見た。」
魔力の流れが見えるダリウスは跳ぶことで横薙ぎの斬撃を躱した。
しかし、黒龍の攻撃はそこで終わりでは無かった。
ジャンプ中のダリウスに黒龍の尻尾が襲い掛かる。
「ちぃっ。〈掌握〉、<風壁>」
ダリウスの〈掌握〉によって、黒龍の尻尾の動きが一瞬止まる。
その隙をついて<風壁>を踏み台として使うことで、ダリウスは辛うじて尻尾の攻撃から逃れた。
【儂の口を閉じた魔法じゃな。
厄介な魔法じゃが、効果時間は短いのは致命的な欠点じゃぞ。
警戒さえしておれば、おそるるに足りんわい。】
黒龍は愉悦そうに笑う。
実際ダリウスの使う〈掌握〉の欠点は持続性の無さだ。
この魔法は空間を一時的に歪ませる魔法。
エドワードと共に<召喚>などの魔法を研究している時に身につけた魔法であり、魔力消費が激しい。
そのため、魔力食いの癖に効果が一瞬というピーキーな魔法なのだ。
だが、初見殺しとしては抜群のこの魔法を、ダリウスは一瞬の隙が勝敗のカギとなる近接戦で使ってきた。
今回はその経験が活きた。咄嗟に〈掌握〉を出すことで黒龍の攻撃を躱すことが出来たのだから。
「さて、今度はこっちの―――。」
反撃だと言いかけてダリウスはバランスを崩して倒れかけた。
(なんだ?急に身体が重くなった。
<身体強化>が切れている!?)
常に発動状態にしていた<身体強化>が切れていた。
「<火弾>」
初級魔法を詠唱するが発動しない。
「クソっ」
そう言って、ダリウスは奥歯をぐっと噛みしめる。
ダリウスの顔は先ほどの自信満々な表情から不安と焦りの表情に変わっていた。
(このタイミングで時間切れかよ。)
そう、ダリウスのスキル<最後の蛮勇>の効果が切れたのだ。
【カカカッ、魔力切れかのぅ?
自分の魔力管理もできんとは未熟者よ。
自らの不出来を嘆いて死んでいけ。】
「かかったな。」
ダリウスはニヤリと笑う。
黒龍はダリウスの反応を見て攻撃を中止して、後ろを振り返る。
黒龍が見たのは光輝く槍が高速でこちらに向かってきている様子。
しかし、黒龍は動揺することはなかった。
【フハハッ、残念じゃったな。】
黒龍は俊敏な動きで身体を捻って光る槍を躱した。
「馬鹿な。どうして避けれる?」
思わずダリウスは叫んでいた。
【見くびってもらっては困るのぅ。
儂は罠の類には敏感でのう。
お主と戦っておる時から疑問だのじゃよ。
先ほどまでと違い、魔法による牽制ばかりで近接戦を仕掛けてこないとな。
こちらから嗾ければすぐに距離を取るではないか。
そこまでわかれば後は単純じゃ。
お主が近づかないのには理由があるはず。
遠距離からの強力な魔法による攻撃に他あるまい。
じゃから、儂はお主に煽られた振りをしながら仕掛けてくるのを待ったというわけよ。】
そう、ダリウス達の遠距離攻撃という策は黒龍に見破られていたのだ。
カカカッと高らかに笑う黒龍、一方で策を見破れたダリウスは膝をついて項垂れた。
***
時間は少し遡る。
ダリウスと別れたエドワードは黒龍の戦いを一望できる丘の上に来ていた。
距離を取ったのは黒龍に準備を悟られないためだ。
エドワードは緊張していた。
これから準備する雷魔法はエドワードが現在練習中で未完成の代物。
威力は<雷撃>よりも遥かに上だが、多くの魔力と精緻な魔力制御が必要になる。
そして、練習中にこの魔法の成功率は1%ほどしかなかった。
(ビビんな。腹をくくれ。
ここで完成させなきゃ、イーレ村はおしまいだろ。
多分、僕も含めてレイン以外の皆は殺される。それだけはさせない。)
チラッと眼下を見れば、ダリウスが複数の初級魔法を発動させ黒龍を誘導しているではないか。
「おいおい、まじか。」
エドワードは思わず呆気にとられていた。
初速の早い初級魔法を複数ほぼ同時に発動させることはエドワードでもできない。
レインボーワールドの中でも魔人が2種類の初級魔法を連続発動できるのが精々であり3種類以上は居なかった。
「あれでモブ以下の存在だったとか、ゲームじゃわからないもんだな。
まぁ、最後の蛮勇してのことだからダリウスは例外か。
さて、ちゃんと誘導してくれてるみたいだな。後は僕次第だ―――。」
エドワードは、独り言を呟きながら、魔力を右手に溜めていく。
少しして、エドワードは苦悶の表情に変わっていった。
右手に溜めた魔力を雷魔法に変換していくのだが、バチバチとスパークしてうまく制御できない。
(くそっ、魔力が暴れている。
雷魔法はこの世界に無かった新しい魔法だからか?
そういや、レインボーワールドの世界では魔法は世界の理に組み込まれているという設定だったな。)
エドワードはレインボーワールドの設定を思い出していた。
主人公アッシュが魔法学院の図書館で偶然発見した古書の中の記述だ。
『魔法はかつて1つであった。しかしそれは不完全で不安定なものだった。
やがて、世界の理に組み込まれることによって属性が生まれた。
これにより、魔法に安定性が生まれ完全となったのだ。
それは神にも冒しがたい聖域である。』
世界の理に組み込まれたことで、魔法は安定することができた。
一方で、エドワードが生み出したオリジナル属性である雷系の魔法はその理外にあるといえる。
つまり、もともとの不完全で不安定な魔法というわけだ。
低出力で発動できていた<雷撃>はエドワードの優れた魔力制御によってどうにかできていた。
しかし、より高出力となるととたんに暴れ馬のごとく制御ができなくなるのだ。
ちなみに世界の理についてレインボーワールドでは古書の記述以外に言及されていない。
制作側が伏線のように仕込んでいた設定だったのかもしれないが、製品版で語られることもなく死に設定となっている。
「くそっ、厄介な設定作りやがって。なめんなよ。<雷槍>」
エドワードはさらに魔力を高めていくと、光が収束していき槍の形に変わっていった。
だが、エドワードの制御に抗うように眩しくスパークが発生。
やがて光が落ち着くと、エドワードの頭上には光輝く雷の槍、<雷槍>が現れた。
「ふぅーっ。第一段階クリア。これで終わりだ、黒龍。」
撃ちだされた<雷槍>は、高速で黒龍に向かっていく。
だが、途中で黒龍に気づかれ、冷静に<雷槍>が躱されてしまった。
「ちっ、やっぱり気づいてたか。
なら<気配察知>。
………。
よし、捕らえた。第二段階クリア。」
エドワードはニヤリと笑う。
何やら黒龍はこちらの策を看破したと得意気に語り悦に浸っている様子。
「勝ちを確信するのが早すぎたな、黒龍。
その油断が命取りだ。
こっちは最初からお前が俺達の策に気づくことも考慮してきたんだよ。
さぁ、これで魔力もほぼスッカラカンだ。
持ってけ。<転送>」
エドワードの魔法が発動すると高笑いをしている黒龍の足元が発光したと思えば、次の瞬間、黒龍に<雷槍>が突き刺さっていた。
【ぎゃぁああぁぁ。馬鹿な。どういうことじゃ?
確かに儂は躱したハズ。なぜじゃああああ。】
黒龍の絶叫が響き渡り、やがて声が聞こえなくなった。
そして、超高圧の雷に撃たれた黒龍は身体中を痙攣させながら、ズドンと大きな音を立てて倒れた。
「どうやら騙し合いは俺達の方が一枚上手だったようだな。」
倒れている黒龍を見下ろしながらダリウスは笑っていた。
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